郵便と……お願い 後編
消えるまでの時間を聞くと、もうすぐと返ってきた。
「だから、お兄ちゃんと2人で、お話がしたい」
それで、カタナとレンズを気絶させたのか。
クックの本当の力である終孤独は、付喪神を殺す為のものだ。
どおりで、あの2人が簡単にやられたワケだ。
「あとで、もう1人の私が謝ってくれると思うから。さ、お話しよ」
俺の腰にしがみついて寝ているベルに、アナタもねと言って手を離させた。
「私ね、お兄ちゃんにキライって言われて、消えると思ってた。だけど、想いが強くて……。ごめんね、ワガママな女で」
へへと笑う顔は、俺の大好きなクックだ。
「俺も、ごめんな。本気じゃなかったんだ。クックを止めたくて」
あの日から、ずっと謝りたかったんだ。
「ううん。みんなを、殺そうとしたんだよ。嫌われて当たり前だよ」
「もう気にしなくていいよ。あれから、どうしてたんだ?」
「なんて説明したらいいかな。うーん、簡単に言うと、ここで体を作ろうとしてた」
そんな事が出来るのかと、驚いて聞き返してしまう。
「でも、ダメだった。本体もなにもないから。色々やって、なんとか1つだけ、頑張れたの」
その色々とやったのが、他の幽霊を取り込む事らしかった。
途中に死神がやってきて、邪魔をされて大変だったそうだ。
「幽霊さん達は、みんな優しくて、私の力になって応援してくれた。ムリヤリなんかじゃないんだよ。死神は解ってくれなかったけど。で、今までかかって、終ったと思ったら、お兄ちゃんが来たの」
嬉しかったと、涙を滲ませた。
「……しくて……ゆめ……えて……じかん……」
聞き取れない言葉と一緒に、クックが抱きついてきた。
「…………」
聞こえない、なんて言った。
聞き返す前に、涙で濡れた唇を重ねられた。
目を閉じて、力の限りに抱きしめた。
きっと、刹那の時間しかなかった。
目を開けると、小さなクックが泣いていた。
「わ、笑ってた、もう1人の僕……」
なにも言わず、泣き止むまでクックを抱いていた。
どれくらい経ったのか、みんなが目を覚まし、なにやってると騒ぎ出す。
そこで、クックが裸なのに気が付いた。
大人から、いつもの体に戻ってしまい、下着が滑り落ちたようだ。
「は、は、裸でなにをやってたのですか。こんな場所でなんて、上級者すぎます」
レンズが怒りのテンションで、落ちていたリボンにしか見えない下着をクックに着けた。
さっきとは違う着け方に、こういうアレンジもあるのかと感心する。
「レンズ様は慣れてますね。これ、下着とは思いませんでした」
「こいつな、下着にはうるさいんだよ。ないくせにな」
「五月蝿いです。それより、なにしてたんです?」
なんと言ったらいいかと考えると、クックが答えてくれた。
「笑って見送ったんだよ。さ、帰ろ」
微笑むクックの顔を見て、3人とも誰をとは聞かなかった。
家に戻り、仕事の完了を伝える電話をかけた。
繋がるかなと思ったけど、すんなり通じた。
報酬は後で届くとだけ言われて、電話が切れた。
これからお楽しみタイムだしと、頭を切り替え、カタナのオモチャ制作に加わった。
「ここは、こうしてと」
俺が電話をしている間に、レンズが時去でホームセンターに行き、材料を買ってきていた。
プラスチックのケースを削ったり、ネジ穴を開けたりと、みんなで作るのは楽しい。
まあ、作っている物は、ちょっとアレだけど。
「そういえばさ、なんで急に、眼鏡洗浄機が羨ましくなったんだ?」
「だ、だってさ、お前……。なんていうんだ、アレ」
言い難そうなカタナに、ふふんと、レンズが眼鏡に手を置いた。
「トロ顔ですね、あとアへ顔もですね」
「そ、それ。お前さ、好きじゃんそれ。そんなエロ漫画ばっか持ってるし」
本を持ってるのを知ってただけじゃなくて、中も見てるのかよ。
「そうなんですか。言ってくれれば、私だって。ジャンルはなんですか?」
俺の部屋に向けて、ダッシュするベルを捕まえる。
「お兄ちゃんはね、胸が大きくて、子供っぽい顔にメガネさんが好きなんだよ」
もう、止めて下さい。
バレていた性癖に、恥ずかしくて消えてしまいたい。
「眼鏡洗浄機をやってる時のレンズをさ、お前メチャクチャ見てるから」
