罠と……ガチャ 2
死神も意図しない罠の嵌まり方をして、レンズを責める気にもならない。
「だって、本物の死神が、死神って名乗るなんて思わないですよ」
テンパるレンズの言い訳は、誰も聞いてない。
考えるべきは、戻り方だ。
「情報収集をしてきます。ここで待ってて下さい」
なんとか失態を埋めようとするレンズを、カタナが待てと止めた。
「所持金を置いてけ。カジノに行かれると困るからな」
行かないですよと、視線を逸らすレンズに、なにも言わず手を出した。
ブツブツ文句を言いながら、初期から持っていたお金をカタナに渡した。
絶対に行く気だったね、付き合いの長いカタナがレンズをよく解っていて助かった。
機嫌を悪くしたレンズの姿が見えなくなると、カタナがやれやれと額に手を置いた。
「あいつ、カジノとか好きだから、金を持たすなよ」
どんどんレンズのイメージが崩れていく。
初めて会った時は、清楚で知的なキャラだったのに。
まあ、素を見せてくれるのは嬉しいから、いいけど。
どうするかと話ながら待っていると、レンズが黒い服の人を引き摺りながら戻ってきた。
なぜか、ぐったりしてるけど、なにをしたのか。
「管理をしている死神を見つけました。これで安心ですね」
そう言って、死神を俺達の前に転がした。
怯えながら命乞いをする死神は、聞いた事に全て答えてくれた。
このゲームは、死神の資金集めの1つで、なんでもない人には、ごく普通のゲームでしかなく、こんなにリアルでもないし、止められないなんて事はない。
俺達みたいな、殺手配書に載っている者がゲームをやると、精神を丸ごとこの世界に飛ばされるらしい。
資金集めと、標的の抹殺という、一石二鳥を狙った物だった。
死神の力を無効化するカタナもやられたのは、このゲームを作る過程で、幻想視人の力を借りたからみたいだ。
前もカタナがやられた時も、幻想視人の作った物だったから、天敵のように思ってしまう。
最後に、戻り方を聞くと、今ある全てのイベントをクリアすれば、自動的にカミングスーン画面に飛び、タイトルまで戻れるらしい。
他の方法はと聞くと、知らないと必死に訴え、嘘を吐いてるようには見えず、とりあえず信じる事にした。
幸いな事に、今日から始まったゲームだ。
まだ、イベントの数は少ない。
イベントをクリアしながら、情報を集めるしかないようだ。
もう行ってもいいですかと言う死神に、ガチャをやらせろとレンズが脅したが、自分は下っ端で、そんな権限はないと首を振った。
それと、不正は出来ないとも教えてくれた。
これは仕方ないと、レンズも納得した。
「チーム・死神は、ゲーム作りに誇りを持っています。チートやズルは出来ないと思います」
ゲーマーとして尊敬していると、誉めてるけど、ガチャをやらせろと言ったのはなんでだ。
それより、もっと簡単に終われる方法を考えついた。
「ゲーセンの閉店時間になったら、電源を落とされるんじゃないか?」
どんな風に抹殺されるかは、解らないけど、時間切れまで大人しくしてれば、それで終われるはずだ。
それだとカタナも頷いた。
どうなんだと死神に聞くと、ムリですと言われた。
なんでも、さっき聞いたように、俺達は精神を丸ごと持っていかれてるから、時間の概念から外れているらしい。
俺達の時間を現実にリンクさせるには、クリアするか、死ぬかの2択のようだ。
「ガチャは出来ないですが、希望が見えました。それに、時間の制約もなく、ゲームが出来るなんて幸せですね」
ポジティブすぎるレンズに、俺とカタナは少し引き、どんだけガチャやりたいんだと心の中でツッコミを入れた。
他に細かいルールや情報を得て、死神を解放してあげた。
落ち込むレンズを見たくないし、せっかくだから、楽しむかと決めて、ここからが本当のゲームスタートになった。
まず、この街にあるイベントを発生させるフラグを立てる為に、片っ端からNPCに話しかけまくった結果、2つのイベントを見つけた。
1つは、チュートリアル的な、街を散策して施設を見て回り、話を聞くという物だ。
これは、さっき話を聞いて回った時に達成できた。
