罠と……ガチャ 3
道具屋さんで買った地図を頼りに、次の街に到着し、情報を集めた。
どうやら、今現時点で行ける街の数は、ここともう1つだけみたいだ。
この街でのイベントは2つ。
怪物退治と、カジノを荒らす凄腕の勝負師との対決だった。
どちらも、ガチャ券が貰える。
ただ、困った事にカジノだ。
レンズがニヤリと笑う。
カジノに行く、公式な理由が出来てしまった。
道すがら、対決だけだからなと念を押すけど、きっとダメだ。
それを察したカタナが、俺には悪いけどと前置きをして、レンズと一緒にお留守番をしてろと言った。
それも読んでいたレンズは、ダメですよと、悪い顔で答えた。
「みんなで行かないと、全員がクリアした事にならないですから」
舌打ちをして、俺が見張ると言って、全員の所持金をクックに渡した。
あれ、俺も信用がないようだ。
「だってさ、レンズに頼まれたら、金をやるだろお前?」
さすがカタナさんです。
そんな先まで読んでらっしゃる。
いや、だったら自分で持ってればと思ったが、カタナの苦笑いを見ると、俺と同じで頼まれたら断る自信がないように見えた。
優しいし、レンズに甘いカタナらしくて、それはそれで良かった。
カジノに到着し、クックに、レンズにお金を渡すなよと言って、カジノの扉を開いた。
パーティー会場のように人で賑わう広間は、赤絨毯が引かれ、様々なギャンブルが行われていた。
ルーレットにカード、スロットもあるし、向こうでは、ビンゴをやっている。
1つ1つに立ち止まるレンズを、イベントが先と引っ張りながら、目的の勝負師を探した。
レンズの事を見張りながらで、手分けして探せず、けっこうな広さの会場を探した。
なかなか、見つけられず、フラグが立ってないのではとレンズに言われ、カジノのスタッフに話しかけると、あのテーブルにと指を差した。
そこには、さっきまでは居なかった、派手な燕尾服の男がカードを切っていた。
それに合わせて、支配人がやってきて、あの勝負師を追っ払ってくれと、イベントの開始を知らされた。
私がとレンズが前に出るが、チップがなければダメなようだ。
お金を渡さざるを得ない状況になってしまった。
ひひっと笑うレンズに任せていいのか。
とっても、やりたそうだ。
話し合いの結果、半分だけという事になり、クックがお金を渡した。
「勝てば問題ないけど、今日のあいつは運がねぇからな」
初期からの物とイベント報酬のお金だし、大した金額でもないからいいけど、負けるとお金を稼ぐ所からやり直しだ。
なんて話してる間に、レンズは負けていた。
「イカサマです。じゃなければ、私が負けるワケありません。次です」
プンプン怒りながら、手を差し出すレンズの顔を見れない。
きっと、俺とカタナは、レンズのイイ顔を見たら、お金を渡してしまうから。
「お兄ちゃん、あれやってみたい」
さすがクックだ。
いいタイミングで、ごまかす理由をくれた。
クックが指差しているのは、ルーレットだった。
よし行こうと言って、ルーレットの卓に着く。
イベントはどうするとレンズが言ってるが、聞こえない。
恐らく、また負ける。
だったら、クックに残りのお金を託した方がマシだ。
レンズとは違いクックには、増やせる可能性まである。
カタナに宥めてもらって、クックにルールを説明した。
「好きな所でいいの?」
いいよと言うと、自信満々に00に全てのチップを置いた。
まさかの1点買いに、レンズは頷き、カタナは大丈夫かと心配そうだ。
ディーラーが、ワクワクするクックを見つめ、ルーレットを回した。
勢いよく回る盤に、玉が弾かれながら、スピードを落としていく。
そして、カランと玉が落ちたのは、00だった。
わーいと喜ぶクックの前に、たくさんのチップが積まれた。
マジでと驚く俺とカタナに、クックより喜ぶレンズ。
こういうのは、当たらないと思っていたから、ほんとにビックリだ。
優しいクックが、4等分に数えてチップを分けてくれた。
フラフラと、どこかに行こうとするレンズを、イベントが先だと捕まえた。
