夢と……朝ごはん
カタナと話をしながら、朝を迎えた。
俺とカタナ以外は、まだ寝ている。
覗きに行くと、クックと3姉妹が可愛らしい寝顔を見せてくれた。
みんな年相応に幼く、あどけない顔が微笑ましかった。
「あいつらに、美味い物でも作ってやるか。ゲットも待ってな」
なにかを企んでいるような顔で笑い、準備をしてくると行ってしまった。
昨日、誉められた事がよっぽど嬉しかったみたいだ。
テーブルに突っ伏して寝ているレンズに、毛布をかけ直して待っていると、戻ってきたカタナの姿に、目が釘付けになった。
髪を後ろで纏め、バッチリと化粧をしていた。
それより驚いたのは、カタナの格好だ。
エプロンをしていて、その下は……裸だった。
あの、都市伝説でしか聞かない、裸エプロンですよ。
エプロンをしているのに、裸という矛盾を抱える伝説上のコスプレ、裸エプロン。
まさか、実物を見られる日が来るとは思いませんでした。
「へへ、似合うか。これで、好きな人にご飯を作るのが夢だったんだよ」
ちらりと舌を出して、イタズラっぽく笑う。
小悪魔フェイスとは、これの事だと思った。
「待ってな、美味しいご飯を作ってやっからな」
くるりと後ろを向くと、ポニーテールが揺れ、滑らかな背中と、お尻が目に飛び込んできた。
頭がクラクラします。
後ろから抱き付きたい衝動が凄いです。
これは、見て楽しむ物だと自分に言い聞かせます。
こんな、お嫁さんがいたら、きっと幸せですね。
妄想が押し寄せて来るのですが、目を離すのが、勿体ないので我慢です。
カタナは手慣れた感じで料理をしていく。
手際とスタイルの良さに、目が離せない。
卵をかき混ぜてるカタナの胸が、手と一緒に揺れているのを楽しんで見ていると、ノワールとネロが起きてきた。
「おはようござ……えっ?」
「おは……なっ……」
カタナのアレな格好を見て、固まっている。
「あーあ、夢の時間はおしまいだな。もう少しで出来るから、待ってな」
少し残念そうだ。
まだ固まっている2人を座らせ、朝の挨拶をする。
やっぱり気になるのか、顔を赤くしてチラチラとカタナを見ていた。
「朝食とは、あのような姿で作るのが、普通なのですか?」
ノワールが真面目に聞いてくる。
「どうしよう、私も作る時は……」
ネロは胸元を抑えて考え込んでいる。
そういえば、ネロが料理当番をしていると言っていた。
「いやいや、あれは、なんだろ。カタナの趣味かな」
聞こえていたのか、フライパンを握るカタナが後ろを向いたまま、答えてくれた。
「お前らも好きな人が出来たら、やってやんな。喜ぶぜ、きっと」
嬉しそうに言うカタナに、ノワールとネロが、憧れのような視線を向けた。
「じゃあ、母様にしてあげましょうか」
「はい。母様がいいです」
2人は顔を見合せ、いい顔をして頷いた。
苦笑いしながら、間違いを教えたが、あまり通じなかったようだ。
「出来たぞー。クックとコクを起こしてこいよ」
テーブルに並んだ料理はどれも美味しそうだった。
ノワールとネロは、急いで起こしに向かった。
カタナは、俺にウィンクをして、名残惜しそうに着替えに行った。
まだ寝ているレンズを揺すると、もう起きていた。
嫌な予感に、汗が吹き出したが、レンズは怒らなかった。
「あんなに、幸せそうにしてたら……ズルいですよ」
大暴れすら覚悟していたのに、レンズは悔しそうに下を向いているだけだった。
「ゲット様に、なにもしなかったので、見なかった事にします。誰でも、夢はありますからね」
最後の方は、声が小さくて聞こえなかった。
聞き返しても、いいえと言って顔を洗いに行ってしまった。
さあ、みんなで朝御飯です。
3姉妹は夢中で食べてます。
