第二話 その1 《改めて》弟子入り
「申し訳ありませんでしたッ!!」
俺は、目の前の白髪少女に土下座していた。
…目を覚ますと俺は、二階のベッドに寝かされていた。体のあちこちを確認したが、目立った痛みは無いようであった。
恐らく高位の回復魔法か何かで誰かが治してくれたのだろう。
そして辺りを見回すと、心配そうに師匠が俺の事を見ていたので、俺は師匠への失礼極まり無い第一印象、実力を疑った事、心の中でバカ呼ばわりした事などの全てを話し、今の状況に至った。
「大丈夫だから…。馬鹿もコミュ症も自覚しているし、
私がもし貴方の立場だったら同じ事を思うと思うし…」
俺は約数時間前、この白髪少女に敗北した。はっきり言って、負ける気がしなかった。勝てる気しかしなかった。しかし俺は彼女に、回復魔法無しでは全治三ヶ月の大怪我を負わされたのだ。……しかも魔法ではなく体術で。
「ほら、顔を上げて?私は何も怒ってないよ?」
地面にゴリゴリと頭を擦り付けている俺に、師匠は優しく
話し掛けてくる。 俺は目に涙を浮かべながら、師匠の方を見た。
…数時間前と、全く立場が逆転している様な気がする。
と言うかこの人、本当に一度戦った事がある人とならこんなにスムーズに会話出来るのか。不思議な人だ。
しかし、こうして見ると師匠は本当に、……整った顔立ちをしているな。こんなに綺麗で極限師で、あとは性格が……あれ?今の師匠って性格もまともだよね…。
てことは…………?
「ん、どうしたの?私の顔、なにかついてるの?」
そうだ。そうだよ!!今の師匠は、見た目も、性格も、魔法の腕も完璧な、絵に描いた様な『美少女』じゃないか!
これからこの完璧な美少女と共に暮らせるなんて…
俺はなんて幸せモノなのだろう!!
と、感嘆の声が盛れそうになるが、ぐっと堪えた。ああ…これから師匠と同居か…楽しみだな…
「それにしても遅いな。ルナとかいくん早く帰ってこないかな」
あ。そういや忘れてた。後二人いるんだった。
まあ、元々の目的は極限師になる事だし、美少女と二人きりで生活することじゃないし………。
少し残念がっていると、突如。
リリリーン!!と、心地いい音が部屋に鳴り響いた。
これはベルの音か。そういや此処、二階だったな。
誰だろう、スミスさん達だとしたら、鍵ぐらい持っている筈だし。
そんな事を考えながら師匠の方を向くと、そこには、
………床に倒れて動かなくなっている師匠の姿があった。
前言撤回。性格に難ありは変わらず。
そういや言ってたな…ベルの音聞いただけで気絶とか…
「マジだったのかよ!!」
あ、あれっ、何でだろう。急にこの人と一緒に暮らすのが嫌になって来たんだけど。いや待て落ち着け優魔。
たかがちょっとバカでコミュ症なだけで、後は完璧な師匠じゃないか。何をそんなに嫌がることがあるんだ。
いや確かに、考えてみればそのとおり。しかし、俺の『勘』が、この人は危険だと、そう言っている。何故だか知らないがこの人、激しい危険の香りが…………
『おーーーい!誰かいないのー?』
ありゃ。そういえばベルがなってたんだったか。一体誰だろう?誰かの知り合いだろうか…取り敢えず、俺は返事を返してみる。
「はい、どちら様ですか?」
『どちら様って…あれ?貴方もしかして、今日から弟子入りするって言う例のあのあの子?』
おそらく俺のことで間違いないだろう。しかし、なぜそんな事を知っている?やはり、誰かの知り合いか何かか。
『初めまして!私は犬山梨乃!烏とは古くからの友人だよ!リノって呼んでくれていいからね!』
はぁ!?まじかよ。まさかあの師匠に弟子以外の知り合いがいたとは…。まあでも不思議ではないか。昔は外出できてたみたいだし。
「えっと、梨乃さん。今日は何か御用でしょうか?」
『え?用?特に無いけど……あ、そうだ!折角だから、新しい弟子の顔を見てみたいかなー」
この人、絶対今思いついただろ。まあいいや、俺も梨乃さんの顔、見てみたいし。
「分かりました。ちょっと待ってて下さい」
俺は床で横になっている師匠をベッドに寝かせ、玄関へと向かう。…階段を降りる途中、何気なく壁などを見渡してみる。