「私だけだと、フェアじゃないですから。こうやって協力してるんです」
「カタナのが上手く出来たら、次はね、スニーカーのを作るんだよ」
そ、そうと言うのが精一杯だった。
みんな真剣に作業をして、レンズのオッケーが出た。
「名付けて、刀……。なんですかね?」
ほんとに、なんだろうか。
出来た物は、刀の刀身に合わせた筒で、中は柔らかいシリコンが張られ、たくさんの大人のオモチャが、レンズの緻密な計算の基に仕込まれている。
簡単に言えば、ピッタリと刃に張り付く鞘かな。
「オナ……」
いやそれはと、ベルを止める。
「では、エッチな鞘としましょう。これは、餞別です」
カタナにローションを手渡し、エッチな鞘を立てた。
「も、持っててな」
ドモリながら、慎重にローションを流し込む。
男の俺から見たら、いや止めておく。
ゴクリと喉を鳴らし、カタナが本体である刀を抜いた。
戦いの時でも滅多に抜かないのにと、微妙な気分だ。
そして、エッチな鞘に、ゆっくりと刀を沈めていく。
「あっ……」
え、まだ半分も入ってないけど。
「ダメっ。もう……」
「ふふ、ゲット様。スイッチを、どうぞ」
「イヤっ、止めて」
いつも勝ち気なカタナが、蕩けた顔をして、イヤイヤと首を振っている。
なんだこれは、刀を鞘に納めてるだけなのに、信じられないくらいドキドキする。
異常なシチュエーションに、クックとベルも目を放せない。
涙を浮かべ歯を食い縛り、込み上げる快楽に抗うカタナを堪能して、スイッチを押した。
中に仕込まれたオモチャが振動し、更なる刺激が容赦なくカタナを襲った。
「ひっ……」
押し殺した悲鳴を上げて、気を失ってしまった。
レンズの時も思ったけど、ほんとに付喪神にとって本体は、特別なんだと改めて考えさせられる。
「初めてなら、耐えられませんよね」
エッチな鞘から刀を抜くと、カタナの体がビクッと震えた。
まったくと言って、レンズが丁寧に刀を拭いてあげて、本来の鞘に納めた。
満足そうに寝ているカタナを寝室に運び、片付けをしていると、レンズが難しい顔をした。
「欠点がありました。これ、洗うの面倒ですね」
なるほど、それは改良の余地がある。
「付喪神さんが、すっごく羨ましいです」
なんでそうなるのか、ベルはキラキラした目をしていた。
「そうですか。お土産にどうぞ」
なぜか気を良くしたレンズが、ローションを2つあげた。
「わー、私とスクちゃんの分ですね。ありがとうございます」
嬉しそうにお土産を持って、継扉の鍵を回し帰って行った。
「今度は、私です」
もちろん、ローションを持って、お風呂に消えて行く。
なんだかなと、クックと顔を見合わせた。
すぐ後に、お風呂で気持ち良さそうにノビているレンズを寝室に運んだ。
「もう、ヌルヌルで気持ちワルい。まあいいや。次は、僕だよ。お部屋で待ってて」
クックもあるのかと、部屋に戻ろうとすると、玄関の方から物音が聞こえてきた。
なんだろうと行くと、郵便受けに小さく折り畳まれた紙が入っていた。
部屋に戻り、紙を開いてみた。
お兄ちゃん、大好き。
忘れないでね。
どうやって、書いたのか。
それに、ここに届いたのも謎だ。
ただ、誰が書いたのかだけは、すぐに解った。
嬉しくて、寂しくて、忘れないよと呟いた。
「泣いてるの?」
顔を上げると、クックが例の下着を着けて、心配そうな顔をしていた。
「逆だよ、笑ってたんだ」
「そっか。見て」
少し恥ずかしそうだけど、大人クックと同じ着け方をしていた。
「もう1人の僕にね、言われたの。負けるな、自信を持てって。だからね、カタナにもレンズにも、絶対に負けないから。僕を……ちゃんと、見て」
ああと答えると、首に結んだリボンの端を指差した。
見たかったら、引っ張れという事かな。
それは、見たいに決まってる。
迷わずにリボンを引くと、ハラリとほどけて、隠されていた体が見えなかった。
なんだその、思わせ振りなフェイントは。
「へへ、イイ女はね、簡単には見せないの。残念でしたー」
やっぱり恥ずかしかったのか、おやすみと言って、慌ただしく部屋から出て行ってしまいました。
きっと、大人クックの入れ知恵ですね。
下着のズルい着け方だけは、ほんとに余計でしたが、ありがとうと言いたいです。