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約束と……迷路 2

 慌てるアリアは、なんでお母さんが気絶してと、更に焦ってしまい、じゃあスクお姉ちゃんはと聞いてくる。

 これも、言い難いんだけど、お母さんと一緒にノビてる。



 とりあえず、落ち着いてと飲み物を渡して、息が整うのを待った。

 胸に手を当てて、ふーと息をついて、大変なんですと、事態を詳しく教えてくれた。



 アリア達は家の裏手にある、見下ろしの崖というお気に入りの場所で、みんなでお菓子を食べていた。

 楽しくお話をしていると、白衣を着た女の人と、眼帯を付けて短い刀を持った人に、いきなり襲われて、抵抗をする暇もなくやられ、連れ去られた。



「私は、お母さんに助けて貰おうと思って、思って……グス」


 顔を抑えて泣いてしまった。

 アリアの性格は、もう知ってる。

 戦えない自分では、みんなを助けられないと、助けを呼ぶ為に、逃げる決断をしたんだ。

 妹達を置いて自分だけ逃げるのは、身を切られるように辛かったに違いない。



 アリアを優しく引き寄せ、そっと頭を撫でると、大声で泣いてしまった。


「辛かったろ。アリアは立派なお姉さんだな」



 泣き止まないアリアを落ち着かせていると、カタナが眼帯と刀かと呟いた。

 レンズはベルを起こそうと、頬を引っ張ったりしてる。



「アリア、眼帯の奴の刀にさ、鈴が付いてたか?」


 涙を拭きながら、アリアは必死に頷いた。

 知ってる方ですかと、レンズの問いに、カタナはイヤそうに、ああと返した。


「白衣の方は知らねぇけど、眼帯の奴は、俺の妹だ」


 え、妹がいたのか。

 レンズも初めて聞いたのか、驚いている。



「とりあえず、ベルを起こせ。あの(バカ)が、生きてやがったんなら、なんか企んでやがる」


 カタナの顔には、マズイと書いてあって、事態の深刻さをみんな感じた。



 ベルの顔を、強めにパシパシ叩くと、気持ちいいですと寝言が返ってくる。

 スクも同じで、なかなか起きない。

 仕方ないから、ぶん殴るかと話していると、アリアが起こし方を教えてくれた。



「耳元で、スキって言ってみて下さい」


 なんでと聞くと、いい夢を見てる時は、ほんとに起きなくて、いつも家族の誰かが、そうやって起こしているらしい。

 きっと、俺とレンズなら、速攻で起きてくれると、自信を込めて言ってくれた。



 えっと、どうするとレンズと話し合う間をくれず、早くとカタナの強めの声に急かされる。

 まあ、起こすだけだしと、俺はベルに、レンズはスクに、耳元で好きと言ってみた。



「私もですー。結婚です」


「レンズ様、バージンロードを」



 なんの話をしてるか理解が出来ない。

 2人とも、結婚はとキョロキョロして、二度寝に入ろうとするのを、寝るなと阻止をする。



 眠そうな2人に、娘と妹とクックが拐われた事を

 説明すると、どうして早く教えてくれなかったと、怖い顔をした。

 誰のせいだと思ったけど、もう時間が惜しいから後でいい。



 スクが準備をと部屋を出て行き、ベルがアリアを誉めていた。


「アリアちゃん、偉かったですね。導逢糸(スレッド)は、大丈夫ですね」


 はいと答え、アリアは手首を見せた。

 良く出来ましたと、パチパチと手を叩く。

 ベルの目には、なにが見えているのか俺達には解らず、急いでくれと言うと、準備が終わるまで待って下さいと言った。

 行き先は解りますからと、焦る俺達に、アリアの力を教えてくれた。



 アリアの名前は、ベルが略しているだけで、本名はアリアドネ。

 それは、母から娘へと、代々受け継ぐ名前だった。

 その名を持つ者は、導逢糸の力も受け継ぐ。

 その力は、アリアの紡ぐ糸により、どんなに離れていても、必ず引き寄せ合う。

 神話の時代から、人の縁を繋ぐのが導逢糸の使命。


 出逢うべき人に出逢えずに道を外れ、運命の定める死ではなく、他者を巻き込んだり、自殺するのを防ぐのが、アリアドネの名を持つ死神の務めだった。


