占いと……確率 前編
夕食を終えて、チート並みに強いレンズとゲームをしていると、ピンポーンと聞こえ、来客を知らされた。
みんな、また死神かよと、面倒臭いオーラを出した。
コントローラーを置いて、玄関に向かい、スコープを覗く。
黒い服でもなく、鎌も持っていない。
どうやら、死神じゃなさそうだ。
久しぶりに、危険の無さそうなお客さんに、安心してドアを開けた。
俺の半分の背丈の、可愛い子と上目遣いに目が合った。
その子は、あれと、小首を傾げて、人差し指をくわえる。
何かを考えている様子で、俺を下から見たり、横から見たりしている。
俺には、見覚えは全くない。
それより、くたびれた服と、手や顔の汚れが気になった。
「あの、お姉さんじゃ、ないですよね?」
どこをどう見たら、俺が女に見えるのか。
不思議そうな顔で聞かれ、違うと言うと、また人差し指をくわえて、下を向いてしまった。
誰と間違えているのか、困っていると、報告の遅い俺を心配して、レンズが様子を見に来てくれた。
「その方は、どちら様ですか?死神じゃないなら、通報します」
レンズの細められた目は、幼い子を困らせている、犯罪者を見る目に変わりそうだ。
「いやいや、通報はちょっと。それに、訪ねて来てるのに、なんで俺が悪くなってんだよ」
納得してくれたのかは、不明だけど、通報はしない方向には行けた。
レンズが腰を屈めて、まだ下を向いている女の子に用件を聞くと、やっと顔を上げてくれた。
「僕を大切にしてくれた、お姉さんを探して、ここに来ました」
僕っ子みたいです。
クックと、かぶってますが、大好物でございます。
レンズがオデコに手を当てて、またですかと呟く。
人違いだけど、付喪神のようだ。
とりあえず、立ち話もあれなので、上がってもらう事に。
ボロボロの靴を脱いで、おじゃましますと言って、頭を下げた。
服と靴から見て、一生懸命、探していた事が伝わってきて、応援したい気持ちでいっぱいになった。
そいつ誰と聞くカタナに、付喪神だと教えて、まだ名前を聞いてない事を思い出す。
ここにいるのは全員、付喪神だと教えると、ほんとですかと、驚きながら自己紹介をしてくれた。
「僕、ペンデルって言います。みなさんも、僕と同じなんですね」
俺達も名前を教えて、本体を聞くと、胸元をゴソゴソして、首にかけられた、水晶を見せてくれた。
首飾りかなと言う俺に、占いや探し物に用いられる、ペンデュラムだとレンズが教えてくれた。
そして、ペンデルの次の言葉に、全員が驚く事に。
「やっと見つけた、僕の持ち主のお姉さんが、男の人に生まれ変わってて、びっくりしました」
はい?
みんな、固まりました。
目が泳ぐ俺に抱きついてくるペンデル。
まだ固まっているみんな。
「男の人だけど、大丈夫です。魂の形が、お姉さんと同じです」
ええと、大丈夫ですって言われても、俺はいいですよ、とっても可愛いですし。
でも、他の人は、ああ、ダメですね。
「なに、抱き付いてんだよ」
「非常識です。会ったばかりなのに」
「僕のお兄ちゃんから、離れて」
引き剥がそうとする3人に、ペンデルは嫌ですと抵抗した。
うーん、俺を取り合う女の子達を見れて、幸せです。
疲れるまで、引っ張り合いを続けて、なんとかペンデルが離れてくれた。
はぁはぁ言っているみんなに、飲み物を配って、落ち着いてもらい、詳しく話を聞く事に。
何度も生まれ変わりをしている俺は、女性だった事もあるようだ。
その時の俺は、占い師をやっていた。
それと、百合とショタとBLが、大好きなアレな人でもあった。
その為に、大切にしていたペンデュラムが、持ち主を喜ばせようと意思を持った。
「それが、僕です。お姉さんが、いつも読んでいた、薄い本を参考にして、形を作りました」
それで、百合とショタを同時に満たせる、見た目なんですね。
俺の目が気に入らないと、レンズとクックはイライラしている。
カタナだけは、ペンデルの汚れている格好を気にして、お風呂を用意してあげた。
着替えを持って、ペンデルの手を引き、お風呂に連れて行った。
ほんとにカタナは面倒見がいいですね。
ご立腹のレンズとクックの機嫌を取っていると、えーというカタナの声が響いた。
なにが起きたと、確認に向かう。
いきなり来た俺達を見て、カタナが慌ててタオルでペンデルの体を隠した。
チラリと見えたのは……。
「あのさ、こいつ、男なんだけど」
マジで?
