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日常と……探し物 後編

 公園を出てから、どこで鎌を無くしたのか聞いてみると、記憶がないときた。

 それに、鎌はある特別な方から作ってもらった物で、目には見えないらしい。

 どうやって探せばと途方に暮れてしまう。


「新しいのって、作ってもらえないの?」


「ムリかな……。チャルナ様は……もういないから」


 クックの何気ない質問に、ファルは悲しそうな顔をした。

 あれ、チャルナって3姉妹のお母さんだよねと、クックと顔を見合わせた。


「そのチャルナって、元は統治者(ロード)だったりする?」


「うん。なんで知ってるの」


 やっぱり、俺達の知ってるチャルナだ。

 元気にしてると、教えてもいいものか迷ってしまう。

 暗殺を止めさせるのに、死んだ事になってるから。

 とりあえず、どんな関係か聞いてから判断するかと決めた。

 俺とクックの煮え切らない態度に、ファルの方から聞いてと昔話をしてくれた。



 ファルは、チャルナの護衛の1人として仕えていた。

 聡明で優しいチャルナに絶対の忠誠を誓い、側に居られるだけで幸せだった。

 鎌は忠誠の証などではなく、誕生日のプレゼントとして頂いた大切な思い出でもあった。

 永遠に続くと思っていた幸せな時は、15年前にある付喪神によって壊された。

 戦いに敗れ、重症を負い屋敷に戻ってきたチャルナを見て、仕えていた者達は激怒した。

 そして、終わりがすぐにやってきた。

 恥を晒した咎により、死神としての全てを剥奪されてしまった。

 チャルナが止めるのも聞かず、仕えていた者達は敵討ちに向かい、誰も戻っては来なかった。

 ファルだけは最後まで側にいて、別れの言葉を聞かされた。


 そんな顔をしていては、可愛くないですよ。

 側に居てくれて、ありがとう。



「だからね、あたしは可愛くないから、マスクで顔を隠してるの」


 それ意味が違うよ絶対に。

 それに、その付喪神ってレンズだよな。

 なんて言っていいかと、クックも困ってる。


「チャルナ様と別れてから、ずっと続くと思ってた日常がね、どれくらい幸せだったか解ったの」


 レンズが俺の為とやってきた事で、ファルの幸せを壊してしまったんだ。

 ごめんと口を開く前に、クックが手を握って首を振った。

 その手からは、お兄ちゃんは悪くないと伝わってくる。

 俺を気遣う小さな手を握り返して、教えてあげようと決めた。


「チャルナは元気にしてるよ。子供もいてさ、レンズを恨んでなんかいないよ」


 言った途端にファルの目が鋭くなり、俺を睨んだ。

 さっきまでとは、別人のように目に剣呑な光が見える。


死神殺(キル・タナトス)しを……知ってるの?」


 ヤバい、ミスったかも知れない。


「いや、有名だからさ、な、なあクック」


「うんうん。名前だけだよ」


 そっかと睨むのを止めて、急に驚いた顔をした。


「えーっ、チャルナ様は生きてるの?」


 お、おうと答えると、泣き崩れてしまった。


「死んだって聞いたから、もういいやって、敵討ちに行ったの。大切な鎌は無くしちゃったけど、死ななくてよかった」


 ヤケになって、レンズに戦いを挑んだのか。

 待てよ、そのせいで無くしたなら、レンズに聞けば解るかもと思い付いた。


「死んだって聞いたのと、レンズと戦ったのはいつ?」


 涙を拭うのが忙しいファルは、少し考えて日付を教えてくれた。

 訃報を聞いたのは、俺達が温泉でチャルナを止めたすぐ後で、戦ったのはレンズの誕生日だった。

 どちらも、ピタリと思い当たる記憶がある。


 確か誕生日は、レンズが帰宅途中に死神と戦って、服がボロボロになったと言っていた。

 それで、カタナの用意していたプレゼントのエプロンドレスを、みんなで届けに行ったんだ。

 あの時に、戦ったのはファルだったのか。



「鎌の有りそうな場所が解ったよ。さ、行こう。チャルナと連絡が取れそうな、知り合いもいるんだ」


「ほんとに。どうして、あたしに良くしてくれるの?」


 これが俺に出来る、精一杯の償いなんだ。

 俺には、レンズを責められないから。

 心の中で謝り、目的の場所に向かった。




 レンズに服を届けたのは、公園にあるトイレだ。

 この公園で戦って服をダメにして、慌ててトイレに隠れたと思われる。


「ここで、戦ったと思うけど、少しでも記憶にない?」


「うーん、有るような、無いような。どうして、ここって思ったの?」


 勘かなと、適当に誤魔化した。


「お兄ちゃんのカンは、すっごく当たるんだよ」


 クックの助け船に、凄いんだと納得してくれたみたいだ。

