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闘技と……手段 3

 一回戦の相手は、百合の女王 (ネコ)というアレなチーム名をしている。

 ネコさんってなにと聞くクックに、なんだろねと返す事しか出来ない。

 相手の3人は、可愛らしいネコさんの着ぐるみを着て、首に着いている鈴を揺らしながら、にゃんにゃんして手を振っている。


「レンズさまー、こっち向いてー」


 やっぱり、お目当てはレンズだ。

 必死に見ないようにするレンズに、相手の実力を低いと読んだカタナが、ノーダメージで行くぞと声をかけた。

 これ以上は、戦衣(ドレス)を減らす余裕がないから、それが出来ればいいけど。



 司会を務めるサガが、対戦カードを発表した。

 この闘技会では、一戦毎に相手をランダムに変える。

 これは、それぞれの能力には相性がある為に、対策をされては興醒めだという、主催者側の配慮だった。



 その結果、1戦目がカタナで、2戦目はクック、3戦目はレンズに決まった。

 先に2勝すれば3戦目をやらなくてもよく、レンズは小さくやったと呟いた。

 ツイてたなとレンズに声をかけて、カタナが前に出た。

 相手側のスズと呼ばれた選手は、レンズから目を離さず、前に出てカタナと対峙した。




 始めとサガの声が響くと、2人を中心に薄い光の幕のような物が正方形を形作り、一辺が10メートル四方の専戦場(バトル・フィールド)が現れた。

 専戦場には、中からはもちろん、外からも能力を通さず、選手も出る事は叶わない。

 いざとなれば、カタナの力で破ればというのも通用しない。

 どこまでもカタナの天敵である、幻想視人(シャーマン)の力が、この会場の全てに込められているのを、ルールブックで確認済みだ。

 ありがたい事に、ルールを守る限りは、カタナの力が制限されないのも確認している。




 露出が多すぎ、元がウエディングドレスか解らないカタナの腰の後ろには、本体の刀が横向きに括られている。

 ノーダメだと決意し、右手で柄を握り締め、カタナが走り出したと同時に、小さな鎌が首に食い込んだ。

 白盾(しらたて)の力でダメージはないが、突然の鎌の出現と、スズの速さに驚き動きが止まった。

 流れるような動きで止まった足を払われ、倒れた所に振り下ろされる足を、転がってやり過ごす。


 立ち上がりかけに、また鎌に襲われ、くそっと毒づき、苦し紛れに赤盾(あかたて)を纏った左手を振ったが、雑な攻撃にスズは余裕を持ってかわした。

 スズの戦い方と速さに、まるでレンズを相手にしているように感じ、だったらアレだなとカタナは口許を歪めた。



「舐めてたでしょ?ネコはね、気紛れだから、気分次第で攻手(タチ)にもなるニャン」


 小さな鎌を持った手を、愛らしく揺らしているが、目には殺意と欲情を浮かべている。

 スズの指摘に、カタナは悪かったよと返し、体から力を抜いて目を閉じた。


 その様に、諦めたとは判断せず、戦闘中にも関わらず使おうとしない刀を本体と当たりをつけ、必殺の一撃を見舞った。

 鎌の先が鞘に触れた刹那、カタナの手が鎌の刀身を掴んだ。


 カタナは過去の死神との戦闘経験から、ダメージを与えられないと判断した相手が、次に狙ってくるのは本体だと熟知していた。

 対応できない速さを持つスズに対し、目で追うのを止め、感覚を研ぎ澄まし、本体に触れる瞬間を狙っていた。



