コーディネートと……対決
死神達とのゲームから3日が経ち、レンズとクックの怪我はすっかり良くなっていた。
付喪神はタフなんだねと言うと、これでも治りが遅い方だと教えてくれた。
あの力を半減させる場所と、例の3姉妹がそれなりに強い力を持っていたようだった。
玄関から乱暴にドアが開く音が聞こえ、ある事情で出掛けていたカタナが不機嫌そうに帰ってきた。
「あいつら、マジでなんなんだよ」
レンズは腰の後ろに括った刀を外し、冷蔵庫からビールを取りだして一息に飲み干した。
ええとですね、誰とは言いませんが、やたらとゲームをやろうと誘ってくる3姉妹さんがいまして、とても困ってます。
ゲームをした次の日から、毎日のように訪ねてきます。
毎回とんでもないハンデを提案してきては、カタナにコテンパンにやられてます。
どうしてカタナさんは言い方は悪いのですが、止めを刺さないのでしょうか?
ちょっとカタナさんに聞いてみます。
「あいつら、逃げ足がハンパない」
だそうです。
ハンデ無しなら、あの3姉妹さんは相手にならないみたいです。
なので、しつこくハンデ戦をお願いに来るみたいです。
ちょっとだけ可愛いですね。
「ノワールが戦闘経験を積む前に、絶対に殺すべきです」
レンズが真面目な顔でカタナに意見をする。
「わかってるよ。でもさ、あいつらヤバくなると、すぐ消えて逃げるんだよ」
カタナがイライラしながら、新しいビールの缶を開けた。
「もう治りましたので、次は私も出ます」
そうだなと言い、ビールを飲み干した。
ノワールの使う空間移送の力は、逃げたりするのに便利だが、攻撃に使われると恐るべき脅威になるとレンズから聞いている。
ノワールはまだ、使いこなせていないとも教えてくれた。
それは置いといて、今日はもう来ないと判断して、みんなで買い物に行くことに。
クックが死神とのゲームで頑張ったから、ご褒美にお洋服を買ってあげるのが目的だ。
可哀想なことにクックは服を少ししか持っておらず、靴の時と同じでお金を持っていないから、みんなご褒美は服しかないと決めていた。
持っている服は、前に一度だけ子供服のモデルをやった時に頂いたらしい。
仕送りも入り、カタナもレンズも給料を貰った後ということで、夕食も外で食べる予定で家を出た。
色んな服が見たいとカタナとレンズ言われ、近くの百貨店に行くことに。
お店に着いてどれがいいと聞いても、クックは楽しそうに眺めるだけで、いらないと首を振った。
「見てるだけで楽しい」
クックを抱き締めようとして、通報されたら困るので我慢する。
カタナとレンズも困っている。
どうすると話し合い、それぞれがコーディネートを考え、無理矢理にプレゼントをするという作戦を立てた。
ガチで選ぶために、クックに順位を決めてもらい、最下位は夕食を奢るという勝負に発展した。
さあ、クックのコーディネート対決の始まりです。
「妹がいたらいいなと思って生きてきた、俺の妄想を舐めるなよ」
全くカッコよくないセリフを、カッコつけて言う俺。
「いくらガキの服だってな、服選びで俺が負けるワケないんだよ」
勝ち気な顔で、自分の勝ちを疑わないカタナ。
「夕食は豪勢にしましょうか。お財布の心配をしておいて下さい」
すでに勝った後の事を考えているレンズ。
クックに少し待っててと言い、俺達は別々の方向にバラけた。
俺が負ける訳がありません。
こんな時、なにが物を言うかといえば、それは経験です。
たぶん、あの2人は子供服なんて選んだ事はないでしょう。
可愛くて、ツンデレで、ココアが大好きで、将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さんという、エア妹とのエアデートを経験済であります。
なので、圧倒的に俺が有利です。
経験者の振る舞いで、服を見ていて気が付きました。
エアデートではショッピングをしたことが無く、エア妹とはいつもスイーツを食べに行っていました。
これで、有利は無しですね。
というより、男だし不慣れだしで、一番の不利なのは俺ですね。
頼る物を失った気分でフラフラと見ていると、新たな発想が湧いて来た。
似合う服を探すのではなく、俺が見たい服でいいのではと。
俺が選んだ服を着て、笑ってるクックが見たい。
途端にやる気を取り戻し、選ぶ手に力が入る。
やっぱり、クックは元気な子だから走ったり転んだりする。
そんな時、下着が見えてはアレだ。
よし、キュロットだ。
いや、だからこそ、スカートなのか……?
