表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/112

郵便と……お願い 後編

 消えるまでの時間を聞くと、もうすぐと返ってきた。


「だから、お兄ちゃんと2人で、お話がしたい」


 それで、カタナとレンズを気絶させたのか。

 クックの本当の力である終孤独(ひとりぼっち)は、付喪神を殺す為のものだ。

 どおりで、あの2人が簡単にやられたワケだ。


「あとで、もう1人の私が謝ってくれると思うから。さ、お話しよ」


 俺の腰にしがみついて寝ているベルに、アナタもねと言って手を離させた。


「私ね、お兄ちゃんにキライって言われて、消えると思ってた。だけど、想いが強くて……。ごめんね、ワガママな女で」


 へへと笑う顔は、俺の大好きなクックだ。


「俺も、ごめんな。本気じゃなかったんだ。クックを止めたくて」


 あの日から、ずっと謝りたかったんだ。


「ううん。みんなを、殺そうとしたんだよ。嫌われて当たり前だよ」


「もう気にしなくていいよ。あれから、どうしてたんだ?」


「なんて説明したらいいかな。うーん、簡単に言うと、ここで体を作ろうとしてた」


 そんな事が出来るのかと、驚いて聞き返してしまう。


「でも、ダメだった。本体もなにもないから。色々やって、なんとか1つだけ、頑張れたの」


 その色々とやったのが、他の幽霊を取り込む事らしかった。

 途中に死神がやってきて、邪魔をされて大変だったそうだ。


「幽霊さん達は、みんな優しくて、私の力になって応援してくれた。ムリヤリなんかじゃないんだよ。死神は解ってくれなかったけど。で、今までかかって、終ったと思ったら、お兄ちゃんが来たの」