 掴まれた鎌に動揺し、離そうと引く前にカタナの手が伸び、滑るようにスズの手首を掴んだ。

 もがくスズの攻撃を涼しい顔で受け、逃がさないように万力のような力で手首を圧し、赤盾の力で赤く染まった拳を腹に叩き込んだ。


 拳が当たった場所から、スズの戦衣が溶けるように消え、生まれたままの姿を晒して膝をつく。

 カタナは僅か一撃で、スズの戦衣のポイントをゼロまで持っていった。


 負けを悟ったスズは、潤んだ目でカタナを見つめ、コロンと仰向けに寝そべり、全てを捧げるように服従のポーズを見せた。



「私の負けです。お好きなように、してニャン」



 え、なにがと、勝ったのに困惑するカタナに、観客達からの視線と歓声が集まった。

 サガがカタナの勝利を宣言すると、専戦場が消え、微妙な顔でスズに背を向け戻ってきた。




 色んな意味でスズが気になる俺は、よく見ようとするが、レンズに怖い顔で睨まれ、止めておく。

 ワケはなく、邪魔(モザイク)無しで見られるチャンスに、身を乗り出そうとして殴られた。



「あいつら、ふざけた格好してるけど、けっこう強者(ヤル)


 戦う前にノーダメを提案したはずのカタナは、見ろよと胸元の戦衣を指差し苦い顔をした。

 少しだけど、戦衣が削られている。

 恐らく、鎌でのダメージではなくて、足を払われて地面にぶつかったせいだ。



 向こうのチームはというと、裸のスズとジャレ合いをしていた。


「もう、スズはダメ猫ね。帰ったらお仕置きニャー」


 3人で仲良く、にゃんにゃんする様子を、固唾を飲んでガン見する観客達と、俺もと見ようとしてキツめに殴られた。



 裸のままで正座をさせられたスズの頬を、ペロリと舐め、行ってくるニャーと告げ、2番手のテイルは前に出た。


 気を抜くなよとカタナのアドバイスと、自分の番が来ないで欲しいレンズの祈りに、クックがうんと答え、俺の頑張れとの応援に送られ、前に出てテイルと向き合った。




 開始の合図が響き、2人が専戦場に包まれる。

 スクール水着を大胆にカットしてしまい、ビキニのようになっているクックを眺め、テイルは舌舐めずりをした。


「ねえ、私と、イイコトしない?ダメかニャー」


 イイコトってなにかなと少し考え、クックはヤダよと答えた。

 あーあ、振られちゃったと、残念そうな顔をして、じゃあと言うと、クックの耳元と目の前のテイルの2つの声が重なった。



「じゃあ、私とは?」


 テイルは眼前にいるはずと、解っていながら耳元をくすぐる声に、反射的に振り向かざるを得ない。

 振り返ると、首に突き付けられた鎌が引かれる所だった。


 わっと声を上げ、手を振り回し抵抗したが間に合わず、戦衣の消えたクックの胸元を見ながらテイルは距離を離す。


 それと同じく、観客達の喜びの歓声が上がる。

 痛みがないせいで、クックは自分の姿がどうなっているのか、気付くのが遅れてしまった。


 歓声の内容と、なんとなく風通しのよくなった胸元を確認して、わわっと慌てて胸に両腕を合わせて隠すが、もう見られた後だ。


 うーと唸って、恥ずかしがっているクックは、両手を封じられてしまった。



「ペッタンコは、大好物ニャー」


 満面の笑顔で、もっと見せろと言っている。

 ダメだもんと返し、テイルの力を分析しようと考えていた。

 また断られちゃったと笑いながら、じゃあと、さっきと同じように、目の前のテイルは動いていないはずなのに、クックの耳元に声が聞こえてきた。


 テイルの力は、二重存在(ドッペル)

