ゲーセン対決と……死神さん 後編
現実は本当に厳しい。
数撃っても、当たらない事を教えてくれた。
もう一度、作戦を練る為に、休憩スペースで会議を開く事に。
「もう、無理ではないでしょうか……」
「そうかも……しれません」
「あきらめちゃダメだよ。でも、楽しいね」
諦めかけている、ノワールとネロを励ますコクは、ゲーセンが気に入ったようだ。
なんと言葉をかけていいか迷っていると、近くから、甘い懐かしい香りがした。
コクも、クンクンしている。
キョロキョロと探すと、わたあめの機械を見つけた。
「お兄ちゃん、これ、なにかな?」
不思議そうに聞くコクに、割りばしを持たせ、くるくると回すと教えて、お金を入れた。
振動音が鳴り、ケースの中に、砂糖で出来た糸が溜まっていく。
ほらと言うと、コクは割りばしで糸を集めて、顔を輝かせた。
「姉様ー、みてーみてー」
出来上がった、わたあめをノワールとネロに無邪気に見せる。
ノワールとネロにも、やらせていると、カタナとクックがやってきた。
「おっ、いいもん食ってんじゃん」
「お兄ちゃん、僕もー」
クックとカタナも楽しそうに、わたあめを作った。
レンズはと聞くと、時間が勿体ないと言って、1人でゲームをしてるらしい。
技術が必要なゲームは、恐らく全滅だ。
もうやらなくても解る。
なるべく、運の要素の高いゲームで勝負するしかない。
うーんと、頭を悩ませていると、3姉妹が真剣な顔で聞いてきた。
「ゲット様は、どうして、私達の為に、良くして下さるのでしょうか?」
「命を狙ってるのに、どうして……ですか?」
「お兄ちゃん、なんで?」
ええと、答えに困ります。
そんな真面目な顔で聞かれても、気の利いた言葉は出てきませんよ。
「バカだな、イイ女の前で、カッコつけたいからに決まってんだろ」
カタナが助け船を出してくれた。
ノワールとネロが、オロオロとしている。
「そ、そ、そうなの、でしょうか?」
「え、え、イイ、女って……」
ドモりまくるノワールとネロに対し、コクはキョトンとしていた。
照れ臭くて、他の答えを言えない俺は、そうだと答える。
ノワールとネロは、耳まで真っ赤にして、俯いてしまった。
「ひひ、あたし、イイ女なんだぁ」
コクは、誇らしそうな顔をした。
「ったく、お前らチョロすぎ。悪い男に引っ掛りそうで心配だわ」
「僕はー?」
もうヤケだと、カタナもクックも、イイ女だと宣言した。
背中に、ジットリとした視線を感じて、振り返ると、レンズがジト目で、俺を見ていた。
「私は、違うんですね。だから、私の味方ではなく、死神の方に……」
いやいやいや、違いますってレンズさん。
ほら、わたあめ作ってあげます。
機嫌を直して下さい。
その後、レンズの機嫌をなんとか戻して、最後の勝負に。
みんなで、考えた結果、ラストバトルは、スロットゲーム対決。
メダルを入れて、レバーを引くだけの、運頼みの勝負。
制限時間の中で、より多くのメダルを獲得した者が勝ちだ。
これなら、勝てるかもしれない。
3姉妹は仲良く並んで座り、スロットのレバーを引いている。
レンズは、なにやら機械の上にある、データ機を確認して、席についた。
先に当たりを引いたのは、レンズだった。
運までもレンズの味方なのか。
「データで判断しました。そろそろ、メダルを吐き出す周期なので」
さすが、ゲーセンの店員だ。
機械の仕組みを解っている。
もう無理だと思って眺めていると、コクが当たりを引いた。
ジャラジャラと増えるメダルを、コクは赤い目で見ていた。
元から目は赤かったが、更に赤く感じる。