どうみても、女の子なんだけど、さっき見えたのはアレだよね。
「僕、男の子なんですけど。僕って言ってるじゃないですか」
いや、クックも僕って言いますし、男の娘だったんですね。
ほんとに驚きました。
何故か、レンズとクックが、良かったと笑っていた。
その後、お風呂に入ってサッパリしたペンデルに、更に詳しく聞く事に。
持ち主の、全てのふぇちを満足させようとしてだと教えてくれた。
確かに、さっき聞いた中の、BLが抜けていた事に気が付いた。
女装すれば百合も行けるし、歳はショタだし、脱げばBLも行ける、正に完璧仕様だ。
それで、BLに興味のない俺に、レンズとクックが良かったと、言っていた事に納得だった。
「僕、大丈夫です。好きな人なら、どっちでも頑張ります」
拳を握り締めて言ってくれるのは、とても嬉しいけど、まだそれは開眼していない。
考え込む俺に、ペンデルは、とんでもない爆弾を放り込んだ。
「レンズさんと、クックさんは、僕と同じ男の子ですよね。どんな事をすれば、ゲットさんは喜んでくれますか」
レンズとクックの顔から、表情が消えた。
おかしな事を言ったと思ったのか、俺とカタナの顔を見て、違うんですかと確認する。
「だって、レンズさんは、胸ないですよね。クックさんは、僕って言ってま……」
言い終わる前に、レンズとクックとペンデルが消えた。
カタナが笑うのを堪えている。
すぐに風呂場の方から、3人が戻ってきた。
「ほんとに、ごめんなさい」
ペンデルが、レンズとクックに、限界まで頭を下げた。
「解ってもらえれば、それでいいです」
「僕は、僕ってゆうけど、女の子なんだからね」
女である証拠を見せて、誤解が解けたようだ。
カタナは、まだ笑うのを堪えていた。
レンズが怖い目で睨む。
「笑い過ぎです。なにがそん……危ない」
窓ガラスが割れる音と同時に、レンズが俺に向かってダイブする。
そのまま俺を抱えて、部屋の端まで移動した。
みんなは大丈夫かと見ると、床に小さな鎌が4本、刺さっていた。
どうやら、誰も怪我はないようだ。
「危なかった。死神が来たのか」
予想外の死神の訪問に、恐怖の感情が湧く。
今までは、インターホンを鳴らして、正面から来ていた。
てっきり、それがルールなのだと思い込んでいた。
「早く窓から離れて下さい」
レンズの言葉に従ったのは、ペンデルだけだった。
何故か、カタナとクックが、不自然に動かない。
カタナは椅子に座ったままで、クックは突っ立ている。
「なにやってんだよ、早くこっち来いって」
俺の声にも反応はなかった。
なにか変だ。
もしかして、動けないのかと聞く前に、鎌が床から抜け、窓の外に戻って行った。
「動けないみたいですね。恐らく、敵の能力です」
それは、おかしい。
鎌は当たっていないし、カタナに死神の力は効かないはずだ。
レンズが眼鏡に手を置き、見えない早さで、カタナとクックを、窓から安全な位置に運んだ。
「私達は、本体を身につけていないと、力を使えません。油断しましたね、カタナ」
カタナが本体である刀を、持っていない事に気が付いた。
必死に体を動かそうと、震えるカタナとクックが顔をしかめる。
「敵の狙いは、これです」
レンズが人差し指で、カタナとクックの少し下を指した。
そこには……