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不安と……死神殺し 4

 死神殺(キル・タナトス)しの所以に、気にはなったが、今はそれどころではない。


「それは、後で聞くよ。どうして、助けに行くのもダメで、離れないといけないんだ?」


 自分のせいだと、責任を感じるクックも同じだった。

 時間がないと言いたそうだけど、説明してくれなければ納得なんて出来ない。


「いいですか、死神殺(キル・タナトス)しとは、単なるアダ名ではありません。その本質を知っているのは、私だけです。ですから、ダメなのです」


 それはそうだ、当の本人が知らないワケがなく、聞きたいのは、そんな事じゃない。

 先を促す俺とクックに、レンズは腹を括った。


「カタナには、絶対に言わないと誓って下さい」


 逆らえない程の悲痛な声に、解ったと言う他なかった。

 目を閉じて深く息を吐き、血に濡れた手で眼鏡を外し、俺に差し出した。


眼鏡(わたし)を、かけて下さい。心が1つなら、私の全てが見える筈です。恥ずかしいですが、語るには時間がないので」


 それは、前にカタナとも経験があった。

 あの時は、カタナの本体である刀を手にしたと同時に、想いと記憶が一瞬で流れ込んで来た。

 その条件として、想いが同じでなければならない。

 レンズは差し出した手を震わせ、不安で顔を曇らせている。

 ダメだったらと心配しているのか、俺には全く不安はない。


「女の子の過去を覗くのはアレだけど、好きだから、我慢できそうにないかもな」


 眼鏡を受け取り、躊躇わずにかけた。

 それと同時に、周りの景色が消え、胸の辺りからレンズの涙声が聞こえてきた。


「幸せです。身も心も1つに……。それより、ええと、は、恥ずかしいです。余計なのは見ちゃイヤですからね」


 顔を真っ赤にするレンズが浮かび、出来るだけ我慢はすると伝え、溢れる記憶に意識を委ねた。


「ダメです、40年前のだけに……」


 慌てるレンズの声を聞きながら、お目当ての記憶を探り当てた。

 それは、カタナがレンズを止める声から始まった。




「レンちゃん、止めようよ」


 人の通わぬ深い山を歩きながら、心配そうなカタナが、何度目かの制止を繰り返した。

 私の望みを知ってるのに、やたらと止めてきて、そろそろウザくなってきた。


「じゃあ、帰れば。着いて来てなんて、言ってない」


 困った顔をするカタナと、行く手を遮る獣道にイラ立ちが募っていく。

 せっかく、高いお金を払って得た情報だ。

 どれだけ、働いたと思っている。

 あの腐れアバズレに、ペコペコ頭を下げて、やっとの思いで死神の街の情報を買ったんだ。

 協力してくれた事には、感謝している。

 だけど、着いて来いとは言ってないし、暗い山道は怖いから、着いて来るのを我慢してるだけ。

 いざとなれば、私を止めるのはムリだし、たくさんの死神を始末、出来ると思うと、胸が高鳴る。

 必ず、私が死神を根絶やしにしてやる。

 そうすれば、好きな人を守れるんだ。

 それだけを想って、耳障りなカタナの声も、暗く湿った樹々の立てるざわめきも無視した。

 途中、不気味に響く鳥の声にカタナと抱き合ったり、見た事のない虫に驚かせられ、苦労の末に目的の街に辿り着いた。


 入り口から、そっと中を覗くと、人間(ひと)と変わらない暮らしをしている死神達が見えた。

 小さな家が軒を連ね、通りの向こうには、お店と思しき物もある。

 街と謳っていた情報だったが、規模こそ大きいものの、文化レベルからは村を思わせた。


「わー、レンちゃん、見て見て。小さい子いるよ。死神さんの子供って、初めて見たね」


 子供が大好きなカタナが、敵地のど真ん中だというのに、隠れようともせずに手を振っている。


「死にたいのかよ。作戦を……」


 聞けよと言う前に、カタナが駆け出して行った。

 バカと毒づき、カタナを追った。

 子供に近付き、いくつと歳を聞いてるカタナの首根っこを掴む。

