付喪神の戦い方と……ご飯
「死神さんが来たんだけど」
慌ててリビングに取って返し、インターホンが早く出ろと鳴り響く中でみんなに報告をする。
すぐに、狂ったような連打が始まり、ヤバいと焦りが加速させられた。
俺の報告にカタナは嫌そうな顔をし、レンズは冷たく目を細め、クックは無邪気に笑っている。
「どんな格好をしていました?」
レンズが冷静に聞いてきた。
俺は見たままを答えることに。
「大きな鎌を持って、黒一色の服だったよ。顔は可愛いかったけど」
それを聞いて、なんとなく緩い空気が流れた。
なんだこの空気はとオロオロする俺に、顔は聞いてませんと冷たく言われた。
3人はアッと声を上げて、顔を寄せ合ってヒソヒソ話を始めた。
俺は当然のように、耳を澄まして聞いてしまう。
「おい、また始まると困るぞ」
「そうですね。新しいふぇちを獲得されても困ります」
「ほんとに、困ったお兄ちゃんだね」
鳴り止まないインターホンに、終わらない会議。
パンツ一丁で聞き耳を立てる俺。
どうなるんだ、この状況。
やがて、インターホンが黙った。
次にドアに衝撃が走り、3人が一斉に口を閉じた。
会議が終わったのか、レンズが立ち上がりながら眼鏡を外し、俺の手に握らせ静かに口を開いた。
「始末してきます。死神コス好きを獲得されては厄介なので」
てっきり3人で行くと思っていたが、レンズは1人で玄関に向かった。
残った2人に、どうしてと聞くと付喪神の戦い方を教えてくれた。
付喪神には、3パターンの戦術があるらしい。
今回はパターン2だそうだ。
今の状況のように、複数の付喪神がいる場合、敵と戦うのは1人が望ましい。
付喪神は本体が壊されない限り、痛みもあり怪我もするが、決して死ぬことはない。
だから、他の付喪神が戦っている者の本体を全力で守るというワケだ。
他のパターンも聞こうとすると、レンズがハンカチで手を拭きながら戻ってきた。
あまりの早さに、敵が弱かったのか、それともレンズが強いのか判断がつかない。
レンズは俺の手から眼鏡を取り、ゆっくりとかけた。
その姿は、とにかくカッコいい。
キラキラとした目でレンズを見る俺に、カタナとクックが頬を膨らませた。
「あのなぁ、たいした奴じゃなかったんだよ。ああもう、ジャンケンで負けなきゃ俺が行ったのに」
「そうだよ。弱い死神だったんだよ」
それにしても凄いだろ。
いくら弱いって言っても、お話の中でしか存在を確認できない死神だ。
俺のレンズに向ける目が気に入らないのか、2人の文句が止まらず、レンズは勝ち誇っている。
色々とあったが、とりあえず最初の敵をクリア出来た。
感謝の気持ちを形にしようと、今日の食事は豪華にしようとして、何がいいか聞いてみる。
そういえば、付喪神って何を食べるのだろうか。
「なんか精のつく奴な」
「高価な物がいいです」
「白いご飯が食べたいな」
ああ、意外と普通だ。
正直、特殊な物だったら、どうしようと思っていたから安心だった。
3人の意見を総合して、自然にお寿司にする事になった。
出前のメニューを見せて、どれがいいか聞くと3人は何の迷いもなく特上を指差す。
なんとなく解ってはいた。
だから、メニューの裏は絶対に見せない。
だって、メニューの裏には船盛とか書いてるから。
船盛ならと思うと、寿司ネタが盛られた裸のカタナが頭に浮かんでくる。
妄想の中のカタナは、こぼれそうな胸をネタで隠して妖しく誘ってくる。
俺の箸が胸のネタにというところで、往復ビンタに現実に戻された。
レンズとクックが、ゴミを見るような目で俺を見ている。
うっかりしていたが、みんなは心が読めるのだった。
これからは、なにかと気を付けなければ危なそうだ。
「やっぱり、○○○○盛りをやるなら俺だよな」
カタナが解ってるじゃんと、得意な顔で指を鳴らした。
注文するか殴られるか選べというので、速攻で電話をかけた。
もちろん、メニューの裏を見られないように、そそくさとしまうのも忘れなかった。
しばらく待っているとインターホンが鳴り、お寿司の到着に俺は財布を持って玄関に向かい、すぐに固まった。
簡単に言うと、玄関のドアがない。
そういえば、死神がドアをぶっ叩いていた。
配達の方が微妙な顔をしている。
それはそうだ、だってドアがないのだから。
そんなことより、配達のお姉さんが、けっこうな美人さんなことが気になる。
得したなと俺はにっこりと笑い、お寿司を受け取り支払いを済ませた。
お姉さんは最後まで微妙な顔をして帰って行った。
お寿司が来たよと振り返ると、3人がいい加減にしろと怒っていた。
何がと聞く前に、自分の胸に聞けと拳が飛んできた。
遠ざかる意識の中で、どうしてと自分の胸に聞くために手を置くと、ちゃんと答えありました。
俺、まだパンツ一丁でした。
配達の方にパンツ一丁を見せるのが好き、というふぇちを獲得する所でした。
まあ、露出狂ですね。
危ない所でした。
そこで意識が途切れました。
目を覚ますと、俺の分のお寿司はキレイにありませんでした。
ほんと、ごちそうさまでした。