幽霊退治と……怖がり 後編
嫌がるカタナとレンズを引っ張りながら、やっと、二の鳥居に着いた。
クックにばかり任せては悪いので、ここは俺が行く事に。
腕を離さない2人を、なんとかなだめて、クックに任せる。
歩き出して、そういえばと、社にお酒を供える事を思い出す。
振り返ると、クックに抱き付きながら、カタナとレンズが、なにかをラッパ飲みしているのが見えた。
いい飲みっぷりですね。
とっても、嫌な予感がします。
「あのさ、お供えのお酒、貸して」
2人は中身を飲み干して、ドンと瓶を置いた。
「飲まなきゃ、やってらんねーよ」
「ほんとです。足りないれすよ」
もう、ダメかもしれない。
「お兄ちゃん、ジュースじゃダメかな」
クックは、水筒を差し出してくれる。
もうね、今はクックだけが頼りだよ。
グチり続ける2人を置いといて、どうするか話し合っても、いい案は出ない。
仕方なく、酒瓶を逆さまに振って、出てきた2滴で我慢してもらう事にした。
その代わり、心を込めて手を合わせた。
すっかり茹でダコになったレンズを背負い、文句が止まらないカタナを腕に、一の鳥居を目指す。
俺のリュックを持って、笑っているクックだけが救いだった。
やがて、最後の一の鳥居が見えてきた。
「あと少しだな。ただなぁ、最後のは、やりたくないな」
最後の手順は、お地蔵さんを、蹴っ飛ばすだ。
二の社でも、微妙な事になった。
もはや、なんの為にやっているか解らない。
「最後まで、がんばろ」
クックに励まされ、やる気を取り戻す。
よし、行くかと、気合いを入れ直した所で、カタナが悲鳴をあげた。
どうしたと聞くと、震えながら、茂みを指差している。
その方向を見ても、なにもない。
大丈夫だと言っても、震えて聞いてはくれなかった。
「じゃあ、見てく……く、苦しい」
茂みに向かおうとする俺の首を、レンズが締め上げた。
「ダメれす。見えないのれすか、あれ」
見えないの前に、苦しい。
必死にタップして、ギブと伝える。
「とにかく、ダメれす。ここで、朝まで待ちまふ」
「そうだ。明るくなれば、大丈夫だ」
なにが大丈夫か解らないし、レンズは酔っているしで、動こうとしたら、首を絞められる。
厄介すぎる。
「お兄ちゃん、僕が行ってくるよ」
クックが天使に見える。
1人じゃ危ないから、一緒にと言いかけると、また首を絞められた。
「大丈夫だよ、あそこまで行って、お地蔵さんを、蹴ってくればいいんだよね」
ここは、クックに頼るしかないようだ。
くれぐれも、危なくなったら逃げるのと、ソフトに蹴るんだよ、と言って送り出した。
手を振りながら、クックは駆け足で鳥居に向かった。
俺から離れない2人は、まだ震えて茂みを見つめていた。
ここまでの経緯を考えれば、クックなら大丈夫だと信じられる。
問題は、帰りだ。
ここから動きたくないと言う2人を、どうやって説得するか。
考える前に、キャーという悲鳴が上がった。
「今度はなに。幽霊でもく……ぐるじい」
レンズが俺の襟首を持ったまま、走り出した。
置いてかないでと、泣きそうなカタナの声が遠くで聞こえた。
ハンパじゃない速度で、山道を駆け回る。
意識が持って行かれそうだ。
「レンズ、止まれ。ヤバいって」
テンパってる上に、酔っているレンズに俺の声は届かない。
レンズを止める方法を必死に考える。
答えが出る前に、ゴンという重い音が鳴り、レンズは止まった。
俺には衝撃はなく、パタッと尻から地面に着いた。
なにが起こったか確認すると、レンズとカタナがノビていた。
どうやら、とんでもないスピードの頭突きを喰らったようだ。
もう寝ててくれた方が、ありがたかった。
1つ問題が片付いて良かったと、思う間はもらえなった。
「お兄ちゃんー、失敗しちゃったー」
テヘペロな顔でクックが走ってくるのが見えた。
その後ろには、恐ろしい顔のお友達が走ってきている。
マジで?
