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不安と……死神殺し 1

 学校が終わり、1人で待っているクックの為に真っ直ぐに家に向かって歩いていると、美味しそうな匂いがしてきた。

 なんとはなしに視線を向けると、向かいの通りに、たこ焼き屋さんの屋台が出ていた。


「タコヤキ、いかがですかー?」


 売り子さんの、元気な声が届いてくる。

 タコヤキも美味しそうだけど、立ち止まる程の美人だ。

 たまにタコヤキも食べたいけど、カタナの夕食もあるしと、迷って止めておく。

 キレイなお姉さんを見れてラッキーと思いながら、今日の夕飯はなにかなと足早に家に帰った。



 家に着いてドアを開けると、理科室とプールの匂いが立ち込めていた。

 なんだろうと、顔をしかめてリビングに。


「ただい、うわっ、実験?」


 台所では、レンズが大きな鍋をかき回していた。

 なにをしているのか、眼鏡に光が反射していて、表情が読めない。


「お帰りなさいませ。少々、お待ちを」


 部屋に引っ込み、すぐに白衣を着て戻ってきた。


「はっーはっはっはっ。我の研究の成果が今宵、世界を震撼させる。どうですか?」


 ありがとう、わざわざ狂科学者(マッド・サイエンティスト)を演じてくれて。


「なにやってるの、対死神用の毒とか?」


「私の武器は、この身体のみです。それが、私の誇りなんです。これは、夕食ですよ。楽しみに待ってて下さいね」


 ウソだろ、詳しくは知らないけど、混ぜるなキケンな薬品の匂いがする。

 なぜ、今日に限ってレンズが料理をしているのか。

 それに、カタナはまだ仕事だとして、クックはどこに行ったんだろうか。

 聞いてみると、ニヤリと笑って教えてくれた。


「クックには、買い物を頼みました。もう、帰ってくると思いますよ。くっくっくっ」


 クックだけにと言って、笑いながら鍋をかき混ぜる。

 そうなんだと答えていると、ドアを開ける音が聞こえ、買い物袋を抱えたクックが帰ってきた。


「ただい、わわっ、魔女さん?」


「ご苦労様です。少々、お待ちを」


 俺の時と同じく部屋に行き、すぐに戻ってきた。

 戻ってきたレンズは、魔女をイメージさせるトンガリ帽子を被っている。


「ひっーひっひっ。私の使い魔は、漆黒のコウモリと死運びのカラス。お嬢さん、リンゴいる?」


 いらないと怖がって、クックが俺の背に隠れた。


「そうですか、買い物ご苦労様でした。これで、魔法薬じゃなかった、美味しい夕食を作れます」


 ごめん、なんて言ったの。

 魔法なんとかって聞こえたけど、それは冗談だよな。


「お兄ちゃん、僕こわい」


 安心してと言いたいけど、俺もかなり怖い。

 クックが買ってきた物を、楽しそうに刻んで鍋に入れていく。

 不気味に笑うレンズに怯えていると、玄関からドアを開ける音が聞こえてきた。


「あー、疲れ、なっ、錬金術?」


 目を白黒させるカタナに、レンズは考え込んでしまう。


「申し訳ないのですが、錬金術師の服装って、どんなですか。笑い方も、教えて下さると助かるのですが」


「知らねぇし、なにやってんだよ。素人には、賢者の石はムリだって言っただろ」


 そんな会話をした事があるのかと、目眩がする。


「ご安心を。錬金術は、台所から始まったという説があります。祖は料理なのですよ」


 全く安心が出来ないし、普通に料理をすればいいよね。

 止めさせてと、クックと一緒にカタナに頼む。


「あ、ああ。あれだよ、いいんじゃないか」


 なぜか、らしくなく歯切れが悪い。

 とりあえず、なにを作っているかだけでも、確かめてみた方がよさそうだ。

 鍋から立ち上る煙のせいで、耳の聞こえが悪い気がするし、目が霞んできているから。

 直で聞くのもアレだしと、クックに赤いタオルを頭に被せてあげる。

 ほら、赤ずきんちゃんクックの出来上がり。

 キョトンとするクックに、どう聞けばいいか教えた。

 うんと、大きく頷いて、トコトコとレンズの側に。


「ねえ、レンズさん。どうして、耳がキーンってするの?」


「それはね、入ってる物のせいで、自律神経がダメージを受けてるからよ」


 この部屋にいては、危ないのかも知れない。


「ねえ、レンズさん。目が痛いのはどうして?」


「それはね、私も我慢しているのよ」


 涙が浮かんできて、いよいよヤバくなってきてる。

 目を擦ってから、最後の質問を。


「ねえ、レンズさん。どうして、お口を開けて笑ってるの?」


「それはね、上手く出来た喜びと、お前に食べさせるタメさー。はい、完成です」