 急いで隠れようとしたが、突然に現れた2人を見て、蜘蛛の子を散らすように死神達が逃げて行った。

 危ないだろと言うと、だってと両手の人差し指を合わせて、不満そうに口を尖らせた。


「可愛かったから。つい」


 まだ、解ってないのか。

 その子供も殺しに来たというのに。


「全部、殺すから」


 この世の終わりみたいな顔をして、カタナが捲し立てた。


「ダメだよ。あんなに可愛いのに。なにも、しないよ。ね」


「ね、じゃないから。その子供が成長したら?」


 きっと大丈夫という、保証のない言葉を聞かなかった事にして、街を見渡し死神の数を予測する。

 死神の死を願う私の目には、遮蔽物を透過して探す事が出来た。

 まだ、完璧ではないけど、いつか極めてみせる。

 ざっと見ただけで、嬉しさが込み上げる数がいた。

 たくさんの獲物に、1人たりとも逃がす気はないと、嬉しさと共に心に決めた。

 さて、どこからと目移りしていると、最初の獲物が自ら近付いてきた。

 一目で、ある程度の実力があると解り、見せしめには丁度よかった。

 カタナが怖がり、私の背に隠れた。


「この街を任されています。ザラームと申します。ご用件をお伺いします」


 上品にすました表情と、態度が気に障る。

 なにより、大きな胸にムカついた。

 私のキライなタイプの条件を、全て持っている。

 こんな奴と面倒なやり取りをするつもりは、私にはない。

 答えは短く、シンプルに。


「1匹目」


 眼鏡に手を置いて、時去(ときさり)で加速を。

 肉眼で追える速度を容易く越えて、ザラームの背後に回る。

 この速度での攻撃は、例えどんな物でも、命を砕く凶器と化す。

 絶対の自信を込めて、首を狙い右足を叩き付けた。

 鈍い音が伝わってきたが、狙った首ではなく、当たったのはザラームの上げた右腕だった。

 こいつ、私の攻撃を受けやがった。

 戦闘において、自分の描く予想図が破られたのは、これが初めてだった。


「っつ、見境なしですか。それなら」


 ザラームの右腕から発せられる力に、勘がヤバいと騒ぎ立て、カタナの側に戻った。

 怯えるカタナをどうするか、守りながらでは危ない。

 逃がそうと視線をずらしたスキに、ザラームが突っ込んできた。

 速いと驚き、カタナを突き飛ばす。

 来いと構えるが、ザラームの狙いはカタナだった。

 ふざけやがってと、考えなしに向かってしまった。

 すました顔に笑みを張り付け、ザラームは振り返り様に鎌を振った。

 寸での所でかわし、カタナの側に。


「レンちゃん、怖いよぉ」


 肩を抱いて震えるカタナを見て、ザラームへの怒りが燃え上がる。

 くそっ、カタナを怖がらせやがって。

 マジで殺ってやる。


「ビビんなよ、あいつ殺すから」


 カタナを狙った事を後悔させてやる。

 出せる最高の速度でザラームの背に回り、死ねよと殺意と拳を叩き込む。

 またも、受けられたが、こいつが死ぬまで、手を止める気はない。

 休む間を与えず、息の続く限りに攻撃をした。

 だが、反撃こそされないが、全ての攻撃を防御された。

 だんだんと、面倒になってくる。

 最初の一匹から、こんなに手こずるなんて。


 ザラームを見ると、肩で息をしている。

 もう少しだと、焦りから攻撃が大振りになってしまった。

 ミスを許されず、拳をかわされ、右腕を掴まれた。


「これしか……。飲みなさい、暗閉檻(ダークネス)


 目の前に闇が膨れ上がり、背筋を伝う冷たい恐れに腕を振り払うが、刺し違えるつもりのザラームの覚悟の方が勝っていた。


「レンちゃん」


 やられると思った瞬間、カタナが間に飛び込んで来て、突き飛ばされた。

 音もなくカタナが闇に飲まれ、掴まれていた右腕と共に小さな球になり地に落ちた。

 右腕の肘から先を持って行かれ、血が太い筋を引き、地面に血溜まりを作っていく。

 腕も痛みも、どうでも良かった。

 ただ、カタナを返せと、目の眩む怒りに満たされた。



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