レギンスにしようか、ニーソも捨てがたく、今のまま素足もアリだ。
いやいや、これだ……
熱中して見ていて時間を忘れていた。
時計を見ると、けっこう経っている。
まずいかなと考えながら、足早にみんなの所に向かった。
「おせーよ」
カタナは文句を言っていて、レンズは余裕な顔をしていた。
みんなに待たせてごめんと言って、作戦の大詰めに。
クックに返品は利かないと言い聞かせ、買って来た服を差し出した。
みんなで袋を開けて見せると、カタナはニヤリと笑い、レンズはため息をついた。
「おいおい、上は裸かよ。すげえセンスだな」
「正気を疑いますね」
そこで気が付いた。
上の服を買ってないことに。
俺の負けが決定してしまい、続いて2人のセンスを見せつけられる。
自信満々のカタナのコーデは、可愛らしい中にも、カッコいい印象を与える、オシャレを解っているなと思わせる物だった。
余裕な顔のレンズのコーデは、クックの事を考えての動きやすそうでいて、ボーイッシュなイメージの物だった。
2人とも凄いですね。
例え上の服を買っていても、俺の負けでした。
もう勝ちのない俺は消化試合の気分で……いやいや、ここからがメインですね。
店員さんにお願いをして、試着室を借りた。
そして、クックの一番気に入った服を着てもらう。
クックは全員の服を持って、おずおずと試着室に入って行った。
「俺ので決まりだな」
「いいえ、普通に考えて私のです」
「俺のはないね、はい」
注目しながら待っていると、クックが恥ずかしそうに試着室から出てきた。
上はカタナの選んだワンショルダーの黒のタンクトップに、赤の前開きパーカーを羽織り、下はレンズの選んだ七分丈の青のカーゴパンツ。
足元は俺の選んだ、スニーカーソックスだった。
とっても似合ってます。
でも、これでは、誰が勝ったのか解りませんね。
一応、クックさんに聞いてみます。
「えっとね、選んでたら、ごちゃごちゃになって好きなの着たの」
モジモジしながら、フードを深く被って顔を隠してる。
どこまでも可愛らしい。
「みんな、ありがと。また宝物が増えちゃった」
恥ずかしそうだけど、こっちが嬉しくなるような、いい笑顔を見せてくれた。
色々とあったのですが、コーディネート対決は引き分けという事で落ち着きました。
でもですよ、カタナとレンズは女の子で、俺だけは男の子です。
男の子にとって、嬉しそうな女の子の笑顔は、とても価値のある物です。
あの笑顔が見れたのですから、ある意味俺の1人勝ちです。
試着室を貸してくた店員さんに、お礼を言って夕食へ。
てっきり割り勘と思っていたのですが、おかしな話の方向に。
「服の着てる面積で言えば、俺の勝ちだよな」
「まあ、今回はそれでいいとします。私は2位ですね」
えっ?
面積ってなんですか?
俺のは、スニーカーソックスのみ……。
確かに、その理屈なら負けですがズルくないですか?
そう言い返すと倍になって返ってきたので、俺の奢りになりました。
みんな良く食べるので、バイキングで妥協してもらいました。
料金に含まれないカタナさんの頼んだお酒が、けっこう痛かったです。
お腹もいっぱいで楽しく話をしながら家に着くと、お家の前に誰かいます。
ええと、死神さんの3姉妹が、体育座りでドアを眺めてます。
待ってたんですね。
とっても可愛らしいですが、さて、どうしましょうかね。