「倍に増やしてから、イベントをやりましょう」
はい、絶対にダメです。
勝てるかわからないのに、減らしてもらっては困る。
そうですねと言って、勝負師に向かうのをカタナが止めた。
この中で、運があるのは誰だと聞き、クックに任せようと言った。
そうしようと同意して、キョトンとするクックが、勝負師とブラックジャック対決を始めた。
きっと、クックならイケると信じて見ていると、ルールをあまり理解してないのに、あっさり勝ってしまった。
今日のクックは、かなりツイてる。
安心した俺とカタナを見て、クックが僕エライと聞いてきた。
もちろん、最高にエライと頭を撫でてあげた。
支配人にお礼を言われ、イベント報酬も来たし、これでカジノイベントはクリアだ。
レンズの姿が見えないけど、もう自由にしてもいい余裕ができた。
レンズの気が済むまでの間、俺達も遊ぶ事にした。
ルーレットが気に入ったクックに乗っかり、同じ目に賭けると、面白いように当たり続けて、かなりの額を稼いでしまった。
これが現実の世界だったらと考えてしまう。
チップを数えるのが難しくなってきた頃に、レンズが暗い顔で戻ってきた。
聞かなくても顔を見れば、負けたのが解る。
俺達の前に積まれたチップの山を見て、なにがあったのですかと、目を白黒させている。
「RMTをする方がいるので、この手のゲームのカジノは、渋いはずですが」
まあ、解るけど、渋いのを承知でやるレンズもどうかと思う。
現に他のプレイヤーを見ても、勝ってる人が少ない。
なにかに気付いたレンズが、クックの耳の魔運石のイヤリングを見つめた。
これですねと指差す先を見ると、石の輝きが薄れているような気がする。
「きっと、運を高める装備だったのですね。また、運が充填されるかは、解りませんが」
なるほどと同時に、さすが最高レアのアイテムだ。
おかげで、この先はお金の心配はなくなった。
せっかく綺麗だったのにと、クックは残念そうにイヤリングを揺らした。
ガチャを回しに行って、またカジノに戻って来ましょうというレンズに、カタナがどっちかにしろと言うと、真剣に悩んでガチャと答えた。
次こそは、神々さえも殺せる武器が出る気がしますと懲りないレンズは、ウットリした顔で、ガチャ券にキスをした。
「グス……」
さすがに、可哀想だ。
レアとさえ付かず、しかも店売りの武器が4つ出てきて終わりなんて、これが課金してたらと思うと、学生の俺には笑えない。
クックは肩を落としてるし、カタナはどう慰めようか考えてる。
「よし、この鉄の剣で、ラスボスの魔王を倒そうな。そうすればさ、魔王を倒した伝説の武器として、語り継がれるかもな?」
カタナの苦しい慰めは、最後が疑問系でなければ行けたかもだけど、どうだ?
「そんな後付けは、イヤです」
ダメでした。
泣きじゃくりながら、ハズレ武器をぶん投げる。
他のプレイヤーに、当たらないか心配な速度で飛んで行った。
「みんな、解ってないです。ガチャとは、最高レアが出た瞬間こそが、脳汁ポイントなんです。例え被ったとしても……グス」
ハズレを重ねる毎に、グズる時間が長くなってる。
1つも出してないから、被る心配いらないけどなと、カタナがボソリと呟いた。
クックが、しーと口に人差し指を当てた。
みんなで、次があるさと空しい言葉を口にしていると、辺りが暗くなってきた。
この世界にも、夜があるみたいだ。
あっと、レンズが声を上げ、宿屋で1泊しましょうと言った。
なんでと聞くと、希望が見えましたと、泣き止んでる。
希望という言葉と、レンズの明るい顔にみんな反応した。
「日付が変われば、ログインボーナスで、ガチャ券が貰えます。ここの運営は、餌撒きがいいですから、2枚は期待できます」
これはアレだ。
レンズが悪いんじゃなくて、真面目に聞いた俺達がバカだっただけだ。
もうフォローしきれない、だから俺達が悪いんだ。
いいなと、カタナとクックを見つめる。
2人とも憐れみの顔で、それでいいと、頷いてくれた。