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バイトと……迷い家 前編

 お金が入るまで、あと2日。

 土日を乗り越え月曜日になれば、普通のご飯が食べられるようになる。

 問題は、完全にお金がゼロで、土日を越えられないという事だ。

 お金の話ばかりでイヤになる。



 何度目かの会議をする。

 レンズの大切なゲームを売るのは、ウルウルしてるからダメと。



「やりたくねぇけど、またバイトするか」


 カタナの案しかないけど、とってもイヤだ。

 今までしたお仕事では、ロクな目に合ってない。

 幽霊退治や、女装にお猿さんの説得と、色々やったけど、お金にならないし辛すぎる。

 まあ、女装の時は、自分達のせいだけど。



 みんな、それしかないと同意し、カタナが携帯で電話をかけた。


「何度も悪いけどさ、日払いの仕事を紹介してくれ」


 少し会話を続けて、最後に舌打ちをして、電話を切った。



「お泊まりだ。準備して今から行くぞ」


 今からって、時計を見ると、もうすぐ5時になる所だ。

 それに、泊まりってなんだ。

 クックはわーいと喜んでるけど、イヤな予感しかない。

 レンズも俺と同じく、考えている。

 まあ、行くしかないんだけどね。



 紹介された仕事は、ある別荘で一晩、過ごすという物だった。

 往復の足も用意してくれて、1人頭、1万円もくれるらしい。

 ただ、幽霊が出るかもしれないから、その時は、なんとかしろという事だった。


 こんな仕事しかないのか。

 レンズがお留守番するとゴネたけど、1人減るとお金も減るから、みんなで行く事に。



 色々と考えて、着替えの他に、懐中電灯やロウソクとか適当に鞄に入れた。

 クックがおやつ欲しかったねと、残念そうにしてる。

 カタナとレンズは、前に買ったお守りとお札を探して、部屋をひっくり返してた。

 効果なかったじゃんという、俺の言葉は聞いてくれなかった。



 準備を終えて待っていると、ピンポーンと鳴り、迎えがきた。

 スコープを覗くと、目の大きな可愛い黒い服を着たっていうか、こないだ会ったベルが立っていた。

 ドアを開けて、どうしたのと聞くと、ベルも今回の仕事に参加すると言った。

 


