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バイトと……迷い家 中編

 この状況をなんとかできるのは、ベルしかいない。

 気絶しているベルを起こさないと。

 脛の痛みを我慢して、ベルの肩を揺する。

 朝ですかと、ムニャムニャ言ってる可愛い死神に、現実を解らせる為に、幽霊の方を向かせた。

 おやすみなさいと、また気絶しようとするのを阻止して、なんとかしてくれと頼む。


 ムリですと、首を振られ、なんでと聞くと、鎌を持ってきてないと言いやがる。

 そうですね、持ってないですよね、来たときに気付けばよかった。



 もうベルもあてにならない、俺にできる事はなにがある。

 幽霊がカタナの首を締めているのを見て、焦りが加速する。

 せめて、俺にしろよ。



 いや待て、俺に標的(ターゲット)を移せばいいんだ。

 冷蔵庫の中身を取ったカタナにキレてるから、俺がもっと取ればいい。



 開きっぱなしの冷蔵庫から、中身を出してみる。

 幽霊がカタナから手を放し、俺を恨めしそうに睨んだ。

 怖すぎるけど、カタナを助けるには、これしかない。


 ガチャガチャと中身を外に出す度に、幽霊が近付いてくる。

 もういいだろと、手を止めた瞬間に、俺の首に手がかかった。

 放せと振り払うが、すり抜けてしまう。

 なんでだ、幽霊だけ攻撃ができるのは、ズルすぎる。


 暗くなっていく視界で、震えるベルと目が合った。

 幽霊には、なにが効くか必死に考え、キッチンに見える調味料が目に入った。



「ベル、塩を取って……」


 は、はいとビビりながら、塩の入った小ビンをを取って、渡してくれた。


「じゃなくて、かけてくれ」


 ビンを開けて、俺の右手にサラサラとかけてくれる。

 この子やっぱり、少しおかしいのかもしれない。


 俺じゃなくて、幽霊にかけるだろうがと、塩が付いた手で、ダメ元で殴ってみた。

 ゴンと確かな手応えを拳に伝え、幽霊が仰け反った。



「マジでか?」


 塩パンチ効いたよ。

 これはいける、塩をかけてくれとベルに目で合図すると、中身を全て自分にぶちまけた。

 この人なにしてるの。



「え、私だけでも助かって欲しいから、塩で自分を守れって合図じゃ……」


 この子かなり、おかしいのかもしれない。

 仕方なく、床にこぼれた塩を集めて、もう1発喰らわすと、夢に出てきそうなくらい怖い顔で、空気に溶け込むように消えて行った。



「なんとか、なったな」


 ベルが凄いですと、拍手をした。

 首が痛くて、どうなってるか聞くと、赤い手形が、ベッタリと付いてると教えてくれた。

 カタナの首も同じだった。


 ノビているカタナとクックを起こす。

 カタナは咳き込みながら、目を覚ましたが、クックは完全に気絶していて起きなかった。



 もう終わったとカタナに伝えて、レンズはと聞かれ、そこでいない事に気が付いた。

 探してくると言うと、カタナもベルも、怖いから着いていくと言って、俺の腕を掴んだ。

 どっちでもいいから、クックを見ててくれと言ってもムダで、俺が背負う事に。



 2階は怖いから行かないと予想して、1階から探し始めて、奥の部屋から物音が聞こえてきた。

 そこかと思うと同時に、カタナとベルがキャーと叫んだ。

 どうしたと聞くと、階段を指差している。

 そこには、なぜか紙が落ちていた。

 さっきまでは、絶対になかったはずだ。


 両手の塞がっている俺の代わりに、カタナが腕を放さずに拾って見てみると、開けるなと書かれていた。



「え、なにを?」


 俺の疑問に答えるように、2階から気配がした。

 まだ終わってないのかよ。

 慌ててレンズがいると思われる部屋に逃げ込んだ。



 部屋に入ると、明かりの点いてない暗い中で、人影が震えていた。

 レンズと呼ぶのを、途中で飲み込んだ。

 窓から差し込む月明かりが、服の端を照らしてくれている。


 レンズの着ていた服じゃない。

 ヤバい、ここにも幽霊がいたのか。

 ベルが気絶しようとしてるのがムカつく。




「んん……」


 あれ?

 聞き覚えのある声だ。



「テメェ、なにやってんだ」


 カタナが震える人影の頭を持って、壁に叩き付けた。

 イライラするカタナが電気を付けると、レンズが気持ち良さそうにヨダレを垂らして、少しエッチな顔でノビている。



「このバカ、眼鏡洗浄器を持ってきてやがった」


 わざわざメイド服に着替えて、このタイミングで、眼鏡洗浄器を楽しむってなんだ。

 なんで今なんだよと聞く俺に、キレ気味のカタナが知らねえよと返してきた。



 今すぐに帰りたいと、神様に祈ってみるけど、やっぱり信心がないからダメで、ドアノブがガチャっと回り、ムダだと教えてくれた。



 マズイ、上から来てた奴だ。

 急いでドアを押さえて、気を付けろと言って2人を見ると、バカの集まりに目眩がした。


 ベルはヌイグルミのようにクックを抱いて、夢の世界に逃げてるし、カタナも頭を壁にぶつけながら、気絶しようとしてる。

 怖い話でお決まりの、目が覚めたら朝でした作戦のようだ。

 残される方の身にもなってよ。


 ダンダンと、狂ったみたいにドアが叩かれ、凄い力で押してくる。

 俺だけでは、押さえられない。

 カタナに助けを求めるが、ちゃんと気絶できたようだ。



 どうすると考える前に、ドアを突き破り手が出てきた。

 そのままバタバタと動かす腕の怖さが、ハンパない。

 このままでは、時間の問題でしかない。


 せめて、もう1人いればと祈ってみると、これは天に届いた。

 うーんと言って、クックが目を覚ました。



「クック、キッチンに行って、塩持ってきてくれ」


 クックは少しキョロキョロして、俺のピンチが解ったのか、ドアに向かってダッシュをかけた。

 ごめん、出口はこのドアしかないね。


 待てと言うのが遅いというか、寝惚けているクックは話を聞いてくれてない。

 とっさに避ける俺を見ずに、抱き付いているベルと一緒に、ドアをぶち抜け、幽霊も巻き込み廊下の壁に全力ダイブ。



「みんな、どんだけ壁が好きなんだよ」


 俺以外の全員が、壁が原因でダウンってなんなんだ。


 クックとベルの下敷きになっている幽霊は、苦しそうに消えて行った。

 あれ、物理が効いたのか。

 いや違う、ベルがさっき自分に塩をぶちまけたせいだ。



 もうなんでもいいかと、ノビてるみんなを、リビングに運び、気が抜けてウトウトしながら朝を待つ事に。




 楽しそうな声が聞こえて、目を覚ました。

 時計を見ると、2時間くらい寝ていたようだ。

 リビングには、くーと寝息を立てるクックしかいなかった。

 3バカの姿が見えない。

 とっても、イヤな予感っていうか、確信がある。

 大人しく、寝ていて下さいよ。




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