「素晴らしいです。この世に、こんな美味しい物があったのですね」
絶賛の言葉を送りながら、卵焼きを口に運ぶノワール。
「本当に美味しい。なにが入ってるのかな」
味を確かめながら、味噌汁をすするネロ。
「美味しいね。幸せ味だね」
ニコニコしながら、タコさんウインナーを頬張るコク。
ええと、確かにカタナさんのご飯は、とても美味しいのですが、この子達が普段は、なにを食べているか気になりました。
聞いてみると、ここ一週間は、食パンだけだったそうです。
それを聞いて、クックが自分のタコさんウインナーをコクにあげてます。
更に詳しく聞いてみました。
1年前、母親の名誉を取り戻すと誓い、3人で家を飛び出した。
死神としての仕事は出来ず、ノワールとネロがバイトをしながら、俺とレンズを探していた。
寝る場所は、ノワールの空間移送で、別の空間に飛び、テントを張って寝ていた。
食事も質素に済ませ、お風呂は、人気のない滝や湖で我慢した。
そして、やっと見つけたのが、あのゲームの日だった。
「あのさ、もう諦めて帰れよ。お前ら悪い奴じゃないから、殺したくねえよ」
「それが、いいと思います。もうゲット様を狙わないと約束するなら、見逃してあげます」
「うんうん、そうしなよ」
「きっと、母さんが心配してるし、帰った方がいいよ」
俺達は、心からの心配を込めて言ったが、3姉妹は首を横に振った。
「自分の娘が、誓いを果たせない半端者だと知ったら、母様は喜んでくれると思いますか」
ネロとコクも頷いた。
ため息をついて、カタナがレンズに提案した。
「なあ、負けてやれよ」
「私に死ねと、言っているのですか」
カタナは手を振って、違うと続ける。
「あれだよ、勝負して、レンズが負けたフリして逃げた事にすればいいじゃん」
それだと思った。
別に命を取らなくてもいい。
母親のチャルナも、逃げた事で今の境遇になった訳だし、レンズも逃げた事にすればいい。
それで名誉は回復する。
それでどうだと聞くと、3姉妹はヒソヒソと話し合っている。
もうそれでいいですと、レンズは面倒臭そうにしている。
「ダメだよ。ズルして勝っても、母様は喜ばないよ」
幼さからくる、融通の利かなさをコクが口にした。
ノワールとネロも、それに同意し、カタナの案を断った。
ハンデ戦とかは、ズルには入らないらしい。
どこまでが、ズルなのか。
「じゃあさ、戦い以外で勝負は?」
俺の提案に、カタナが速攻で乗ってきた。
「よし、胸のサイズ勝負な。ノワールとネロの勝ちだ。よかったな」
「本気で怒りますよ」
鋭い目で眼鏡に手を置くレンズに、俺とカタナはもちろんの事、3姉妹も震え上がって抱き合っている。
カタナが謝って、話を戻す。
「なんか得意な事とかない?それで勝負すればいいよ」
3姉妹は、暗い顔でないと答えた。
俺は聞かなければ良かったと後悔した。
この辛そうな顔を見ていられない。
「じゃ、じゃあ、レンズの苦手な事で勝負しよう。よし、そうしよう」
無理に明るく言っても、3姉妹の顔は曇ったままだった。
どうしたものかと考えていると、クックがここで勝負しようとチラシを持ってきた。
「ここなら、いっぱい勝負できるよ。あとね、僕、行ってみたかったの」
楽しそうなクックが、持っていたのは、ゲームセンターのチラシだった。
その後、中断していた朝御飯を食べて、ゲームセンターに行くかどうかを、話し合いました。
色々と約束事を決めて、まさかの、ゲーセン対決という事になりました。
さてさて、どうなるんでしょうね。
戦いみたいな物騒な事は、止めてくれたので、なんとなく安心しました。
レンズさんには、悪いのですが、3姉妹に勝って欲しいなぁと思ってます。