罠と……ガチャ 5
怪物退治を終えて街に戻り、ガチャを回しに行くと、泣いてる可愛い女の子と、怒ってる色っぽい女の人がいた。
「グス……お小遣い……グス」
「当たり入ってんのかよ、これ」
先客さんも、ガチャで苦労しているようだ。
辺りには、ハズレの武器が転がっている。
レンズを見ているようで、他人事とは思えない。
ここのガチャは渋すぎですよねと、レンズが話かけると、運の無い者同士の傷の舐め合いトークに。
「私なんて、レアすら引いてないんですよ」
「ああ、私もだよ。ハズレアカウントだわ」
「グス……もう、ジャム買えない」
10連がいいとか、私は単発教の信者だなんだと、オカルトを交えた熱いガチャ談義に、すっかり意気投合してしまった。
もちろん、レンズだけ。
話についていけず、見ているだけの俺達の、早くしろよの空気を、レンズは読んでくれない。
仕方なく、悪いんだけどと話に入ると、レンズが新しい友達を紹介するように、名前を教えてくれた。
泣いていた女の子は、ラヴィ。
お小遣いを全て注ぎ込み、明日からのご飯を心配する10連派。
色っぽい女の人は、ナキ。
ハズレアカウントには屈しない、レンズと同じ、単発教の信者。
どうでもいい情報を聞かされ、低めのテンションで俺達も自己紹介をした。
またガチャ談義を始めようとするレンズを、カタナが早くしないとガチャ券やらねえぞと言うと、申し訳なさそうに、2人に頭を下げた。
「ガチャ、いいのが出るといいね」
「もうお金ないし、イベントのガチャ券でも取りに行くわ。頑張れな」
レンズの幸運を祈り、手を振り2人は行ってしまった。
俺達も頑張ってと、応援を返し見送った。
「苦労してるのは、私だけじゃないのですね。勇気が湧いて来ました」
きっと、その苦労はしなくてもいい物だと思うけど、どうなんだろうか。
辛いのは自分だけではないと、他人の不幸を力に変え、レンズはガチャ券を見つめた。
お願いだから出てくれと祈る中、レンズは深呼吸をしてガチャを回した。
何事もなく3回が終わり、次がラストだ。
足元のハズレ武器の数は、当然のように3つある。
次がハズレなら、約束した夜明けのコーヒーの権利を得られる。
レンズはどっちを望んでいるのか、下を向いた顔からは解らない。
ハズレなら強制的にもう1泊だし、カタナとクックにとっては、羨ましいだけだ。
最後の1回の結果は、ハズレだった。
あーあと、カタナが呟き、クックは頬を膨らませた。
下を向いたままのレンズは震えている。
また慰めなきゃいけない。
なんて声をかけるか考えていると、泣きそうな顔でレンズが俺の目を見つめた。
「初めて、ハズレを願いました。ハズレが1番の当たりなんて、とっても幸せなガチャです」
幸せそうに、ウルウルする目を擦った。
URよりも、俺との夜明けのコーヒーが当たりと思ってくれて、メチャクチャに嬉しい。
そんなイイ顔をされたら、胸がドキドキして、抱き締めてしまいたい。
はぁはぁ言いながら、手を伸ばす。
レンズは目を閉じ、受け入れ態勢を取ってくれて、カタナに殴られた。
「ざけんじゃねーよ。俺とクックには、どっちもハズレなんだよ」
ぐうの音もでない程に、その通りですね。
口を尖らせるクックも不満そうだ。
「もうさ、帰ってから夜明けのコーヒーやれよ。先にクリアだけしちまおうぜ」
「イヤです。スイートルームで飲みたいんです」
イラ立つカタナに、レンズは怯まずに返す。
どっちの味方も出来ずに、喧嘩が終わるのを待った。
結局、約束を守れないのですかと言って、レンズがごり押した。
これからは、下らない約束なんかするなよと、俺も文句を言われ、次の街を目指した。
ゼェゼェ息を吐くレンズのおかげで、最後の街に一瞬で着いた。
ここで最後かと思うと、なぜか寂しく思ってしまう。
この先、アップデートで増えて行くと思うけど、俺達にとっては最後の街だ。
色んな事があった。
ガチャに、ガチャとか、ガチャもっていうか、ガチャしか思い出がないよ。
強いて言えば、スイートルームに泊まれたくらいだ。
それも、ベッドじゃなくて、俺だけソファだし。
よし、さっさと帰ろう。
正確には解らないけど、朝一のログインボーナスを貰って直ぐにホテルを出たから、日暮れまで、けっこう時間はあると思われる。