綺麗な模様が壁中に描かれており、しかも壁ごとに微妙に模様の種類が違う。天井にも何かが描かれており、階段を降りると棚などにはツボやオブジェが飾られている。まるでどこかの芸術美術館の様だ。これは全部師匠の趣味なのであろうか。どれもかなり高そうだが…あの人、金はどうやらたくさんあるみたいだな。流石は極限師だ。
これまた高級そうな雰囲気の玄関に着き、俺はドアを勢い良く開けた……すると突如。
ガンッ!と、鈍い音と共に、何かがドアにぶつかる。
「ぐえっ!痛い!!」
スミスさんや師匠を見てきたせいか、背は少し高いように思えた。そこには、薄いオレンジ色の髪に茶色の瞳をした
女性が、頭を押さえてへたり込んでいる姿があった。
「もう!痛いよキミ!ドア勢い良く開けすぎ!」
この人も師匠やスミスさんに負けず劣らず美人だが、それと同時にやはり少し特殊なところがあるみたいだ。
…だって、普通の訪問客はドアの真ん前に突っ立ってたりしないでしょ。しかも何かキレてきたし。
「まあいいや!君が今日から弟子入りするって言うあの子ね!よろしく!お名前は?」
「篠崎優魔です。よろしくお願いします、梨乃さん」
「リノで良いって!よろしくね!」
なんか、師匠とこの人が友達って言うの凄く納得がいった気がする。察するに、彼女は恐らく師匠と正反対の性格だ。だからきっと今まで上手くやっていけるのだろう。…性格が正反対だと相性が良いのかと問われるとちょっと分からないが、この人達はお互いの欠点を補い合える、そんな意味での正反対のような気がした。
「あれ?てか、烏は?いないの?」
「ベルの音にビビって気絶してます」
「え、なんで!?ベルは二階のルナちゃん達の部屋にしか聞こえない筈よね?」
俺はこの人に、今までの出来事の全てを話した。
梨乃さんは何て言うか、どうでもいい所でなんか謎の質問をしてきたり、何故か話の途中で感動していたりと、やはり少し特殊な人であった。
でもまあ話の趣旨はしっかり理解していたみたいだし、
話すら聞こうとしなかった数時間前の師匠よりはマシか。
そう言えば、この人一応客なんだよな。いつまでもこんな所で立ち話をさせてしまって良いのだろうか。しかし、この家の主が気絶しているのに中に上がらせて大丈夫なのだろうか?
…と、そこに。
「ただいま帰りましたー!ってあれ、優魔サンと…リノサン?」
「ん。どうしたこんな所で」
買い物袋をぶら下げたスミスさん&かいくん登場。
二人が来てくれたなら、中に上がらせても問題はないだろう。と思ったが、しかし。
「ルナちゃん、かいくん、こんにちは!そして私はそろそろ帰るね!また今度ゆっくり優魔君のこと教えてね!!」
…ここで謎の帰る宣言。うーん、特殊だ。
俺達に手を振った梨乃さんは、踵を返して去っていき、
スミスさん達も当たり前のようにその後ろ姿を見送った。
「て言うか優魔サン、目を覚ましてたのデスか。師匠はどうしたのデスか?」
「梨乃さんが来た時、ベルの音で気絶しちゃいましたけど」
「なッ!?それは本当かッ!?そうか、師匠は二階に…
くっ、待っててください師匠様ぁ!!」
わ!ビビった。かいくんはそう叫ぶと、物凄い速さで家の中に入っていった。
気絶くらいでそこまで焦らなくても良いのでは…と思いつつ残されたスミスさんを見てみる。
「むぅ、かいくん荷物置きっぱなし…。もう、優魔サン!!あのとんちんかんが置いて行った荷物、運んで下さい!!」
あれ。なんかこの人、怒ってる?
…これってもしかして、アレなの?そういう感じなの?
「スミスさん」
「何デスか!?」
「師弟内恋愛って、ありなんですか」
「ナナナ、何を言っているんデスか!!!ありな訳無いでしょ!!は、早く荷物持ってください!!」
どうやらマジの様だ。成程、ここまで来てこんな事実を知ってしまう事になるとは。所謂三角関係ってやつか。
でもまあ、他人の恋愛事に首突っ込む趣味は無いんでね。
今はそっとしておこう。
俺はかいくんが置き去りにした荷物を持ち、…改めてこれからの生活に少しワクワクしながら、家のドアを開けるのであった。




