占いと……確率 後編
完全にレンズが出来上がってしまい、打つ手を考えていると、工場の中の明かりが一斉に点いた。
闇に慣れていた目が、光に合わせようとぼやける。
薄目で死神を探す前に、上から鎌が雨のように降ってきた。
スピードはないが、かわせる数じゃない。
2人を庇おうとする前に、かなりの早さで引っ張られ、壁に叩き付けられた。
助けてくれたのはレンズだった。
息が詰まったが、鎌に当たるよりはマシだ。
ペンデルも無事みたいだ。
代わりにレンズは……完全にノビている。
俺達を両手に抱いて、壁に向かってダッシュしたレンズは、頭から柱に突っ込んでいた。
酔っ払っているレンズは、力の加減を間違えたようだ。
次の攻撃は避けられない。
それに、壁に叩き付けられたダメージで膝が笑っている。
ペンデルもまだ、ケホケホしている。
今の、助けられる確率を聞きたい衝動が込み上げた。
なにも出来ないが、次の攻撃を警戒していると、入り口から、足を引き摺る音と一緒に、死神がやってくるのが見えた。
その姿は、一言で表すと、大丈夫ですか。
余す所なく、包帯でグルグル巻きで、足を引き摺っている。
そういうファッションでなければ、重症な人にしか見えない。
息をするのも辛そうで、すぐに後者だと解る。
殴り合いに持ち込めば、俺にも勝機はあるかもしれない。
壁に張り付く俺と目が合った。
にらみ合いが続く。
鎌を投げられればお仕舞いだ。
だが、投げては来なかった。
懐を探ったり、足元をみている。
俺は確信した、よし、弾切れだと。
さっきの攻撃で、手持ちの鎌を全部、投げやがった。
ここで、大切な事を聞くしかない。
「ペンデル、俺と死神がやり合って、勝てる確率は」
ガクガクと言うことを聞かない足に、力と気合いを入れた。
「ケホ……50%です」
咳をしながら言う、銀色の目に希望を貰った。
命をかけるのに充分な数字に、死神に向かってダッシュをかける。
死神が手を引いた。
糸でも付いているのか、床に刺さっている鎌が戻って行く。
ヤバい、そういえば、部屋に投げられた鎌も、外に戻って行った。
もう止まれない、このまま突っ込むしかない。
鎌を受ける覚悟を決める。
嬉しい誤算が起こった。
怪我のせいで、手元が狂ったのか、数が多すぎたのか、戻した鎌を受け取れず、自らの後ろに全ての鎌が飛んでいった。
おまけに、1つ肩に刺さっている。
勝つ確率が上がった。
いや、これ込みの数字か。
拳を硬く握り、顔の真ん中を打ち抜いた。
初めて他人を全力で殴った罪悪感と、少しの快感が次の攻撃を遅らせ、死神の爪先が腹にめり込んだ。
体がくの字に曲がるのを我慢して、アゴを狙い下からアッパーは、かわされた。
わずかにカスったのか、包帯が解けて、顔が見える。
マジで、可愛い。
青アザだらけだけど、憂いを含む瞳と、控え目なって考えてる内に、アゴを打たれて、うつ伏せにダウン。
マズい、勝つ確率が、だだ下がる。
いやいや、これ込みの数字だと、言い聞かせる。
いやいやいや、確実に下がってるよ。
こんなに可愛い女の子だなんて、もう殴れない。
そもそも、女の子を殴って、ごめんなさい。
懺悔しながら顔を上げると、片足しか見えず、ガーターベルトと際どい下着が丸見えだった。
つまり、次に来る攻撃は、踵落としだ。
避けるか、手で防ぐか考える前に、下着に向かって突っ込んだ。
「キャッ」
悲鳴を上げて倒れる。
顔に触れるシルクの感触と、初めて見るガーターベルトに、なにがとは言わないが、力が湧いてきた。
死神はスカートを押さえて、バタバタと暴れた。
この反応は、本当に可愛い。
きっと、今の俺の勝つ確率は、一桁を切っているに違いない。
飽くまでも、俺の確率はだ。
「ペンデル、やれ」
スカートの中から叫んだ。
俺は敗けでいい、ペンデルが勝てればそれでいい。
あと、俺に出来る事は、もうすぐ終わってしまう、スカートの中という楽園を楽しむだけだ。
あれ?
