温泉旅行と……運命 前編
今日の俺はツイている。
学校帰りに、たまたまやった福引で、温泉旅行を引き当てた。
福引って、1等賞が入ってない物だと思っていた俺はマジで驚いた。
あと、接客をしてくれた、お姉さんのスタイルの良さと、笑顔にもビックリだった。
このままダッシュで帰って、みんなで喜びを分かち合いたいけど、大きな問題が。
ペア旅行なんだよ。
絶対にモメる。
行かないのは勿体ないし、じゃあ誰と行くとなると、決められない。
しばらく公園のベンチで考える。
なんか、家に居場所のない人みたいな気分だ。
あんまり遅くなると心配されるから、重い足取りで帰る事に。
ただいまと言って、ドアを開けると、3人が出迎えてくれた。
「お帰りなさい。ご飯できてるよ」
「お疲れ様でした。お風呂の用意が出来てます」
「お兄ちゃん、ごくろうさま」
なんだろ、今日はみんなの態度がおかしい。
いや、いつも俺には優しくしてくれるけど、特別な気がする。
まさか、知ってたりしてね。
はい、みんな知ってました。
福引のお姉さんに見とれている所を、バッチリ見られてました。
「俺が行くんだよ」
「私です」
「僕だもん」
はぁ、やっぱり掴み合いに。
ほっぺを引っ張ったり、髪を掴みあって、女の争いが見ていられないレベルで繰り広げられる。
もう1つ上に、殴り合いがあるが、そこまでは行かな……
「オモテ出ろよ」
「ええ、いいですよ」
「もう、怒ったからね」
行きました。
いやいや、流石にと止める。
そして、何故か俺が悪いという流れに。
「ゲットが決めないからだろ」
「ええ、福引の店員さんを、いやらしい目で見ていた事もイラつきます」
「お兄ちゃんの、バカ」
ああ、そうかい。
アッタマきた。
なんで旅行が当たって、俺が責められる。
ここは、男として、ビシッと言わなければいけない。
俺の男としてのオーラが見えたのか、3人は黙った。
よし、よく聞けよ。
「みんなで、行くぞ」
これが俺の答えだ。
誰かが仲間ハズレになるなら、行かない方がいい。
2人分はタダだから、みんなでお金を出し合えば行けるはずだ。
レンズが、かかる費用を計算して、4人で割った額を出した。
みんな、お財布を確認する。
俺はギリギリだ。
こないだの、窓ガラスの修理代が財布を軽くしやがったから。
きっと、クックも危ない。
毎月のお小遣いからでは、厳しいはずだ。
足りない分は俺がと思っていると、クックは楽勝の顔をしている。
「僕は大丈夫。温泉って初めてだから楽しみ」
良かった。
そういえば、お小遣いって、いくらもらってるのか。
まあいい、カタナとレンズは社会人だから、余裕じゃないのかよ。
「あのさ、新しいエプロン買っちゃって、ギリギリだわ」
でもな、デザインもギリギリなんだと、耳打ちされて、ありがとうございます。
計画性の高いレンズはというと。
「すいません。どうしても、欲しい物がありまして、私もギリギリです」
少しだけ顔を赤くして、チラチラと俺を見て、恥じらうレンズに、ごちそうさま。
4人中、3人がギリギリとは泣けてくる。
仕方なく、旅行までは食費なんかを削って、もう少しだけ余裕を持たせる事にした。
レンズが激安の食材を探して、カタナが美味しい料理にしてくれて、助かった。
いよいよ旅行に出発だ。
ワクワクしながら電車に乗り、お弁当を食べたり、お菓子を食べて移動も楽しんだ。
カタナとレンズは、旅に慣れているように見えて、聞いてみると。
「ゲットを探して、散々、乗ってるからな」
「私も同じです。数えきれないくらい、乗りましたね」
俺を探す旅をしていたのは、前に聞いていた。
2人とは違い、クックは歩きで探していたようだ。
改めて、ありがとうと言うと、いい笑顔のお返しをもらった。
駅に着いて、そこからバスに乗り、旅館に到着した。
手入れの行き届いた庭に出迎えられ、綺麗だけど、歴史を感じさせられる建物に、来て良かったと思った。
すぐに、チェックインを済ませて、部屋に荷物を置き、浴衣に着替える。
都合上、2部屋になってしまい、色々とモメたが、1つの部屋に全員で寝る事になっている。
夕食もお願いして、一緒の部屋にしてもらった。
まず、風呂だと言うカタナは、胸がいつも以上に揺れている。
ノーアレなんですね、浴衣からこぼれちゃいますよ。
ゲームコーナーに行かないと始まらないレンズは、綺麗に浴衣を着こなしている。
着物系は胸がない方が似合うって、ほんとなんですね。
お土産が見たいクックは、浴衣のサイズが合わないのか、ブカブカだ。
萌え袖が微笑ましいです。
ちなみに俺は、卓球がしたい。
他の人達は、どうやって決めているのか聞いてみたいくらいだ。
俺の意見が丁度いいと、卓球で順番を決める事に。
俺は勝ち負けがどうでもいい。
浴衣で動く、みんなを見たかっただけだから。
やっぱり、この分野では、カタナが楽しませてくれる。
凄まじく揺れる胸から目が離せない。
クックは警戒心が薄くて、大きめの浴衣が脱げてしまいそうだ。
これも解っていたけど、レンズが一糸乱れずに、勝利を手にした。
「最近のゲーセンには、卓球が出来る所がありますから」
やけに上手いと思ったら、そういう理由か。
卓球を終えて、勝者のレンズに従い、みんなでゲームコーナーへ向かう。
旅館にあるゲームコーナーは、かなりの確率でショボいと決まっているけど、ここは……やっぱりショボかった。
大きめなスーパーにある、ゲームコーナーの方がマシなレベルだ。
5分とかからず飽きてしまい、お土産を見に行くと、クックがニコニコとキーホルダーなんかを見ていた。
今は見るだけで、帰りに買う物を決めるだけにした。
さて、いよいよお風呂だ。
ここの温泉の目玉は、混浴だ。
おそらく、俺が行く事を予想して、カタナとクックは来る。
レンズは、2人に負けたくなくて、混浴に行くだろう。
結局、みんな混浴だな。
ドキドキしながら脱衣場でさっさと脱いで、混浴になっている露天風呂への戸に手をかけた。