新生活と……お客さん
まだ死にたくはなくて、なしくずし的に3人の付喪神との新生活が始まった。
都合の良いことに、俺は一人暮らしをしている。
これは、実家から離れた高校に通うタメだ。
俺の命を狙う死神に、かなりの不安はあるが欲望の方が勝っていた。
さあ、やるぞとパンツ一丁で誘いに行くと、3人は取っ組み合いの喧嘩をしていた。
「俺が最初だ」
カタナが怒りを込めて叫んだ。
「いいえ、初めは私です」
レンズが冷静に主張する。
「初めては僕なんだから」
クックが一生懸命に声を張り上げた。
そのまま髪の引っ張り合いから、ほっぺの掴み合いになり、このままでは殴り合いに発展しそうだ。
まさか、この俺がこんな可愛い女の子達に取り合われる日が来るなんて、まるで夢を見ているようだった。
たけど、いつまでも夢の世界にいるワケにもいかず、見ていられなくなり止めに入ると、3人はキッと俺を睨み付けた。
誰も譲る気がなく拉致が開かない展開に、レンズが俺に決めてもらおうと提案し、互いの顔を見合せ同意した。
さて、どうしたものか。
3人が俺に期待の目を向けている。
カタナの胸も良いし、レンズの眼鏡にアレするのも捨てがたいし、クックの足もスベスベしていて最高だ。
いくら考えても、俺には順位なんて決められそうにない。
だから、自分に正直に行こうと決めた。
「全員、一緒はダメかな?」
時が凍り付いた。
どうやら俺は、伝説の時魔法の使い手だったのかも知れない。
3人はまた取っ組み合いを再開したし、俺はパンツ一丁で居たたまれないしで、どうしていいか解らない。
これは流血沙汰になるなと正座で見ていると、なぜか俺に矛先が向けられた。
「あのなぁ、言いたくないけどよ、ゲットは胸なしに用はないんだよ」
カタナは、こぼれそうな胸を見せつけ、ウィンクを決めた。
「はぁ、昔から思ってましたが、頭に栄養が行かなかったんですね。ゲット様は、眼鏡女子にしか興味は有りません」
レンズは、バカにするように言って、眼鏡の端に手を置き頷いて見せた。
「ゲットお兄ちゃんは、子供が好きなんだから。大人はどっかいっちゃえ」
クックは、八重歯を見せて笑った。
シチュエーションは夢のようだが、いざ自分が味わうとなると辛い。
固まる俺に、3人のアピールはエスカレートしていく。
「童貞はな、デカイ胸が好きなんだよ」
「いいえ、童貞だからこそ、眼鏡という小道具に夢を持つのです」
「お兄ちゃんは心は子供なんだから、同じ子供が好きなの」
なんだか、生まれてきて申し訳なくなってきた。
なんでもするから止めてくれ、そう思って祈ってみると、3人は揃って俺を見た。
「じゃあ、決めろよ」
「ですね、決めて下さい」
「うん、僕を選んで」
どうして、そこだけ心を読むんだよ。
もういい、俺の全力の欲望を見せてやる。
そして、全員まとめてだと3人に向かいダッシュをかけると、狙い済ましたカウンターが待っていた。
顔に腹に足と衝撃のトリプルをもらい、耐えられずに後ろにぶっ倒れた。
大の字になる俺を、三人がじっとりとした目で見下ろしてきた。
頼むから、その目は止めてくれ。
「あのさぁ、順番も決められないのは、男としてどうよ?」
「最低ですね。自分の気持ちすら、解らないなんて」
「迷ってるお兄ちゃんは、好きじゃないよ」
もう心が折れそうだ。
その後も、パンツ一丁の俺を見下ろしながら、優柔不断だの童貞はこれだからと、心をバキバキに折りにくる。
この子達は守りに来たのか、それとも馬鹿にしに来たのか。
だけど、おかしな気分が湧いてくる。
そこで、いきなり3人はヤバいと口を閉じた。
ただならぬ雰囲気に、俺はすぐに察した。
敵がやって来たのだと。
確認のタメにどうしたと聞くと、3人は言い難そうに目を逸らした。
その様子から、かなり深刻な事態だと飲み込めた。
それほどヤバい敵なのかと更に聞くと、3人はお前が言えよと顔を合わせてヒソヒソと会議を始めた。
やがて、レンズがため息をつき、俺に教えてくれた。
「あのですね、今の状況で、ゲット様が新たなふぇちずむを獲得しそうだったので」
敵が来たワケではなさそうで、安心して体の力が抜けた。
その前に、新たなふぇちずむとか言ったかな。
続くレンズの説明を聞き、ヤバそうな雰囲気に納得がいった。
今のやり取りの中で俺は、3人の女の子に罵られ好きという、新たなふぇちを獲得しかけていたらしい。
ふぇちが増えると、敵とライバルが増えて困ると、慌てて止めたと説明された。
俺はなんでもエロに結びつける変態だと、自覚させられる。
微妙な気持ちの俺を、クックがよしよしと頭を撫でてくれた。
それを見てカタナがズルいとクックをどけて、大きな胸を俺の頭に乗せて、いいだろうと笑った。
その柔らかさを一言で表すと、ありがとうございます。
レンズが下品と文句を言い、また喧嘩が始まりかけた時、ピンポーンと音が鳴りインターホンに来客を知らされた。
カタナの胸に泣く泣く別れを告げて、玄関に向かいドアを開けた。
開けた瞬間に、客はパンツ一丁の俺を見て、ドアを思いっきり閉めた。
あのですね、今のお客さん大きな鎌を持ってました。
黒い服を着てました。
きっと、敵ですね。
はい、解ります。
ドアに鍵を掛けて、皆の所にダッシュした。