郵便と……お願い 前編
学校から戻ると、なにか良い事でもあったのか、クックが上機嫌に出迎えてくれた。
「ただいま。ゴキゲンだね」
「うん。郵便屋さん待ってたの。お兄ちゃんが帰ってきたのも嬉しい」
お帰りと笑って、通販でお買い物をしたのと教えてくれた。
「そうなんだ。なに買ったの?」
「へへ。お楽しみだよ」
うーん、俺も楽しめる物なのか。
食べ物じゃないよな。
聞くよりも、一緒に届くのを待つか。
早くとワクワクしながら時計を気にするクックを眺めていると、インターホンが鳴り響いた。
「きたね。僕でるから」
可愛らしいお財布を持って、玄関に駆け出して行った。
代引きとか、ちゃんと解ってたんだな。
ほんと、なんだろうか。
「お兄ちゃん、ちょっときて」
玄関から困ったような声で呼ばれた。
あれ、お金が足りなかったのかな。
一応と、財布を持って玄関に行くと、腰の高さくらいの大きな段ボール箱が見えた。
「は、なに買ったの?」
「ううん。これ、僕が頼んだのじゃないよ」
配達員さんに聞くと、宛名は俺で代金引き換えで3万円と言われた。
まぁ、通販なら俺の名前を使うのは仕方ないけど、頼んだのはカタナかレンズか。
俺とクックの所持金を合わせても足りないから、引き出しの食費から拝借して、とりあえず代金を払った。
ご苦労様と配達員さんを見送り、クックと2人でリビングに荷物を運んだ。
「これ、なにかな?」
けっこうな金額だし、なんの相談もなしに買うのは、たぶんレンズだな。
「レンズかな?」
俺と同じ考えに至ったクックと、やっぱりと声を出して笑った。
それにしても、こんな大きな物はなんだろうと気になる。
他人の荷物を開けるのは、さすがに悪いと思う。
そうだと、伝票に内容物が記されているのに気が付いた。
「えーと、PC部品」
はぁ、もうなんとなく解りました。
パソコンなのと聞いてくるクックに、どう説明しようか迷ってしまう。
というより、PC本体より大きな箱って、なに買ったんだよ。
「レンズが帰って来てから、本人に聞こう」
ないとは思うけど、本当にPC関連だったらマズいから、俺からは言わない事にした。
そうだねと、クックは中身を気にしながら、自分の荷物はまだかなと時計を見ると、インターホンが鳴った。
「次は、僕のだね」
財布を持って玄関に駆け出して行って、またもや呼ばれる事に。
またかと玄関に行くと、今度は大きくはないものの、クックの頼んだ物ではないらしい。
代金を聞くと、3万円だと言われて、さっきと同じく食費から借りて支払った。
昨日がカタナとレンズの給料日で、それに合わせて買い物をしたと思われる。
つい昨日に補充した食費が、かなり減ってしまった。
これは、2人のお小遣いから戻してもらうからいいけど。
「僕のこないよ」
残念そうなクックに、待ってれば来るよと言って、伝票を見てみた。
「また、PC部品か」
組み立てるのかとツッコミを入れて、クックの荷物を待っていると、インターホンが鳴った。
「僕かな?」
不安そうに玄関に向かい、完全に元気を無くしたクックに、もうヤダと呼ばれた。
いい加減にしてよと思いながら配達員さんに聞くと、荷物は俺が頼んだ物だった。
忘れてたけど、仕送りが入りテンションが上がって、勢いで買ったアレだ。
お金を払い、荷物を受け取った。
「ごめん。これ、俺のだよ」
「……。なに買ったの?」
あー、なんだろね。
とっても言い難いかな。
「PC部品とか」
「ふーん。みんな、パソコン好きなんだね」
ジト目で見つめられて、なにも言えない。
開けようと言ってくるクックに困っていると、レンズが暗い顔をして帰ってきた。
「お話があるのですが」
お話って、これだよねと箱を指差した。
「あ、届いてたんですね」
ぱっと明るい顔をして、箱に抱き付いた。
箱に頬擦りして嬉しそうにしてる様子から、俺の思っている物じゃない気がしてきた。
ごめんな、完全にエロ系のグッズだと決めつけて。
「でさ、お話ってなに」
「は、はい。大切なお話なので、カタナが帰ってから、みんなで話し合いましょう」
そんなに大切な話か、荷物と関係があるのかもしれない。
もう1つの荷物はと聞いていると、丁度よくカタナが帰ってきた。
「あのさ、話があんだけど」
届いていた荷物を見せると、大切そうに胸に抱いて嬉しそうな顔をした。
「みんな揃ったし、話ってなに?」
罰が悪そうに、カタナとレンズが目を泳がせた。
お前が先に言えよと押し付け合って、カタナが先に口を開いた。
「あのな、更新を忘れてたんだ。あのアバズレに、半年毎に仕事の紹介料を払わなきゃいけないんだ」
私もですと、レンズも後に続いた。
「それを忘れてて、思い出したのは買い物をした後でした。なので、来月まで、食費から貸しておいて欲しいのですけど」