もう1泊する事は決まってるが、クリア出来るイベントはやってしまおうと、情報収集を開始した。
この街でのイベントは3つ。
1つは、初めの街からアイテムを持ってこいという、お使いイベントで、ガチャ券は貰えない。
これは、息も絶え絶えになりながら、レンズが速攻で終わらせた。
あとの2つは、洞窟に住む竜の討伐と、街道に現れる巨人の退治だ。
どちらも、ガチャ券を2枚くれる。
ゲーム的に、竜を最後にしましょうと言うレンズに従って、巨人の退治を先にして街道に向かった。
見渡す限りの草原に、街から街を繋ぐ、踏み固められた街道が延びている。
本来なら、この街道を歩いて街に来るが、レンズの時去があるおかげで、移動はほぼないに等しく、こうやってゆっくり歩くのは初だった。
巨人を探しながら、歩いていると、RPGをやっている気分になってくる。
とってもワクワクする俺とクックは、楽しくキョロキョロ探した。
カタナはダルいと顔に書いていて、レンズはガチャ券の為に、目を血走らせている。
しばらく歩いていると、右方向を見ていたクックが、見つけたと指を差した。
その方向を見ると、見上げるような大きな岩のような物があった。
目を凝らすと、人の形に見えなくもないけど、デカ過ぎる。
背景だろと言うと、レンズが首を振り、あれですねと答えた。
嘘だろと思うと同時に、地面が揺れ巨人が俺達の方を向いた。
いや、どうやって倒すのこれ。
体は岩みたいだし、見上げても足りないくらいの大きさだ。
どうすると聞く前に、レンズが風を巻いて消えた。
なにをしたのか、巨人の真ん前にスッとカッコよく着地をするレンズの靴からは、黒剣が禍々しく生えていた。
見る間もなく、巨人の体に縦に線が走った。
えっと驚くレンズと俺。
巨人はみるみる広がる線に分けられ、盛大な地響きと供に、2つに別れ地面に転がった。
唖然とする俺達に、レンズがあたふたする。
「ここは、倒せなくて、みんながボロボロにやられて、私の新しく考えた技で決めようとしてたのに、すみません」
最初の攻撃で倒せるとは、本人も考えてなかったようだ。
なんで謝っているかは謎だけど、改めて魔剣靴の性能に驚かされる。
また、なにも出来なかったクックが、不貞腐れたように、石を蹴っ飛ばした。
石の転がった先から、黒い服を着た人が、2人こちらに向かって歩いて来るのが見えた。
その2人は、さっき会ったラヴィとナキだった。
「あらら、先を越されちゃいましたね」
「巨人が湧くまで、待たなきゃな」
2人も、巨人退治のイベントに来たようだ。
すいませんと、レンズが頭を下げると、いいからと言ってくれた。
うーん、さっきと格好が違うから、気付いたけど、黒い服に大きな鎌を持ってるから、アレなのかな。
ジャムがどうとかも言ってたし、貧乏な死神の主食は食パンだと聞いた事がある。
カタナに耳打ちすると、絶対に死神だろと小声で返ってきた。
やっぱりそうだよねと、クックも同意する。
レンズは気付いてるのか解らない。
余計なトラブルを避ける為に、速やかにこの場を去った方がいいに決まってる。
俺達のソワソワする様子を見て、ナキが怖がらなくていいと言ってくれた。
「詳しくは見てないけど、殺手配書に載ってるのは知ってるよ。でもね、ガチャ運が悪い人は仲間だから、殺らないよ」
「うん、レンズさんは、他人とは思えないから。もう、友達だよ」
なんだか解らないが、レンズの運のなさが役に立ったみたいだし、ちゃんと気付いていたようだ。
「そうですよ。私達は仲間です。そもそも、ゲームが好きな人に、悪い方はいません」
そう言って、ガッシリと握手をしたまではよかった。
ニコニコしていたラヴィの顔が急に曇り、冷たい目で、それと下を指差す。
ナキも下を見て、唇を噛んだ。
なんだか、おかしな空気になってきた。
なにを見ているのか、確かめるが解らない。
「裏切り者」
「嘘吐き……」
意味が解らないレンズがキョドり、どうしてですかと聞いた。
「魔剣靴って、URだよね。リセマラの目玉だから……。ハズレしか引いてないって言ったのに」
ラヴィが冷たい声を出し、握っていた手を乱暴に放した。
慌てて、これは貰い物だと言い訳をしても聞いてくれなかった。
ここで、魔剣靴が裏目に入るとは、予想の外にも程がある。
せっかく、もう少しで戦いを避けられたのに。