IDカードに、イベント達成報酬が届いてるから大丈夫だと思う。
もう1つは、街に住む人を、隣の街まで護衛するという物だった。
この手のイベントは面倒なだけで、報酬も安いとレンズが言ってるけど、ガチャ券が貰えると言うと、テンションが上がった。
「早くやりましょう。ゲット様を隣の街まで送ればオッケーですね」
いや、俺はNPCじゃないから。
それでいいじゃんと、カタナが確かめに行くと、俺でもいいらしい。
はい、完全に俺は村人Aですね。
隣の街までのルートを確認して、レンズが試すのにいいですねと、目の前から消えた。
「うん、大丈夫です。時去が使えます」
数秒で往復してきたレンズが、良かったと微笑んだ。
さっきの死神から、現実世界と同じ能力を使えると聞いている。
この世界でも、チート並みの能力だから、心配してたが、大丈夫のようだ。
早く報酬のガチャ券が欲しいレンズは、俺を背負い、カタナとクックを両腕に抱え、一瞬で隣の街まで移動した。
はぁはぁと息を吐くレンズに、みんなガチャ券をあげた。
1番、楽しみにしてたレンズが、URを当ててなくて、可哀想に思ったからだった。
「い、いいのですか?」
目をウルウルさせて喜んでる。
あげて良かったと思えて、俺とクックは笑い、カタナは苦笑いを浮かべた。
次こそは、伝説の武器を当てると、話ながらガチャをやりに向かった。
「エグッ……」
またレンズが、エグエグ泣いてる。
側には、明らかにその辺に売ってそうな武器が、4つ転がってる。
ほんとに、運がないね。
カタナが他の奴が回して、いいのが出たらやるからと慰めると、嫌ですとハズレ武器をぶん投げた。
「自分で引かなきゃ、嬉しくないです」
けっこう面倒なプライドがあるみたいだ。
泣き止まないレンズに、これからも、ガチャ券が手に入ったらあげると言うと、ほんとですかと、とってもいい顔で笑ってくれた。
よく解んないけど、メチャクチャ可愛い。
こんな単純な性格だったんだと、改めて知れて良かった。
「ガチャ券を目指して、次のイベント頑張りましょう」
そう言って、風のように情報収集に行ってしまった。
もはや、ガチャを回すのが目的になってる。
「レンズ、可愛い」
ニッコリ笑い、八重歯を見せるクックも、とっても可愛らしい。
「バカだけど、あの顔が見たくて、何十年も腐れ縁を続けてるんだよな」
照れたように頭を掻くカタナも笑ってた。
レンズの可愛い所を話し合っていると、本人が情報を仕入れて戻ってきた。
「この街でのイベントは、3つあります。その内、ガチャ券が貰えるのは1つだけですが」
けっこうシケてますと、不満そうにしてるけど、目的はガチャじゃないから。
ガチャ券が貰えないイベントは、速攻で片付けた。
お使いイベントだったから、レンズがいれば一瞬で完了だった。
メインのイベントである、街を荒らす盗賊の討伐も、瞬きを3回くらいの時間で終わらせてくれた。
「ぜぇぜぇ……。ガチャ行きましょう」
もうレンズだけいればいいよね。
このゲームつまんないと、クックが文句を言ってるのも解る。
俺達はなにもしてないし。
まぁまぁとカタナがフォローを入れて、ガチャを回しに向かった。
3度目の正直ですよと、笑顔のレンズは、俺達があげたガチャ券を嬉しそうに握り締めていた。
「ううっ……」
まーた、レンズが口に手を当てて泣いてる。
2度ある事は3度あるに、不憫で見てられない。
泣きながら、ハズレアイテムをぶん投げた。
こんなにハズレばかり引くなんて、有り得るのか考えてしまう。
笑った顔が見たくて、俺が当てた魔剣靴をあげた。
「イヤです。自分で当てたいです」
いいからと、カタナも手伝ってくれて、強引に魔剣靴を履かせた。
初めは文句を言っていたが、最高レアのアイテムに、最後はニンマリしてくれた。
ほんとに、単純で可愛い。
この顔を見る為に、貢いでしまいそうだ。
「あーあ、俺もハズレ引こうかなー」
「僕もハズレ引きたい」
俺の心を読んだ2人が、羨ましそうに口を尖らせた。
だから、ガチャが目的じゃないからと、ごまかして、次の街を目指した。