宝物と……アイス
カタナの作った夕食を食べて、みんなでテレビを見ていると、クックがアイスが食べたいと言い出した。
冷凍庫を探しても見当たらず、それを伝えるとクックが残念そうに顔を曇らせた。
じゃあ買いに行くかと、自然とクックと手を繋ぎ行こうとすると、カタナとレンズが間に入ってきた。
「クックだけ、ズリィ。俺も行くからな」
「な、なんですか、今の自然な手の繋ぎ方は」
カタナもレンズも慌てて準備をした。
クックは気にした風もなく、玄関でスニーカーを脱いでいた。
そういえば、そのスニーカーがクックの本体でしたね。
確か、お外では履かないんですよね。
えーと、裸足で行くんですか?
クックが外に出るのを見るのは今日が初めてですね。
いやいや、靴は履かないか聞いてみるしかない。
「他の靴持ってないから」
今までどうしてたと聞くと、外ではずっと裸足だったと返ってきた。
予想外の答えに、頭が色々と動き出す。
やっぱり、靴の付喪神だからこだわりがあって、特別な靴じゃないとダメなのかもしれない。
大変なんだねと言うと、更に予想外の答えが。
「僕、お金持ってないから」
涙が出そうです。
俺の悲しそうな顔を見て、どうしたのと首を傾げるクックが可哀想で可愛くて抱き締めました。
「お兄ちゃんが買ってあげるからな。今すぐ行こうな」
気付いてあげられなくてごめんと、気持ちを伝えるように腕に力を込めた。
どさくさに紛れて、クックの髪の匂いをクンクンしてしまう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
なにかを伝えたいのか、クックは俺の背中をトントンと叩いた。
「なんだい、お兄ちゃんになんでも言いな」
またクンクンを始める。
もう止まりません。
「えっとね、カタナとレンズが怖い顔してるよ」
背中になにかが刺さるみたいな視線を感じます。
怖くて振り返れません。
「今すぐ離れるか……いや、離してやる」
「玄関でなんて、信じられません」
本当にごめんなさい。
少しだけでいいので、お話を聞いて下さい。
クックの頭を撫でて、優しいお兄ちゃんの役を。
「クックは靴を持ってないんだよ。可哀想でさ、買いに行く約束をしてたんだ」
カタナとレンズの目は疑いの色に染まっていた。
1つ聞いていいかと言うので、はいと答える。
髪の香りを嗅いでいた事の説明をくれと言うので、土下座の体勢に入ろうとする前に殴られました。
クックの靴を買う為に靴屋さんに向かう事に。
カタナもレンズも、クックが靴を持ってないのは知らなかったらしい。
裸足で歩く姿を見てられなくて、殴られるのを覚悟の上でクックをおんぶした。
わーいと、はしゃぐクックを見て、カタナもレンズもおんぶについてはなにも言わなかった。
代わりに早く言えよとか、どうして言ってくれなかったのですか、なんて会話をしながらお店に着いた。
どんな靴がいいか真剣に選ぶ俺とカタナとレンズ。
可愛らしい靴を探す俺。
派手な靴を眺めるカタナ。
機能性を考えるレンズ。
これがいい、いやこれだ、いいえこれです、なんて三人で盛り上がる。
あれ?
当のクックがいません。
キョロキョロと探すと、ある靴を見つめているクックを見つけた。
側に行くと、あっと声が出た。
見ていたのは、同じ型のスニーカーの色違いだった。
はい、もうこれしかありませんね。
クックはポケットに手を入れて、ゴソゴソとやっていたが構わずにカタナとレンズを呼んだ。
「同じだな」
「同じ型の物ですね」
本当によかったです。
クックの気に入りそうな物が見つかって。
さあ、クックを裸足から救う為に会計を済ませましょう。
あれ、けっこうなお値段ですね。
みんなから離れ、財布の中身を確認するとお金が足りません。
ええと、思い出しました。
お寿司を食べたり、ドアを直したりしましたね。
男として本当に情けないのですがと前置きをして、カタナとレンズから借りる事に。
カタナもレンズもギリギリでした。
三人のお金を合わせて数えてみると、なんとか足りました。
よかったと、会計に向かうと、クックが首を振った。
「僕、いらないよ。いつか自分で買うから。ここに来たのも、見に来ただけだよ」
いいんです、クックさん。
買ってあげたいんです。
首を振り続けるクックを二人に任せ、会計を済ませた。
新しいスニーカーをクックに渡すと、いらないと言って、まだ首を振っている。
ここは、ビシッと決める所です。
とっておきの台詞を用意しました。
「クックが、このスニーカーを履いてる所が見たいな。嫌々でいいから、お兄ちゃんに見せてくれないかな」
言ってみて気付きましたけど、カッコよくないですね。
というより、なんか危ない人みたいですね。
店員さんが電話でなにかを話してます。
そういえば、まだお店の中でしたね。
なになに小さな子に嫌々でいいからと、なにかを頼んでいる不審者がいますと。
ああ、会計をしてくれたのとは、別の店員さんみたいです。
この場面だけ見たんですね。
ほんと、出来る店員さんですね。
カタナとレンズはもう店の外に出てました。
クックの手を取り、ダッシュしました。
近くの公園でカタナとレンズを見つけた。
置いて行くなんて酷いと文句を言おうと思ったけど、いらないと言っていたのに、袋をしっかりと握り締めるクックの小さな手を見たら、まあいいかと思えた。
「えとえと、ほんとにいいの?」
まだ言ってます。
なので、後押しです。
「そっか、じゃあ俺が貰うかな」
「そうですね、私が貰います」
「間をとって、俺にしよう」
打ち合わせでもあったように、三人でクックに手を差し出した。
「ダメ!!僕のだもん」
三人が同じタイミングで吹き出す。
「そうだよ、それはお前のもんだよ」
カタナはクックの頭を、くしゃくしゃと撫でた。
レンズはハンカチを濡らし、足を拭いている。
俺はスニーカーを箱から出し、クックの前に置いた。
クックはおずおずと、スニーカーを履いた。
「に、似合うかな?恥ずかしいよぉ」
大丈夫です。
とっても似合ってます。
それより、恥ずかしいなんて、クックの口から初めて聞きました。
やっぱり、靴には特別な思い入れがあるんですね。
顔を真っ赤にしてるクックは、恥ずかしそうに最高の笑顔と言葉をくれました。
「みんな、ありがとう。宝物が出来ちゃった」
みんなが満足です。
そこで、当初の目的を思い出しました。
アイス買いに行く所でしたね。
「お兄ちゃん、ちょっと来て」
俺の手を取って、走り出した。
カタナとレンズに、待っててねと手を振った。
着いた先はアイスの販売機だった。
クックの目的は解りますが、お兄ちゃんお金を持ってません。
貧乏なお兄ちゃんで、ごめんなさい。
「僕が買ってあげる」
ポケットから可愛らしい小銭入れを取り出した。
どれがいいと聞くクックは、なんというか天使ですね。
お金持ってるんだと驚いた俺に、話し難そうに教えてくれた。
なんでも働けないクックは、拾った小銭を貯めていたみたいです。
あと、カタナもレンズも働いているみたいです。
今度、聞いてみますか。
問題が起こりました。
3個しか買えませんでした。
クックは、軽くなった小銭入れを寂しそうにしまった。
「僕は食べたくないから、みんな食べて」
いいえ、アイスが食べたいと言い出したのはクックさんです。
その後、みんなで分けようという事に。
間接キスがどうのと揉めまくり、溶けてきたので、もういいと慌てて食べました。
今まで食べたアイスの中で一番、美味しかったのは間違いありませんでした。