マジか、それじゃなくても、毎月の給料はピンハネされているのに。
「知らなかったよ。2人とも大変なんだね。あと、食費も大変というか、絶対に足りないけど」
「が、頑張ろうな」
「ええ、ここは、辛抱です」
また今月もお金がピンチになるのか。
貧乏神でも付いているのか。
いや、絶対に自分達のせいだよこれ。
「僕のはこないけど。みんな、なに買ったの?見せて」
みんな箱を抱いて、時が止まったよ。
はい、声を揃えて言います。
「PC部品」
「ウソつきは、ドロボウさんの始まりなんだよ」
速攻で見破られてしまった。
純心なクックの目に、ウソはダメだと俺が真っ先に箱を開けて謝った。
「エッチな本を買いました。ごめんなさい」
そうなんだと、みんなリアクションが薄い。
怒らないか聞くと、当たり前だよなと返された。
「高校生の男だろ。むしろ、お前は少ない方だと思うけどな。ベッドの下にあるやつとか」
あ、知ってたの。
いつからと、死ぬほど恥ずかしい。
「初めからですけど。殿方が、その手の本を買うのは当然です」
その、理解されてる感じを止めてくれ。
「お兄ちゃんの好みは、みんな知ってるから。はい、次はカタナとレンズだよ」
目を逸らす2人に、ほらと急かす。
「わかったよ。もう逃げも隠れもしねえよ。見な」
カタナが腹を括り、箱を開いた。
出てきたのは、いくつものオモチャだった。
使い方の解らない大人の方のだ。
「レンズのさ、眼鏡洗浄機が羨ましくてさ。なんとか、刀用に似たのを作れないかなと思って。俺も……女だから……」
珍しくモジモジしながら、顔を赤くしている。
どうやって作るのかは、聞かないでおく。
「ふふ、あの快楽は知ってしまうと、逃れられませんから」
同士を見る目で言ってるけど、そんな立派な事じゃない。
「最後はレンズだよ」
「もう、私も逃げません。どうぞ見て下さい」
大きな箱を開き、みんなで覗き込むと、なにかのボトルが見えた。
「なにこれ、ジュース?」
「違います。ローションです」
「悪い、これはないわ」
ごめん、それは俺も引いたよ。
「なにする物かな?」
「ヌルヌルなんです。眼鏡をヌルヌルにして楽しんでから、眼鏡洗浄機でキメます」
得意気に言うレンズに、どう言葉をかけていいか解らない。
「あーっ、お風呂をヌルヌルにしてたの、レンズだったんだ。お掃除が大変なの」
我が家のお掃除係りはクックだった。
そういえば、少し前にヌルヌルにしたの誰と言っていた。
「てめえ、後始末くらいやれよ」
「すいません。でも、貴女もきっと解りますよ。あの、全てを持って行かれるような快楽の後では、掃除なんて出来ないと」
カタナがゴクリと喉を鳴らした。
いやいや、掃除はしてよ。
「イヤだよ。ヌルヌルしてて気持ち悪いから」
これは、絶対にクックの味方につくよ。
それよりも、買いすぎだろ。
この先も掃除をするクックが可哀想だ。
「このメーカーのは、ずっと入荷待ちだったんです。なので、買い占めました」
もうダメだ。
今日はカタナも少し変だし、まともなのはクックだけだ。
俺が掃除するよとクックを慰めてから、食費をどうするか考える事に。
毎度の事ながら、バイトをするしかなくて、あの人に電話をかけた。
「すいません、お仕事はありませんか」
「あら、ゲットさんね。丁度よかった。この前の貸しを返して貰おうかしら」
そうだった、借りがあったんだ。
どんな仕事でも、断れそうにない。
「報酬は出すわ。みんな大好きな幽霊退治よ」
携帯から漏れる声を聞いた2人が、目眩に襲われている。
やらせて頂きますと言って、内容を教えて貰うと、心霊スポットに行って幽霊の退治との事だ。
ただ、恐ろしく強くて、先に頼んだ2組は帰ってこなかったらしい。
「どちらも、それなりに強い死神だったのだけど、失敗したわ。頼りは成功率100の貴方達だけなのよ」
頭の中で、止めておけと警報が鳴り響く。
断るかと切り出す前に、釘を刺された。
「断れば……解ってるわね。安心して、歴戦の死神も一緒に手配してるわ。詳しくは死神から聞いて」
言うだけ言われて、電話を切られた。
いつとか、聞く事はあったんだけど。
とりあえず、みんなに仕事の内容を話すと、カタナとレンズが怖いと震えてしまった。
クックだけは、荷物はまだかなと気にしていなかった。
「なんか、頼りになる死神も来てくれるって。きっと、大丈夫だよ」
怖がる2人を宥めていると、ピンポーンと鳴り、クックが立ち上がった。
「もう、誰もないよね?」
全員に確認を取ってから、僕のだと喜びながら玄関に向かった。
「お兄ちゃん……」
また違ったのか。
今度は、なに部品と玄関に向かうと、ニコニコ笑うベルが見えた。
もしかして、歴戦の死神ってベル?
固まる俺を心配したのか、カタナとレンズがやって来て同じ言葉を。
「チェンジで」