 時が経ち、他の死神達から、標的(ターゲット)をおびき寄せる役目を任されるようになった。



「アリアちゃんの一族は、それを拒みました。そのせいで、地位を失いました。でも、私はとても立派だと思います」


 そっか、死神は殺すだけじゃなく、死の管理も仕事なんだと、改めて知れて良かった。

 それと、導逢糸は死神にしか見えない糸で、ちゃんとみんなの居場所は解っているとも教えてくれた。



 準備はまだですかと、レンズが尋ねると、スクが鎌と鍵を手に戻ってきた。



継扉(ゲート)の使用許可が取れました。次のお仕事は、無償になりましたけど」


 ベルは仕方ないですねと言って、スクから2本の鎌と継扉の鍵を受け取った。

 背中に鎌を交差させるように背負い、鍵をアリアに渡した。



「アリアちゃん、行き先を示して下さい」


 うんと返事をして、目を閉じて左手をクンと引くと、右手に持っていた鍵に、迷という字が浮かび上がった。

 アリアから鍵を受け取り、用意はいいですかと言うベルに、オッケーを出すと、床に鍵を刺してガチャりと回し、景色が変わった。




 移動した先は、空が灰色の世界だった。

 前方には天まで伸びる壁があり、横も端が見えない程に続いていた。

 後方には、荒れた荒野があるだけで、寂しい気持ちを煽ってくる。



迷宮(ラビュリントス)ですか。どうして、ここに?」


 首を傾げるベルに、この場所はなにと聞くと、言いづらそうに、罰を受ける牢獄だと教えてくれた。



 迷宮とは、掟を破ったり、命令に背いた死神に課せられる極刑だった。

 この場所では、死神の力が半減される。

 もちろん、鎌やその他の武器になる物も取り上げられ、刑期が終わるまで、死ぬ事も赦されない。


 気の遠くなるような刑期を終える以外で、迷宮を出るには、出口を探すしかない。

 自力で出口に辿り着いた者には、免罪が認められている。


 そして、寿命の概念のない死神にとって、1番の恐怖は飢え。

 それこそが、この迷宮の与える、最も恐ろしい罰だった。

 罪を犯した死神は、僅かな希望にすがりながら空腹に苦しみ、出口を求めてさ迷い続ける。



「私達、死神は、お腹が空くのが、とっても辛いんです……」


 言葉を切り、飢えには際限がないと言ってベルは俯いた。

 上限もなく、どこまでも苦しみを増幅する空腹を思うと、寒気がする。



 だから、死神達はみんな食べる事に必死で、呆れるくらい低い報酬でも、辛い仕事をやっているのだと解った。

 カタナとレンズが、複雑な顔で話を聞いていた。


 みんなを助けたら、美味しい夕食を食べようと誓い合い、入り口である門に向かった。





 門の前に着き、ベルの提案で班を分ける事に。


「アリアちゃんは、帰りの為に、ここに残ってもらいます。1人じゃ危ないので、あと2人くらい残りましょう」


 これは当然で、誰も異存がない。

 迷宮に入っている間に、アリアが狙われるとアウトだ。

 せっかく助けても、迷宮から出られないなら意味がない。

 継扉の鍵も、迷宮の中では使えないのは聞かなくても解ってる。


 絶対に行くと言うカタナと、娘を助けに行くのはお母さんの仕事だというベルに、男が行かないワケにはカッコがつかない俺を合わせた3人が、迷宮に入るメンバーに決まった。


 レンズとスクは、迷宮の中では能力を発揮できないと、悔しそうに残ると言った。



 心配そうな顔のアリアに、カッコつけるセリフを考え、言ってやる。

 カッコいい男は、絶対に助けるなんて、当たり前で結果の見えている事は言わない。



「アリア、夕飯はなにが食べたい?」


 そう、カッコいい男なら、助けた後の事を言うのが正解だ。

 え、え?と考えて、しゃぶしゃぶが食べてみたいですと、控え目な顔を見せてくれた。



 財布の中身が浮かんだけど、約束だと手を振って、門をくぐった。

 門はくぐると同時に消えた。