 とっても、ノリノリで笑ってる。

 料理に見える儀式が終わったせいなのか、立ち込めていたイヤな匂いが消えていた。

 不思議そうにクックがキョロキョロして、カタナが口を押さえていた手を放した。

 みんな動けずに、盛り付けられていく料理を見ていた。


「お待たせ致しました。今日の夕食は、みんな大好きなカレーですよ。それと、栄養バランスを考えてのサラダです」


 サラダは割りと普通に見える。

 問題は、カレーだ。

 ルゥが緑で、よく言えばグリーンカレーだけど、色が毒々しすぎてて怖い。

 もはや悪意すら感じる色に、誰も食べられない。

 なんとか、サラダだけで済ませられないかと、頭を働かせる。

 よし、サラダを誉めて食べまくり、カレーを食べる前にお腹がいっぱいです作戦だ。


「このサラダ美味しそうだね。なにサラダかな?」


 よくぞ聞いてくれましたと、眼鏡の奥の目を光らせる。


「これは、レンズさんの気まぐれキノコサラダです」


 どこにキノコが入っているのか、姿は見えない。

 キノコは苦手だけど、このカレーよりは遥かにマシだ。


「そうなんだ。キノコは、なにが入ってんの?」


「大丈夫です。キノコは入ってませんから」


 うーん、なんだろうか。

 首を傾げるクックに、ため息をつくカタナ。


「ゲット様は、キノコが苦手なのは知ってます。なので、入れませんでした」


「それって、キノコサラダって言わなくないか」


「気まぐれと、言いましたよね」


 気まぐれすぎだねと、クックがポツリと呟いた。

 それ以上は聞かずに、みんな考えていた事は同じみたいで、サラダに手を伸ばす。

 乱雑にカットされた野菜を、恐る恐る口に運ぶ。

 味は見た目の通りに、ごくごく普通だった。

 反応を伺うレンズに、美味しいよと伝えると、よかったと笑ってくれた。

 ほんとに、一生懸命に作ってくれたんだ。

 切っただけの野菜が、こんなに美味しく感じたのは初めてだ。

 それはそうだな、料理は愛情って言うから、不味いワケがない。

 ただ、絶対にカレーは食べないけど。


 サラダばかり食べる俺達に、レンズがカレーを勧めてくる。

 どうしようか、そろそろサラダが終わってしまう。


「だ、ダイエット中でさ、炭水化物は控えてるんだ」


 ズルくないかそれと、カタナを見ると、ごめんと視線を逸らされた。


「ウソなのは解ってますが、あえて乗りますね。ルゥだけをお召し上がり下さい」


 スタスタと台所に行き、大きな鍋を片手で持ってきて、カタナの皿にルゥを足した。

 完全に裏目に出てしまい、俺に助けを求めてるけど、ウソをついたカタナが悪い。


「あ、あれだよ。カレー粉もさ、小麦粉だから。ダメなんだよ」


「お気になさらずに。小麦粉は使っていないので」


 ふんふんと、鼻歌混じりにルゥを追加された。

 当たり前だけど、ウソはよくないねと、クックと顔を見合せた。


「そうだ、どうして、みんな食が進まないのか解りました」


 あれ、急に解ってくれたのか、これは食べ物じゃないと。

 うっかりしてましたと、苦笑いしながら冷蔵庫に向かう。


「もう、言って下さいよ。仕上げの特製ソースを知ってて、待ってたんですね。本当にすみませんでした」


 持ってきたのは、蛍光色の黄色い液体が入ったボウルだった。

 暗い場所でも、自ら光ってそうな色に、ソースが来る前に食べなかった自分を恨んだ。

 レンズを見ると、ソースの事を聞いてくれと顔に書いてある。

 山盛りのルゥを見つめるカタナが、機嫌を取ろうとして、それはなにと聞いた。


「レンズさんの、気まぐれマンゴーソースです。マンゴーは使っていませんし、きっと、幸せになれます。聞いてくれたカタナには、多めにかけてあげますね」


 どこまでも裏目に行ってしまう。

 もうダメだと、カタナが意を決した。


「ごめんな。一応、俺はさ、この家の食事の管理とかしてるつもりなんだ。悪く思わないで欲しいんだけど、ゲットが腹を壊したら、お前もイヤだろ。今から、他のを一緒に作ろう」


 これはウソではなく、俺の事を心配して言ってくれていると解る。

 うんうんと、クックが後押しをした。

 レンズは下を向いて聞いている。


「教えてやるからさ。一緒に美味しいカレーを作ろうな」


 そこまで聞いて、レンズが険しい目をして、カタナを睨んだ。


「言っている意味が解りません。カタナ、食べなさい。アレはいらないのですか」


 その瞬間に、カタナが顔を歪ませた。



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