思わず、二度見してしまう。
「お地蔵さんの前でー、転んじゃってー、オデコがー、ぶつかったらー、壊れちゃったのー」
走りながら、状況を説明してくれた。
そっちも、頭突きか。
カタナとレンズは、完全にノビている。
2人を担ぐのは無理だ。
どうやって幽霊とやり合うか、考える暇すら、後ろに立つ気配が許してくれなかった。
「物部月仁ですね。そこの付喪神達の監視の目が厳しくて、手間取りましたが、お命、頂戴いたします」
首に鎌が突き付けられた。
カタナとレンズは、茂みにいる死神を見てたんだと解ったけど、頼むから、後にしてくれよ。
走ってくるクックは、死神を確認して、キッと目が鋭くなった。
持っていたリュックを、死神に向けてぶん投げる。
死神は、顔面に飛んでくるリュックを鎌で振り払った。
リュックは囮で、死角を作り、同じ軌道でクックが頭から突っ込んだ。
また、頭突きだった。
俺の目には、リュックかクックか解らなかった。
そのまま、馬乗りになって殴り付ける。
クックのおかげで、死神はなんとかなりそうだ。
もう1つの問題に目を向けると、幽霊が、ダウンしているカタナとレンズの周りを、ぐるぐると回っていた。
さあて、どうするか。
やっと、考える時間を与えられた。
カタナとレンズが前に、どうやって幽霊を始末したと言っていたか。
「クック。ちょっと待ったー」
ん?と殴る手を止めて、クックが振り返る。
死神はボコボコで、ぐったりしていた。
クックを退かせて、視点の合わない死神を立たせる。
「すいませんけど、あそこの幽霊をなんとかして下さい」
フラフラの死神に、はいこれ持ってと、鎌を握らせる。
覚束ない足取りで、幽霊に近付き、鎌で首を断ち切った。
幽霊は、空気に溶け込むように消えて行った。
死神も限界だったのか、パタリと倒れてしまった。
最後は、あっけなかったが、これで終わったみたいだ。
命だけはと、お願いする死神に、アンタのセリフじゃないだろと、ツッコミを入れて、見逃してあげた。
その後、完全に気を失っている、カタナとレンズを、なんとか引きずり、タクシーが拾えそうな道までたどり着いた。
携帯でタクシーに電話をかけようとしていると、俺達の前に1台の車が止まった。
窓が開き、綺麗なお姉さんが顔を見せた。
「お疲れ様。送ってあげるから、乗りなさい」
どうやら、レンズに仕事を頼んだ人のようだ。
お礼を行って、カタナとレンズを押し込み、車に乗り込んだ。
帰りの道中で、今回の事を教えてくれた。
俺を狙いに来る死神が、幽霊を始末して、その死神を、カタナとレンズが倒すという作戦だったらしい。
もちろん、場所と日時を、死神に教えていた。
それと、あの指令書には、ワザと違う方法が書いてあった。
正しい手順ではなく、逆打ち。
それは、鎮めるのとは真逆の効果で、最後の蹴りも、万が一を考えての物だった。
万が一とは、幽霊が怒らなかった場合という、酷い理由だ。
他には口を利かず、無言のまま、家に着いた。
カタナとレンズを下ろして、クックと一緒に、お礼を言うと、色っぽい顔でウインクを返してくれた。
「思い通りに動いてくれて、ありがとう」
クスクスと笑いながら、行ってしまった。
なんとなく、悪意を感じましたが、仕事は成功で終わりました。
なんだか、どっと疲れました。
まぁ、カタナとレンズの仕事は守れたし、クックは楽しかったと言っているので、よしとしときます。
でも、もうあの人からの仕事はコリゴリです。