 どういう仕組みだと思ったけど、そのままだったら意味ないしとムリに納得した。



 迷宮の中はかなり狭く、2人並べばいっぱいくらいの道幅しかない。

 灰色の壁が、悪意を持っているかのように、道を複雑に組み合わせている。

 ほんと、これ普通には絶対に出れないと太鼓判を押せるくらいだ。


 レンズとスクは残って正解だった。

 この中では、レンズの時去(ときさり)も、スクの線動禁(ライン)も、制限しかされない。


 まあ、カタナはかなり強いし、ベルも本気になれば相当、強いのも知ってる。

 いつもの、俺のいる意味を探してイヤになる。



 イヤな考えを振り払い、ベルにどうすると聞いてみた。


「ええと、私は豚さんがいいです」


 なんの話だ、もしかして、しゃぶしゃぶのお肉か。

 じゃなくて、行き先だとカタナが強めに言うと、ベルは少し考えて、悪いですよと首を振った。


「お店に行くなんて、贅沢ですよ。お家で食べましょうよ。大きなお鍋ならありますから」


 ダメだこの人、しゃぶしゃぶの事で頭がいっぱいだ。

 カタナがキレそうな顔で、ベルの襟首を掴んだ。


「てめえ、ガキが心配じゃねぇのかよ」


 カタナの目を見つめ、襟を掴む手に、自分の手を置いた。


「し、心配で……。壊れて……しまいそうです」


 震える手に、カタナは力を抜いて、悪かったと謝った。

 ベルは母親だ、この中で1番に心配しているに決まってる。

 必死にテンパりそうな自分を、ごまかしていたんだ。

 それに気付けないなんて、俺はバカじゃなくて大バカだ。



 ベルには豚さんなと言うと、震えをムリヤリに止めて、ぎこちない笑顔を見せてくれた。


「早く帰って、食べたいです」


 最後に、みんなでと誓うように続けた。

 おう、と答えてベルを先頭に歩き出した。




 しばらく進み、もう入り口の場所すら解らない。

 右に左にと、本当にみんなに近付いているのかさえも。

 不安に思い、大丈夫か聞くと、アリアの糸が続いているから安心してとの事だ。



 それよりと、注意点を教えてくれる。


「看守さんがいるんです。とっても、残酷な方で、心と魂をズタズタにされるそうです」


 え、拐った連中だけじゃなくて、他にも敵がいるのか。

 早く言えと、カタナがイライラしてる。

 どんな奴だと聞くと、詳しくは知らないみたいだ。



「確か、牛さんがどうとか、聞いた気がします」


 あー、どこかでそんな話を聞いた事がある。

 なんだったかな、思い出せない。

 迷路に住んでる、ミノなんとかだったかな。


 ミノって付かないと聞くと、そうですと返ってきた。


「思い出しました。ミノさんって呼ばれてるみたいです。ホルモンみたいですね。美味しいですよね、いっぱい噛めますし」


 ダメだ、敵の正体は全く解らない。

 出会わないように、祈るしかないのかと思った矢先に、先の方からジュウジュウという音が聞こえてきた。



 イヤな予感しかないけど、糸を辿るしか道はない。

 やるかと気合いを入れて角を曲がると、少し広めの円形の広場に出た。


 その中央には、俺達に背を向けて座っている、黒い服の人がいた。

 髪の長さと体型から、女の人かなと思える。


 気付かれないように進むのは、絶対にムリだ。

 この広場の道は、入って来た道と、前方の道の2つきり。



 ダッシュで走り抜けるか、殴るかの作戦会議をジェスチャーでしていると、気配を悟られたのか、誰かいるのと振り返った。


 あれ、メチャクチャ可愛いんだけど。

 丸眼鏡の奥の大きな目と、とんでもないサイズの胸にクラクラする。

 あの目に見つめられながら、アレをという妄想の世界に行こうとする俺を、カタナの往復ビンタで現実に戻される。

 なにかに気付いたのか、ベルが口元を拭いた。



 その人は俺達を見て、口をモグモグ動かし、ゴックンと喉を鳴らして、無邪気な声で聞いてきた。



「お肉たべる?」




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