表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/112

毒と……黒白の花嫁 前編

 夕飯を終えて、クックに本を読んであげていると、ピンポーンと来客を伝えらる。

 もうね、最近はインターホンが嫌いになってきた。

 取ってしまおうと考えても、なくても呼んでないお客さんは来るしと諦める。

 居留守を使っても、ドアを壊されると、またお金が飛んで行く。

 結局は出るしかない。


 スコープを覗くと、黒い服に鎌が見えた。

 それも、5人分。

 団体さんの到着に、俺はそんなに罪深いのかと嫌になる。

 いつものように、小走りで報告に。


「死神さんの団体さんが来ました。とっても可愛い子達ですけど、お願いします」


 またかよ的な空気に、クックが頬を膨らませる。

 気持ちは解る、良い所だったからね。

 レンズはゲームをしていて、セーブポイントまで待って欲しいのと、顔は聞いてませんと言っている。


「じゃ、俺が行ってくるわ」


 台所で洗い物をしていたカタナが、手を拭きながら、玄関に向かった。

 なんか、死神の訪問から撃退が、作業みたいになってきている。

 5対1でも全く気にしていない。

 俺達もカタナの心配より、もう面倒だから来るなよと思ってしまう。



 クックと一緒に本の続きを読んでいると、10分もしない内にカタナが戻ってきた。

 相変わらずの強さに、カタナが強いのか、死神が弱いのか解らなくなる。

 お疲れ様とカタナを見ると、右腕から血が流れていた。

 返り血ではなさそうだ。


「変な剣で斬られたよ、あいつら、全員でイッキに来やがってさ」


 面倒臭そうに、腕から流れる血を拭いた。

 おかしいな、カタナに死神の攻撃は効かないはず。

 それに、鎌じゃなくて剣というのも、おかしい。

 薬箱を持って、大丈夫かと聞くと、平気だと言って手を振った。

 カタナは気にしてないが、俺には違和感がアリアリで、クックに聞いても解らず、レンズはゲームに夢中で、答えは得られない。

 うーん、まあ本体が傷付いたワケじゃないしと、ムリヤリ納得して、その日は終わった。




 次の日の朝は、いつも3人で起こしに来てくれるのに、レンズとクックだけだった。

 カタナはどうしたと聞くと、調子が悪いみたいで、まだ寝てるらしい。

 昨日の違和感がまた甦り、様子を見に行くと、寝てれば治ると言って布団を被ってしまった。



 朝食は久し振りに、トーストだけになった。

 カタナの作る食事が、朝の憂鬱な気分を変えてくれる重要な役をしていた事に、改めて気付いた。

 レンズもクックも、いつもと違う朝にテンションが低い。

 学校から戻ったら、ちゃんと考えなければと思いながら家を出た。



 昼休み、屋上で味気ないパンをかじる。

 いつもは、カタナの作ってくれるお弁当だ。

 教室に居場所がないとかでは絶対にない。

 ただ、愛情がたっぷり過ぎて、ハートとかが必ず入るお弁当が恥ずかしくて、屋上で1人で食べるのが、日課になってしまっただけだ。

 ほんと、俺の生活の一部にカタナが入り込んでしまってる。


 カタナがお嫁さんになってくれたら、とんでもなく幸せだろうなと、前に裸エプロンで食事を作ってくれた事を思い出して、ニヤニヤとしてしまう。

 妄想で昼休みが終わる前に、ポケットから携帯の振動が伝わり、現実に戻された。

 携帯を取り出して見てみると、クックからのメールだった。


『はやくかえってきて』


 これだけだった。

 嫌な予感がバリバリだ。

 慌てて電話をかけると、完全にテンパってるクックの声が聞こえる。


「お兄ちゃん、カタナがね、大変なの。かえってきて…………いいって言ってんだろ」


 困っているクックの後ろで、カタナの声が聞こえた。

 あー、なんかヤバいのは伝わりました。

 レンズは仕事中だし、午後の授業はサボりますか。


 教室に戻り、カバンを持って、隣の席の女子に、具合が悪いから早退すると伝えてくれと言って、ダッシュで家に帰った。



 家に戻ると、心配そうな顔のクックに出迎えられた。

 なにがあったか聞くと、手を引っ張りながらカタナの前に連れていかれる。

 カタナは毛布を頭まで被って、なんでもないと不機嫌な声を出した。


「んなワケないだろ。どっか悪いのか」


 なにを聞いても同じで、クックと顔を見合わせて、毛布をはぎ取る事に。

 止めろよと言うのを無視して、毛布を引っ張り、カタナごと引きずり出した。


「見ないで」


 らしくない弱々しい声を出して、右腕を押さえた。

 カタナの右腕は、付け根から真っ黒な影みたいな色に染まっていた。


 誰がどう見ても、完全におかしい。

 昨日の段階で考えるべきだった。

 震えるカタナは、お願いだから見ないでと、泣いている。

 仕方なく、クックと一緒に部屋を出て、レンズに電話をかける。

 仕事中のレンズに繋がる事はなかった。



 俺は気付いていたのに、自分のバカさ加減にイライラする。


「お兄ちゃん、聞いて」


 クックに適当に返事をして、レンズにリダイアルをする。

 繋がらない電話にもイラ立つ。


 いきなり耳元で、聞いてとクックが大声を出した。