 これ以上、余計な事を聞かれないように探す事にした。


 目に見えない鎌というのが、探す難度を至難のレベルまで上げている。

 他に方法がなく、木立が並ぶ端から手探りでゆっくりと歩いた。

 そういえば、チャルナは不可視の刃を使うんだった。


透地雷刃(クレイモア)の力で、作ってくれたんだね」


「そんなコトまで知ってるの、アナタはチャルナ様と、どういう関係?」


 なんて説明したらいいか、愛してると言った事はあるけど。


「友達だよ」


 俺の考えを読んだクックが、なんとなく強い口調でファルに言った。


「そうなんだ、じゃあ敬語の方がいいのかな。もしかして、無礼だったりし……いたっ」


 ゴンと音がして、見えない障害物にオデコをぶつけたようだ。


「よし、見つけた」


 ぶつけた先にある木に手を伸ばすと、見えはしないけど棒状の物があり、慎重に掴んで引き抜いた。

 ほらと痛がっているファルに、刀身の位置を手で確かめてから渡してあげた。



「チャルナ様の……。あたしの宝物」


 ポタポタと涙が落ちて、雫が手の位置で宙に止まった。

 よかったねと、クックは髪をちょこんと縛っていたゴムを外した。


「もうなくさないように、これあげる」


 鎌の柄があると思われる所に、ゴムを巻いてあげた。


「ありがと、もう絶対に無くさない」


 それでは不可視の意味がなんて、野暮な事は誰にも言わせない。

 これで、いいんだ。



 ファルが泣き止むのを待ってから、電話をかけた。

 直接チャルナにかけたいけど、たぶん携帯を持ってないし、3姉妹も同じだと思う。

 持っていたとしたら、番号を教えてくれる筈だ。


「怖がりの付喪神さんじゃなくて、モテモテのゲットさんね。また、お仕事が欲しいのかしら」


 やっぱり、この人は苦手だ。

 お金がない時にお世話になってるけど、感謝より苦手意識の方が強い。


「は、はい。えーとですね。チャルナと連絡を取りたいんですけど、なんとかなりませんか」


 温泉でチャルナに暗殺を止めさせた後に、レンズがこの人を紹介していた。

 そして、代わりの仕事を世話してもらった。


「ふふ、デートのお誘い。まあ、いいわ。今どこにいるのかしら?」


 場所を教えると、そこに居なさいと言われ、お礼を伝える前に電話が切れた。


「ここで、待ってろって。チャルナの力は知ってるよね」


空間移送(シフト)でしょ。え、ここに来てくれるの」


 たぶんと答えて、クックと手を繋いで、俺達は邪魔になるから帰るよと告げた。


「待って、お礼もなにもしてない。お弁当も、鎌も、チャルナ様の事だって。返せるものがないよ」


 しょぼんとするファルに、じゃあと言って顔からマスクを取った。


「お礼として、マスクを貰うよ。あと、最後に言われた言葉の意味を、チャルナに聞いてみて」


「うん、これを2人で食べながらね」


 リュックからお菓子の袋を出して、ファルの手に持たせた。


 じゃあねと、背を向けて別れた。

 ファルの声が聞こえてきたけど、振り返らなかった。

 もういいよねと、クックと一緒に走った。


 自分せいだと思えて、辛くてファルを見てられなかった。

 俺がいなければ、レンズはチャルナと戦わなくてもよかったんだ。

 息の続く限り走って、ごめんなさいと自然と口から溢れた。


「お兄ちゃんは悪くないよ。レンズも悪くない。でも、ウソついちゃったのはよくないかも」


「レンズを知らないって、ウソついたな」


 俺は嘘をついて逃げたんだ。

 お前のせいだと責められるのが、とにかく怖かったから。

 こんなのは、カッコいい男のする事じゃない。


「知らないって言っちゃったね。きっと、レンズはイヤだと思うから、内緒にしようね」


「ああ、口が裂けても言えないな」


「そうだ、それ貸して」


 持ったままだったマスクを渡すと、クックは自分に着けておどけて見せた。


「口が裂けても言わない女だよー。笑ってくれたら、下着を見せてあーげる」


 そんなに俺は、暗い顔をしてるのか。

 これは、笑わないといけないな。

 ムリヤリに口の端を上げて笑って見せると、サッと後ろに回っておぶさってきた。


「僕も、レンズが着てたみたいな下着を買うの。少しだけ、待っててね」


「それは、楽しみだ。……クック……ありがとな」




 クックをおぶったまま、お腹すいたとか、ファルはチャルナと会えたかなと、話ながら家に帰りました。


 家に着くと、カタナもレンズも帰って来ていて、どこに行ってたか聞かれましたが、クックと2人で遠足とだけ答えました。



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