なかなか幸せが終わらない。
スカートの上から押さえられる力が、逆に顔を押し付け、ありがとうございます。
「ペンデル、俺の事はいい。早くやれ」
「了解しました。全力で殺ります」
すいません、レンズさん、全力でとは言ってません。
これは、作戦なんだと言い訳する前に、死神さんと仲良く、壁まで飛びました。
ノビている死神を退かせ、レンズが俺の顔を跨ぐ。
ハッキリしない視界が、レンズのスカートの中を見て、はっきりとする。
「ペンデルー、次の私のする事でー、ゲット様が幸せにー、思う確率はー、どーれくーらーい」
レンズは、まだ酔っていた。
普段ならあり得ない。
それに、今日、最後の占いを、それに使いますか。
「ええと、凄いです。99.9%です」
ふふ、と嬉しそうに笑って、そのまま、ペタンと俺の顔に腰を落とした。
太ももで横から挟まれ、密着度を高められる。
さっきとは違い、控え目な下着もいいです。
幸せ過ぎですが、苦しいです。
「私もー、幸せでふー」
レンズらしくない、甘ったるい声が聞こえた。
どんな顔をしているか、見たかったが、スカートの中からでは叶わなかった。
「99.9%なんて初めて見ました。ゲットさんは、スカートの中が、本当に好きなんですね」
弾んだ声のペンデルに、親指を立てて答えて、意識が飛んだ。
その後、ペンデルが携帯で、カタナとクックの無事を確認していた。
死神はどうなったのか、意識が戻った時には、姿は見えなかった。
レンズはと言うと、スカートを押さえて、この世の終わりみたいに恥ずかしがっている。
「もう私はダメです。消えてしまいたいです」
半泣きのレンズも、とってもイイ。
ただ、記憶を消そうとするのは、止めて下さいね。
上目遣いの瞳の中に、殺意を感じます。
あと、これは後で聞いたのですが、死神が弱っていたのは、レンズにやられたそうです。
今回の始めに、ゲームしてましたよね、あのゲームソフトの発売日が今日で、帰りを急いでいたレンズに、速攻でやられて、その仕返しだったみたいです。
少し可哀想になりました。
家に戻ると、カタナとクックに出迎えられ、良かったと力が抜けた。
2人はレンズの様子を気にしていたが、言わないと約束していた。
破ったら、ほんと怖いし。
カタナの淹れてくれた、コーヒーを飲んで、一件落着です。
俺のバトルを、スカートの件を綺麗に削り、カッコよく話終えると、ペンデルがそろそろ帰ると言った。
どこにと聞くと、理由と一緒に、話してくれた。
今日の俺を見て、BLを開眼するのは確率が低いと思ったらしい。
それに、やっぱり、女の俺がいいと。
だから、俺が女に生まれ変わるのを、気長に待つと決めた。
帰る場所は、意思を持ってすぐに、右も左も解らない時から優しくしてくれた、占い師をしているお婆さんがいる。
これから、お手伝いをして、占いの腕を磨くと笑顔を見せてくれた。
最後に、クックが不思議そうに、ペンデルのボロボロの靴を眺めて、どうして、占いで俺を探さなかった聞いた。
「怖かったからです。ゲットさんが、この世にいる確率が0%だったら、どうしようって」
占い師なのに、逃げちゃいましたと、舌をだした。
そっかと言って、頭を撫でてあげた。
「次に会う時を、楽しみに待ってます」
「私も……ね……」
俺の口が勝手に動き、女の声が喉から零れた。
みんな驚いて、俺を見た。
ペンデルは涙を拭きながら手を振って、いつまでも心に残る、いい顔を見せて行ってしまった。
とっても、いい子でした。
いつか、女に生まれ変わる俺に、嫉妬しちゃいそうです。
とりあえず、フローリングの傷と、割れた窓をどうするか考えるのは、明日にします。
今日は、ペンデルの事と、下着のカタログを眺めながら、布団に入ります。
やっぱり下着のカタログも、新たに得たふぇちも、明日にします。
ペンデルの為に、口を動かしてくれた、前世の俺に感謝しながら、寝るとします。