 真剣な顔と声に、熱くなった頭を冷やされ、ゴメンと言ってクックに向きなおる。


「あのね、あの黒いのは怪我とか、病気じゃないの」



 一生懸命に教えてくれるクックの説明は、解り難かった。

 なんというか、あれは元に戻っていると表現したらいいのかも知れない。

 付喪神なら、誰でも経験する、想いで形を作る時みたいらしい。

 前に、レンズから聞いた事がある。

 初めは、影のような物から始まると。



「だからね、カタナは怖がってるの」


 やっぱり、解り難い。

 戻せないのかと聞くと、解らないと首を振る。

 レンズが帰ってくるには、まだ時間がかかる。

 なにか出来る事はないか聞いても、同じだった。


 色々と考えても無駄で、レンズの職場まで行くかと玄関に向かい、ドアに手をかける前にガチャりと先に開けられた。


 ドアを開けたのはレンズだった。

 俺と目が合い、出掛けるのは後にして下さいと言って、死神を引き摺りながら入ってきた。

 その死神はと聞くと、昨日の5人組の生き残りだと言って、床に転がした。


「昨日の件が気になったので、仕事を休みました。後でカタナに、休んだ分の請求をします」


 レンズも気になっていたようだ。

 なんか、気持ちが一緒で嬉しく思えた。



 ボロボロの死神から、カタナになにをしたか聞こうとしても、ダメだった。

 命は助けるという取引にも応じてくれない。

 クックはテーブルでなにかを書いてるし、レンズは冷たい目で死神を見ているだけだ。

 時間だけがムダに過ぎて行く。

 どうしようとレンズに尋ねると、クックが声を上げた。


「できたよー」


 紙をヒラヒラさせて、レンズに渡した。

 その紙には、謎の平仮名と数字が色分けされて書かれていた。


 レンズが死神の前に立ち、どうぞと言って、サイコロを見せた。

 受け取らずに、睨むだけの死神に、レンズはため息をつく。


「私が振りますね」


 そう言って、サイコロを転がした。

 サイコロの面には、数字ではなく、色だけが塗られている。

 ゆっくりと転がり、青の面で止まった。

 横目でクックの書いた紙を確認して、踵で左手の親指を踏み抜いた。

 ゴリッという嫌な音と悲鳴を聞いても、レンズは涼しい顔をしていた。


 いくらなんでも酷すぎると、レンズを止めると、俺ではなく死神を見ながらサイコロを振った。


「時間はあげましたよ。ゲット様が優しく聞いている内に、喋れば良かったですけどね」


 サイコロはまた、青の面で止まった。

 また青ですねと言って、左手の薬指を砕いた。

 死神とはいえ、苦しむ姿を見ていられない。


 止めろと強く言うと、時間がないと返された。



「ハッキリ言います。あと2日と持ちません」


 時間がないのも解るけど、それでも酷すぎる。

 クックの書いた紙には、体の部位が平仮名で書かれていた。

 尋問用になんだろうけど、シャレになってない。


「今朝のような、ゲット様の顔を見たくありません。悔しいですが、カタナの作る食事は美味しいですから」


「うん、見たくないよ。お兄ちゃんの、美味しい顔が見れなくなるのヤダ」


 俺は心配をかけるくらい、憂鬱な顔でトーストをかじっていたみたいだ。

 俺の顔を見て、レンズとクックが暗い目で死神を見つめた。



「ゲット様の顔を曇らせる全てを、私は赦しません」


 レンズの手から、サイコロが落ちた。


 サイコロが止まる前に、死神が叫ぶように助けを求めた。



 レンズとクックの声から恐怖を感じた死神は、素直に全てを話してくれた。



 カタナに傷を負わせたのは、死神の力ではなく、人間が作った剣だと言った。

 そして、剣には毒が塗られていた。

 両方とも、幻想視人(シャーマン)と呼ばれる特別な人間が作った物らしい。


 剣は神と名の付く者を祓う為に。

 毒の効果は、記憶を閉ざされる。

 元は毒ではなく薬で、悪夢や過去の記憶に苦しむ人を、救うのが目的で作られた物だった。



 それで、そのありがたい薬の効果を消すにはと聞くと、また黙ってしまった。

 何度かレンズがサイコロを振って確認したが、本当に知らないようだ。



「元が薬のようですから、解毒剤というのがないのかも知れませんね」


 レンズの言っている事が正しく感じて、目眩がする。

 どうするかと考えていると、クックが電話を渡してきた。


「ペンデルに聞いてみよ」


 クックはペンデルの運命視(りつみ)で、占ってもらうつもりだ。

 でも、きっと占いでは無理だ。

 あれは、そんな万能な物じゃないし、聞いた事に対する確率を教えてくれるだけだ。

 まずは、やり方を考えなければならない。


 前みたいに、助けられるか聞くのも意味がない。

 絶対に助かると、結果は解っているから。

 クックにお礼を言って、みんなで頭を悩ませた。


 死神は逃がしてあげた。

 役に立つかもしれないと思ったから。

 探す時は、それこそペンデルの占いで済む。

 もうすぐ、日が落ちる。

 カタナが遠くに行ってしまう気がして、怖かった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