 嬉しかったと、涙を滲ませた。


「……しくて……ゆめ……えて……じかん……」


 聞き取れない言葉と一緒に、クックが抱きついてきた。


「…………」


 聞こえない、なんて言った。

 聞き返す前に、涙で濡れた唇を重ねられた。

 目を閉じて、力の限りに抱きしめた。

 きっと、刹那の時間しかなかった。

 目を開けると、小さなクックが泣いていた。


「わ、笑ってた、もう1人の僕……」


 なにも言わず、泣き止むまでクックを抱いていた。

 どれくらい経ったのか、みんなが目を覚まし、なにやってると騒ぎ出す。

 そこで、クックが裸なのに気が付いた。

 大人から、いつもの体に戻ってしまい、下着が滑り落ちたようだ。


「は、は、裸でなにをやってたのですか。こんな場所でなんて、上級者すぎます」


 レンズが怒りのテンションで、落ちていたリボンにしか見えない下着をクックに着けた。

 さっきとは違う着け方に、こういうアレンジもあるのかと感心する。


「レンズ様は慣れてますね。これ、下着とは思いませんでした」


「こいつな、下着にはうるさいんだよ。ないくせにな」


「五月蝿いです。それより、なにしてたんです?」


 なんと言ったらいいかと考えると、クックが答えてくれた。


「笑って見送ったんだよ。さ、帰ろ」


 微笑むクックの顔を見て、3人とも誰をとは聞かなかった。



 家に戻り、仕事の完了を伝える電話をかけた。

 繋がるかなと思ったけど、すんなり通じた。

 報酬は後で届くとだけ言われて、電話が切れた。

 これからお楽しみタイムだしと、頭を切り替え、カタナのオモチャ制作に加わった。


「ここは、こうしてと」


 俺が電話をしている間に、レンズが時去(ときさり)でホームセンターに行き、材料を買ってきていた。

 プラスチックのケースを削ったり、ネジ穴を開けたりと、みんなで作るのは楽しい。

 まあ、作っている物は、ちょっとアレだけど。


「そういえばさ、なんで急に、眼鏡洗浄機が羨ましくなったんだ?」


「だ、だってさ、お前……。なんていうんだ、アレ」


 言い難そうなカタナに、ふふんと、レンズが眼鏡に手を置いた。


「トロ顔ですね、あとアへ顔もですね」


「そ、それ。お前さ、好きじゃんそれ。そんなエロ漫画ばっか持ってるし」


 本を持ってるのを知ってただけじゃなくて、中も見てるのかよ。


「そうなんですか。言ってくれれば、私だって。ジャンルはなんですか?」


 俺の部屋に向けて、ダッシュするベルを捕まえる。


「お兄ちゃんはね、胸が大きくて、子供っぽい顔にメガネさんが好きなんだよ」


 もう、止めて下さい。

 バレていた性癖に、恥ずかしくて消えてしまいたい。


「眼鏡洗浄機をやってる時のレンズをさ、お前メチャクチャ見てるから」


「私だけだと、フェアじゃないですから。こうやって協力してるんです」


「カタナのが上手く出来たら、次はね、スニーカーのを作るんだよ」


 そ、そうと言うのが精一杯だった。

 みんな真剣に作業をして、レンズのオッケーが出た。


「名付けて、刀……。なんですかね?」


 ほんとに、なんだろうか。

 出来た物は、刀の刀身に合わせた筒で、中は柔らかいシリコンが張られ、たくさんの大人のオモチャが、レンズの緻密な計算の基に仕込まれている。

 簡単に言えば、ピッタリと刃に張り付く鞘かな。


「オナ……」


 いやそれはと、ベルを止める。


「では、エッチな鞘としましょう。これは、餞別です」


 カタナにローションを手渡し、エッチな鞘を立てた。


「も、持っててな」


 ドモリながら、慎重にローションを流し込む。

 男の俺から見たら、いや止めておく。

 ゴクリと喉を鳴らし、カタナが本体である刀を抜いた。

 戦いの時でも滅多に抜かないのにと、微妙な気分だ。

 そして、エッチな鞘に、ゆっくりと刀を沈めていく。


「あっ……」


 え、まだ半分も入ってないけど。


「ダメっ。もう……」


「ふふ、ゲット様。スイッチを、どうぞ」


「イヤっ、止めて」


 いつも勝ち気なカタナが、蕩けた顔をして、イヤイヤと首を振っている。

 なんだこれは、刀を鞘に納めてるだけなのに、信じられないくらいドキドキする。

 異常なシチュエーションに、クックとベルも目を放せない。

 涙を浮かべ歯を食い縛り、込み上げる快楽に抗うカタナを堪能して、スイッチを押した。

 中に仕込まれたオモチャが振動し、更なる刺激が容赦なくカタナを襲った。


「ひっ……」


 押し殺した悲鳴を上げて、気を失ってしまった。

 レンズの時も思ったけど、ほんとに付喪神にとって本体は、特別なんだと改めて考えさせられる。


「初めてなら、耐えられませんよね」


 エッチな鞘から刀を抜くと、カタナの体がビクッと震えた。

 まったくと言って、レンズが丁寧に刀を拭いてあげて、本来の鞘に納めた。

 満足そうに寝ているカタナを寝室に運び、片付けをしていると、レンズが難しい顔をした。


「欠点がありました。これ、洗うの面倒ですね」


 なるほど、それは改良の余地がある。


「付喪神さんが、すっごく羨ましいです」


 なんでそうなるのか、ベルはキラキラした目をしていた。


「そうですか。お土産にどうぞ」


 なぜか気を良くしたレンズが、ローションを2つあげた。


「わー、私とスクちゃんの分ですね。ありがとうございます」


 嬉しそうにお土産を持って、継扉(ゲート)の鍵を回し帰って行った。


「今度は、私です」


 もちろん、ローションを持って、お風呂に消えて行く。

 なんだかなと、クックと顔を見合わせた。

 すぐ後に、お風呂で気持ち良さそうにノビているレンズを寝室に運んだ。


「もう、ヌルヌルで気持ちワルい。まあいいや。次は、僕だよ。お部屋で待ってて」


 クックもあるのかと、部屋に戻ろうとすると、玄関の方から物音が聞こえてきた。

 なんだろうと行くと、郵便受けに小さく折り畳まれた紙が入っていた。

 部屋に戻り、紙を開いてみた。



 お兄ちゃん、大好き。

 忘れないでね。



 どうやって、書いたのか。

 それに、ここに届いたのも謎だ。

 ただ、誰が書いたのかだけは、すぐに解った。

 嬉しくて、寂しくて、忘れないよと呟いた。


「泣いてるの?」


 顔を上げると、クックが例の下着を着けて、心配そうな顔をしていた。


「逆だよ、笑ってたんだ」


「そっか。見て」


 少し恥ずかしそうだけど、大人クックと同じ着け方をしていた。


「もう1人の僕にね、言われたの。負けるな、自信を持てって。だからね、カタナにもレンズにも、絶対に負けないから。僕を……ちゃんと、見て」


 ああと答えると、首に結んだリボンの端を指差した。

 見たかったら、引っ張れという事かな。

 それは、見たいに決まってる。

 迷わずにリボンを引くと、ハラリとほどけて、隠されていた体が見えなかった。

 なんだその、思わせ振りなフェイントは。


「へへ、イイ女はね、簡単には見せないの。残念でしたー」



 やっぱり恥ずかしかったのか、おやすみと言って、慌ただしく部屋から出て行ってしまいました。

 きっと、大人クックの入れ知恵ですね。

 下着のズルい着け方だけは、ほんとに余計でしたが、ありがとうと言いたいです。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