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死神さんと……ゲーム 中編

「捕まえた」



 目を開けると、クックの小さな手がコクの鎌を掴んでいた。

 手からは血が噴いている。


「放してよ。指が落ちるの見たくないよ」


 コクが鎌に力を込めた。

 クックは顔をしかめ、手からは血が滴ったが放さなかった。

 もういいやと、鎌を振り切る為に片手から両手に持ち変える。

 僅かに鎌を持つ力が緩んだ。

 クックはその隙を見逃さなかった。


 鎌の刀身を持ったまま体重と勢いを味方に、コクに向かって倒れ込む。

 わっと声を上げクックと一緒に倒れ、馬乗りの体勢に。

 コクの手から離れた鎌は頭の近くに落ち、カランと澄んだ音を立てた。


 殴ろうとして拳を握ると、力ではなく痛みが走りクックの動きが止まる。

 コクは下からクックを殴り付けた。


「重いよ。退いてくれないかな」


 コクは手を休めない。

 クックはせっかくのチャンスに攻める事が出来ずに、殴られ続けている。


 クックの意識は半分あるかないかだった。

 下からでは上手く力が入らず、倒しきれないもどかしさが、コクに別の攻撃方法を選ばせた。

 この体勢では見えないが、さっき落とした鎌が頭の上にあるのは解っていた。

 意識の怪しいクックを目で確認し、鎌を取る為に両手を上へ伸ばした。



「へへ、これを待ってた」



 言うと同時に、クックはコクの顔面に頭を叩き付けた。

 手を上に伸ばしていたコクに防ぐ術がなく、足がピンと上がり動かなくなった。

 クックも限界だったのか、そのまま動かなかった。



 決着が着いたようだ。

 ノワールが引き分けだと宣言した。

 俺はすぐに駆け寄り、コクの上で動かないクックを抱き、カタナとレンズの元へ戻った。


「大丈夫か? くそ、こんなに殴りやがって」


 クックの顔は、青アザと血で斑になっていた。

 首と掌の傷も、かなり深く見える。



「お兄ちゃん……ぼく……がんばった……かな?」


 怒りが邪魔をして、なにも言えず頭を優しく撫でて答えた。


「ほんとに頑張ったな。後は任せろ」


「助かりました。ゆっくり休んで下さい」


 カタナとレンズは、穏やかな顔で言った。

 クックは、少しだけ笑い目を閉じた。


 死神達を見ると、ネロがコクを抱き起こし文句を言っている。


「舐めすぎだ。さっさと起きろよ」


 薄目を開けるコクの顔の真ん中には、クックの一撃の成果が刻まれていた。

 いたたと顔を抑えるコクをノワールに渡した。

 ネロは目で合図をし前に出た。



「おら、次だ。こいよ死神殺(キル・タナトス)し」


 ネロはレンズに向けて指を立てて言った。

 レンズが睨むように目を細める。


「ご指名だ、負けたら許さねえからな」


「ええ、クックが頑張ってくれましたからね。負けなければいいので気が楽です」


 レンズは眼鏡を外し、俺の手に握らせ自信を込めて言った。


「勝ちますけどね」


 レンズの背中にかける言葉は、クックには悪いが決まっていた。


「レンズ、信じてる」



 背中越しに頷き、ネロの前に立った。




「私はな、お前を殺したくてここに来たんだよ。お前の事はよく知っている。死神殺(キル・タナトス)しのレンズ」


「光栄ですね。どなたから私の事を聞かれたのですか」


 レンズの態度を挑発と判断し、ネロは耐えるように左手で右手を抑えていた。


「チャルナという死神を覚えているな。昔、お前と戦った事があるはずだ」


 少し考え、態度を崩さずに答えた。


「申し訳ないのですが、逃げるような卑怯者の名前は存じておりません」


「どういう……意味だ……」


 ネロの全身が震えていた。


「死神との戦いにおいて逃がした事はあっても、負けた事はありません。後はご自分でお考え下さい」


 ネロの目が熱した石炭のように赤く染まった。


「母様は卑怯者なんかじゃない」


 怒り叫ぶネロに、レンズは涼しい顔をしていた。


「これはこれは、卑怯なのは血筋でしたか。正々堂々と戦えない訳ですね」


 この言葉に、ノワールとコクの顔から表情が消えた。


 ネロが奇声を発しながらレンズに突っ込んできた。

 いつ手にしたのか、ネロの手には両刃の鎌が握られている。

 腰の高さで真一文字に鎌を振るった。

 下に逃げるのも、後ろにかわすのも難しい一撃だった。