それから、立て続けに当たりを引く。
こんなに連続で、当たる物なのか。
コクの目は、深紅に染まっていた。
その様子を見て、レンズが呟いた。
「運命操作……」
なんの事か解らなかったが、レンズは本気になったようだ。
次々とデータ機を確認して、メダルが増えそうな席を渡り歩く。
あっという間に、メダルの山を作った。
店員さんに、メダルの枚数を計測してもらう。
みんな、ドキドキしながら見ていた。
結果は、3枚差でレンズの勝ちだった。
ノワールとネロは少しだけ、残念そうな顔をしたが、潔く負けを受け入れた。
疲れたのか、コクはフラフラとしている。
「完敗です。でも……楽しかったです」
「次は勝ちます。本当に楽しかったです」
「疲れたけど、とっても楽しかったよ」
3人は楽しかったと言ってくれた。
それだけで、良かったと思えた。
こうして、ゲーセン対決は幕を閉じた。
カタナが、最後に写真を撮ろうと言って、プリクラの機械に全員を押し込んだ。
「あの、写真を撮るのは、あの、初めてで」
「えっと、どうすれば」
「どんな顔すればいいの?」
あたふたとする、3姉妹。
「そんな、急に。私、写真映り悪いんですよ」
「僕も初めてだよー」
「俺も女の子と撮るのは、初めてなんだけど」
キョドる俺とレンズとクック。
「いいか、今日の事を頭に思い浮かべな。それでいい。さ、撮るぞ」
カタナの合図と同時に、パシャリと鳴った。
出来上がった写真を見ると。
みんな、とってもいい笑顔だった。
それから、カタナが写真を丁寧に切り分けた。
「いいか、これ持って、母さんの所に帰んな」
カタナは人数分に分けた写真を、3姉妹に渡した。
「まだ……」
「でも……」
「母様……」
暗い顔をした3姉妹を、引き寄せ抱き締める。
「きっと、レンズに勝つより、喜んでくれるぞ」
3つの顔が本当にと聞いてくる。
「俺の言う事が信じられないのか?」
一生懸命に首を振って、カタナにしがみついた。
外は夜の色に染まり、別れの時間がやってきた。
カタナの事を、姉様と呼んで抱きついて、別れを惜しんだ。
レンズとは、ライバルだと手を握り、再戦の約束を。
クックは、友達だと笑い合った。
俺には、3人とも赤い顔で、モジモジしているだけだった。
目をウルウルさせる3姉妹は、しつこいぐらいに何度も手を振った。
反対の手には、みんなで撮った写真を、宝物みたいに持っていた。
最後に頭を下げて、消えるように行ってしまった。
今日が終わるのが勿体なくて、ゆっくり帰り道を歩く。
少しだけ、寂しいなと思えた。
そういえば、今回の件で、レンズの仕事は解ったが、カタナはなんだろうと気になって聞いてみる。
「俺は保育園で、保育士やってるよ。だからさ、ガキはほっとけなくてな」
面倒見の良い、カタナにピッタリの仕事だと思った。
色んな事が頭に浮かんだが、今は止めておく事にした。
「レンズも大人気ないよなー。負けてやれば良かったのにさ」
カタナは新しく出来た、3人の妹を思いながら、前を歩いていたレンズに文句を言うと、意外な答えが返ってきた。
「ふふ。私が負けたら、あの子達とのゲームが、終わってしまいますからね」
顔は見えなかったが、言葉と声で、どんな顔をしているか、すぐに想像がついた。
「お兄ちゃん、おんぶー」
眠そうなクックが、俺の背中に飛び付いて、楽しかったねと言って、寝てしまった。
カタナとレンズが、ズルいと言って、腕を絡ませて、家までの道のりを、幸せな気分で、ゆっくりと歩いた。
ほんと、いい子達でした。
また、遊びに来てくれるといいですね。
次は、どっちの味方をしようか迷ってます。