「また、一緒ですね。とっても心強いです」


 あーあ、死神さんも来るなら、幽霊が出る事が確定しちゃったよ。

 ベルは解ってない。

 カタナとレンズの強さを信頼して、安心してるけど、幽霊関係はダメダメな事が。


 この場において信頼できるとすれば、クックだけだ。

 カタナとレンズが、ホッとしたのか、緊張が解けている。

 俺も、死神さんがいるなら大丈夫と油断して、気付かなければならない事を、見逃してしまった。





「さ、行きましょう」


 そう言って、鍵を取り出した。

 とっても便利な、継扉(ゲート)の鍵だ。

 許可とかが必要と言っていたけど、仕事を紹介してくれた人は、死神の上の人にコネがあるらしく、簡単に許可が出たらしい。



 ベルが床に鍵を刺して、がチャりと回した。

 ぐるんと上下が回り、辺りを林に囲まれた別荘の前に移動した。

 けっこうな大きさの建物と、辺りの不気味さに不安になる。

 薄暗くなった空に合わせて、風が木をザザッと揺らし、不吉な音を運んできた。

 カタナとレンズが俺の左右の腕をキープして、ベルがシャツの裾を握った。

 クックだけが、平然としていた。




 突っ立ていても始まらないので、怖がる3人を引き摺りながら、鍵を開けて中に入った。

 部屋数は2階と合わせて9部屋あり、お金持ち専用だと解る。

 手入れも行き届いているし、幽霊さえ出なければ、ちょっとした旅行だ。


 俺と同じように考えたクックが、楽しそうに探検に向かう。

 怖がって俺から離れない3人は、リビングから動こうとしない。



「朝までの辛抱だ」


「ここで籠城しましょう」


「作戦はお任せします」


 3人はここで動かずに、朝までやり過ごそう作戦のようだ。

 それでもいいけど、せっかくだから楽しみたい俺は、1つの提案をした。



「あのさ、さっさと幽霊をなんとかすれば、あとは楽しめるよな。どう?」


 怖がりながら、朝を待つのはツラいと解ってる3人が考えていると、クックが探検を終えて戻ってきた。



「ぜーんぶ、見てきたよ。幽霊さんいなかった。あとねあとね、2階のお部屋にね、お菓子がいっぱいあったの。食べてもいいのかな」


 やった、幽霊はいないかもしれない。

 クックの報告に、途端に元気になる3人が笑える。

 安心させる為に、みんなで確認しに行って、8部屋を見たが、ほんとに幽霊はいなかった。

 残るは、クックがお菓子があると言っていた部屋だけだ。


 いっぱいって、どれくらいだと考えながらドアを開けると、部屋の中央には、山のように積まれたお菓子があった。


 絶対に食べてはいけないと確信できる。

 お菓子の山には、四隅に棒が立てられていて、注連縄で囲われてるし、壁にはお札が引くほど貼ってある。



 回れ右をして、クックの視点に合わせる為に屈んで、真剣な顔で見つめる。


「いいかい、クック。絶対に食べちゃダメだからね。お兄ちゃんと約束だ」


 うんと元気に頷いて、指切りをしてくれた。

 ビビっている3人は、もう逃げていた。

 たぶん、この部屋になにもしなければ、大丈夫だと思いたい。

 2階は行かないようにと、みんなに言って、豪華な別荘での、お泊まりを楽しむ事にした。




 しばらくは、2階を気にしていたビビり達だったけど、なにもない事に安心したのか、リラックスムードに行けた。



「おい、見ろよ。冷蔵庫にメチャクチャ食材があるぞ」


 カタナに手招きされて見てみると、凄い高そうなお肉やお魚が入っている。

 いや待て、これ罠だろと、警戒心が湧く。


 ベルが指をくわえて、ヨダレを拭いていた。

 貧乏な俺達と死神さんには、手の届かない高級食材に、みんなお腹が鳴った。

 今日の朝から、なにも食べてない。

 当然のように、お金がないから、夕飯もナシの予定だった。



「これさ、俺達の為じゃないか。あのババアが、気を利かせてくれたんだよ」


 どうだろうか、なんとか理由をつけて食べたいが、トラブルの予感もする。

 レンズが電話で確認をしたが、繋がらなかった。

 仕方ないから、食べてから考える事にするのが俺達だ。



 カタナがエプロンをつけて、そのままでも美味しそうな食材を、更に美味しく料理をしてくれて、テーブルに並べた。


 いただきますの前に、飲み物を取りに、冷蔵庫を開けて、お茶とジュースを取ると、挟まっていた1枚の紙が、ヒラヒラと床に落ちた。


 あーあ、見なければ良かった。

 くるりと振り返り、質問を。



「聞いていい?もう食べた人は手を上げて」


 モグモグしているクックとベルが、楽しそうに手を上げて、レンズがお肉を口に運ぶ手を止めた。

 味見は食べた事になるかと、カタナが聞いてくる。


 はい、みんなでこの紙に書いてる事を、読んでみよう。



「食べるべからず」



 ふーんと、クックとベルがご飯の続きに戻る。

 カタナも冷めるから、早く食えよと言ってる。

 レンズも、まあいいかという空気だ。

 あんまり気にしてないみたいだ。



「もうさ、料理しちまったし、食った後で考えようぜ。ベルもいるし、大丈夫だって」


 そうだね、後悔は後じゃないとできないもんな。

 食べてからにしようとする、バカしかいなかった。



 久し振りの、まとなご飯が、初めて食べるような高級な物で、みんな大満足だった。



「こんなに美味しい物は、初めて食べました」


 涙ぐんでるベルに、苦労してるんだと俺まで泣けてくる。

 棚に並ぶ高そうなお酒を、これ飲んでいいよなと眺めるカタナの後ろで、キィィと音がした。



 はい、後悔の時間がきました。



 勝手に冷蔵庫の扉が開いていく。

 近くにいたカタナが固まり、レンズも逃げる体制に入ってる。

 冷蔵の扉が開ききり、下の冷凍の引き出し部分が、ガンと音と一緒に、限界まで開かれた。



「そっちも、開くんだね」


 クックが不思議そうに、俺も思った事を口にする。

 そうだね、冷凍の引き出しまで開くとは思わなかったよ。

 固まるカタナを下がらせて、とりあえず冷蔵庫を閉めた。



「見なかった事にしよう」


 俺の提案は、冷蔵庫に却下された。

 またゆっくり開くと思わせて、バンと冷凍の引き出しが開き、脛にぶつかり、身を屈めて悶絶する所に、冷凍の扉が頭に追撃をくれた。


 わーと叫んで逃げ出すレンズに、腰を抜かしているカタナ。

 俺を心配するクック。


 言葉にならない痛みを乗り越え、冷蔵庫を見ると、半透明の女の人が立っていた。

 あー、幽霊さんですよ。

 怒ってる顔が怖すぎる。



 でも大丈夫だ、こっちには、死神さんがいるんだから。

 さあ、ベルさん、お仕事ですよ。

 期待の目でベルを見ると、泡を吹いて気絶してる。


 マジで?

 幽霊を見ると、カタナにジリジリと近づいて行ってる。

 なんで、俺をムシしてそっちに行く。



 金縛り中のカタナは、泣きながら謝ってる。


「わたしの……食材……」


 なるほど、冷蔵庫から食材を取ったのは、カタナだ。

 カタナを助ける為に、クックが後ろから、幽霊に突っ込んで行った。


 ダメだと言うのが遅かった。

 幽霊をすり抜け、カタナに全力の頭突きをして、2人とも仲良くダウン。

 物理が効かないと、言ってたじゃないですか。




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