 レンズは下を選んだ。

 鎌の下を潜り、距離を詰め攻撃をする為に。

 身を沈めた瞬間にレンズの顔から血が舞った。

 当たる筈のない刃と痛みに気を取られ、次の一撃への備えが遅れた。

 真上から振り下ろされる鎌を、ギリギリでかわす。

 今度は腕から血が噴き、後ろに飛び距離を取った。

 額と腕には4本の斬線が引かれていたが、痛みを気にする様子は全くない。


「面白い鎌ですね。まともに当てる自信がない卑怯者にはお似合いの物です」


 小馬鹿にしたように言うレンズの顔には、哀れみが張り付いている。

 これでもかと怒りを誘っている。

 ネロにはどう聞こえたか、真っ直ぐに突っ込んできた。

 さっきと寸分違わぬ攻撃に、レンズの唇の端が上がった。

 かわさず半身になり、両手で迫り来る刀身を挟み掴んだ。

 今度は体に傷は付かなかった。


 レンズは最初の攻撃で、鎌の仕組みを見抜いていた。

 鎌の刀身には薄氷のように薄い刃が重なってあり、刀身がバラけて襲ってくると。


 両手で挟んだ刀身を後ろに引き、前に出たネロの足を払い、横倒しに倒れるネロの首を地面に着く前に右足で踏み抜いた。

 鈍い音に続き、口から血を吐き出す。

 骨を砕く感触を確かめ、レンズは鎌を捨てた。


「おめでたい方で助かりました。単調な攻撃、ありがとうございました」


 呻くネロを見下ろし、さっき言われたお返しと顔に出ていた。

 そして、ネロの命を断ち切る為に右足を振り下ろす。

 首に踵が当たる前に、足は見えないものに串刺しにされ止まった。

 勝利を確信し気が緩んでいたレンズは、痛みより予想外の事に動きが止まる。

 ネロが飛び起き、レンズに抱き付き腕を首に回し足を腰に巻きつけた。

 レンズが引き剥がそうと暴れたが、ネロの腕と足が離れる事を拒否した。


「めで……たいの……は……お前だ」


 耳元で囁くと同時にネロの体から肉を裂き、透明な刃が幾つも飛び出しレンズを貫いた。

 背から生える透明な刃は、血を吸って赤く染まっている。

 2人の口から血が溢れた。

 不可視の刃の正体は、ネロの骨から作られた物だった。


 ネロの首が後ろにだらりと下がり、真後ろを向いた。

 ノワールと逆しまに目が合う。

 口だけを動かし、なにかを伝え目を閉じ右手をレンズと自分の胸の前に移動させた。

 レンズは動けず、視点の合わぬ目で宙を眺めている。


 光が膨れ上がり、遅れて衝撃と爆風が吹き荒れた。

 磁石が反発するようにレンズとネロが反対の方向へ吹っ飛んだ。

 どちらも壁にぶつかり、ぼろ切れのように投げ出された。


 動かない2人を確認し、ノワールが引き分けだと宣言した。

 それを聞いてすぐに俺とカタナはレンズの元へ走り、あまりの惨状に目を覆いたくなった。

 体は貫かれた血で赤黒く染められ、爆発によるダメージで火傷も酷かった。


「レンズ、大丈夫か」


 触ってはいけないと判断し声をかけるが、レンズの反応はなかった。

 どうすればいいとカタナに聞くと、少し心配そうだが大丈夫だと言いレンズに声をかけた。


「そうだろ、レンズ。お前がこれくらいで参る訳ないよな」


「はい、少し油断しました。あの手のタイプが、相討ちを狙ってくるとは思わなかったので」


 薄く目を開いたレンズは、意外としっかりとした口調だった。


「クックに感謝しろよ。まあいい、後は任せな」


「ほんとですね。明日は給料日なので、お洋服でも買ってあげ……」


 咳き込みながら血を吐いた。

 強がって平然を装っていた限界が来たようだった。

 お疲れ様と気持ちを込めてレンズを抱き上げた。


「お姫様だっこ……。少し夢でした」


 辛そうな顔に嬉しそうな笑顔を浮かべるレンズを、クックの隣にそっと寝かせた。


「僕もしてほしいな」


 目を覚ましていたクックが傷だらけの顔で羨ましそうに見ていた。

 終わったらいくらでもしてやると約束しながら頭を撫でた。



 死神達も同じく、ネロの側に集まっていた。


「捨て駒と思っていたのは間違いでしたね。立派でした」


「姉様すごいね。死神殺(キル・タナトス)しと引き分けなんて」


 ノワールは首がおかしな方向へ曲がっているネロの頭を優しく戻した。

 ネロは満足気な顔で目を閉じた。



 残す最後のゲームに、カタナとノワールは凛とした足取りで前に出た。



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