 己の存在を2つに分け、視界の届く範囲に限り、自由にもう1人の自分を出現させる事が出来た。



「じゃあ、こっちの私に見せて」


 警戒はしていた、それに2度目にも関わらず反応が遅れ、クックの首に鎌から伝わる冷たい感触が通り抜け、全ての戦衣が消えた。


 代わりに、次のクックの反応は速かった。

 ペタンと座り込み、見ちゃダメと小さく声を出す。

 観客達からは、ゴクリと喉を鳴らす音がいくつも聞こえてきた。

 全ての戦衣を失ってしまい、幼いながらも必死に体を隠そうとするクックの姿は、Sっ気のある者にはご馳走でしかない。



 隠さないで見せてよと言われ、クックは真っ赤になってしまう。


「ぼ、僕は、お兄ちゃんのなの……見ちゃダメなんだよ」


 震えるクックを見つめ、サガがテイルの勝利を宣言し、専戦場が解かれた。



 トボトボと戻ってくるクックを、カタナが少しでも隠れるように抱いてあげた。

 俺もクックの前に立ち、壁の役割をする。

 見せろとか邪魔だと、観客達からヤジが飛んできたが知ったことか。

 ごめんねと謝るクックに、頑張ったなと、見ないように後ろ手で頭を撫でてあげた。



 テイルは上機嫌で戻り、青い果実もいいニャーと言いながら、正座をしているスズのほっぺを引っ張った。

 3番手のミネも、ほんとだニャと同意しながら、スズの耳を引っ張り遊び出す。

 イタズラをされているスズは、止めるニャンと言って、嬉しそうに笑った。




 クックを抱いているカタナが、解ってるなと、強い口調でレンズに問いかけた。

 チーム戦が終わる毎に、勝った側の戦衣は元の状態に回復される。

 少しでも早く、クックを裸から救う為に、瞬殺しろとのリクエストだ。

 大切な仲間をこれ以上、晒し者にはさせないと、レンズは怯えを押し殺し、いつもの凛とした顔を見せ前に出た。



 ミネはヒソヒソと、2人と話をしてから前に出てきた。



「レンズ様、その胸で洗濯した下着が欲しいのですけど、勝ったらいいかニャ?」



 意味の解らない、というよりは解りたくないミネの質問に、押し殺したはずの怯えがレンズに甦る。

 スズとテイルも、洗濯したいとか、下着でダシを取りたいと後押ししてくる。

 観客達も味方につき、洗濯させろと、ダシを取らせろの大合唱に。



 会場中から浴びせられる変態的(アレ)な要求に、どんどんレンズの顔が曇り、今にも泣いてしまいそうだ。

 この流れはマズイと、俺とカタナが言い返してやった。


「洗濯機の方が便利だ。それに、なにダシを取るつもりだ」


「下着は着けてねえし、脱水はどうすんだよ」


 俺達の声を聞き、レンズは泣き出してしまった。



「洗濯板じゃ……ないです……グス。少しだけど、ありますから。ダシも……取れません」


 レンズの泣き顔に、会場は静まり返り、みんなが食い入るように注目した。

 進行を務めるサガも例外ではなく、レンズに魅せられ動かない。

 早く始めろと大声で言うと、あ、ああと我に返り、開始の合図を出した。



 始まったというのに、まだレンズは泣いている。

 今は下着を着けてないんだねと、ミネが嬉しそうな顔をした。



「終わったら、下着をつけてもらって、ダシをとってから、洗濯する……」


 ニャを言う前に、ミネは頭から床に突っ込み、戦衣の全てを一瞬で失った。

 誰の目にも止まらずに、後ろからミネをぶん殴ったレンズは、ベソをかいたままだ。

 なにが起こったのか、理解が出来ないミネは動けないでいる。


 レンズの戦いが数秒で終わってしまい、失意の空気が漂う中、勝利を告げるサガの声が響き渡った。



「レンズの勝利により、愉快な付喪神さん達チームの勝ちとなりました」



 次を期待される大きな歓声が沸き、肩を落としたレンズが戻ってきた。

 サガの宣言と共に、戦衣が回復したクックが、レンズに心からのお礼を口にした。



 負けた百合の女王 (ネコ)チームは、横になったままのミネを、テイルが起こして、貴女もお仕置きニャーとにゃんにゃんして、会場の目を楽しませていた。



 勝てたから良かったけど、一回戦からかなり苦戦してしまった。

 全回復だと思っていた戦衣は、戦う前の状態にしか戻っていない。

 控え室で減らした分は回復しないみたいで、ハンデは最後まで続くのかと、先が思いやられる。

 ここにいるのが怖いと言うレンズに引っ張られ、ミネ達を見たかったけど、我慢して控え室に向かう事にした。




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