伝え聞く噂を自分に当てはめて
「ねえ勇、あたしの中学の頃の同級生の話なんだけどさ」
「うんうん」
食堂で一緒になった珍しい取り合わせである。
勇太と小鞠。
二人で顔を突き合わせて昼食をつついている。
勇太はお弁当も持ってくるが、気分を変えるため、週の半分ほどは食堂で食べる。
小鞠は毎食学食である。
今日は利理や張井さんと一緒に来ているのだが、彼女達がサイドメニューで迷っているうちに、小鞠はさっさと食べるものを決定。ここまでやってきているのだ。
そこでバッタリ、勇太と遭遇というわけである。
「クリスマス、ホテル取ったんだってさ」
「えっ、ええーっ!? ほ、ほんと!?」
衝撃的な小鞠の言葉に、チキン野菜あんかけ定食を箸でつまんだまま停止する勇太。
日々を青春と恋愛に生きる女子高生たちにとって、クリスマスというのは特別なイベント。
彼氏との仲をワンランクアップさせる季節なのだ。
そこで、ホテルともなればどうだろう。
ロマンちっくな夜景を見ながらの食事、そして彼との特別な語らい。
最後は一緒の部屋で……。
「きゃーっ」
勇太は正しく乙女であった。
ちなみに、やってきた利理も張井さんも、そして話をした本人である小鞠もフリーであり、彼氏などいない。
青春? 恋愛? くそくらえである。
「まあホテル取ったのは、社会人の彼氏なんだそうだけどさ」
思いの外、勇太が劇的に反応したので対応に困った様子の小鞠。
「外泊許可が取れないからって、あたしの家にお泊りする口裏合わせを要求されてんのよね」
「志堂さんかー」
張井さんもご存知の人である様子。
利理は無駄に大盛のご飯を、腹立たしげにもっしゃもっしゃ食べる。
「かーっ、やってらんないわー。世の中では青春やら恋愛を謳歌する子がいるってのに、あたしらはねえ」
「うむ……クリスマスは女三人で集まって食事会でもするかって話なのよね」
「あー、その、うーん、ごめんなさい」
勇太が謝ると、小鞠と利理が複雑そうな顔をした。
「勇の場合はねえ……もう、仕方ないわよ」
勇太の彼氏である郁己に告白し、玉砕した経験者である板澤小鞠。
非常に勇太と小鞠はビミョーな関係なのだが、今は人間関係も良好である。
「小鞠んもオトナになったねえ」
他人事の利理。
傷心となった親友に胸を貸した彼女も、今の今までフリーである。
男性受けしそうな外見ながら、思わず友情を取ってしまう人格が災いしているのかもしれない。
「んー」
張井さんがお蕎麦を食べながら唸った。
彼女は状況を知らないが、大体こんな感じっていうのは、幼なじみたる小鞠から聞いている。
今は終わったこと。そして大事なのは、過去を振り返ることよりも未来に向かうことである。
「私たちもー頑張らなきゃいけないのかもしれない」
「そ、そうねっ」
「たしかに……」
ぬぬぬ、と唸る三人娘である。
「それじゃあ、また私が合コンを……」
「いやー……。合コンに来る男子って、あたし苦手みたいだわぁ」
外見は遊んでそうな女子高生の利理。その実、誠実な男性が好きなので、絶対に外見で損しているタイプである。
「やっぱりね、彼氏はきちんと、時間と段取りを踏んで関係を深めて行きたいなー、なんて思うのよねぇ」
「利理って古風よね」
「そんな小鞠んだって、インテリ男に弱いじゃない」
「うっ、そ、それは」
「二人共似た者同士だよねー」
お蕎麦に七味を振りながら、張井さんは呟いた。
そんな彼女は、シャイン4というイケメン集団に囲まれながら、一切浮いた話が無い。
そもそも付き合いが長い小鞠ですら、この少女の男性の好みを知らないのである。
「そういう洋子は、据え膳食ってないわよね? 明らかに和泉は狙えるんじゃないの?」
「私、弱みにはつけこまないー」
「うっ」
和泉の名前が出てきて、胸を押さえて顔をしかめる勇太。
弱った和泉に心当たりがありすぎる。
「まあ色恋ってものがある限りは、惚れた腫れたは仕方ないわよ。気に病みなさんな」
勇太カップルの犠牲者の一角にそう言っていただけると助かる。
「まあ、多分あたしの友達に関しては、バレるのは時間の問題だわね」
いつのまにやら食事を終えて、小鞠は立ち上がった。
「大体、こそこそ隠さなきゃいけないような関係って何よって話。隠したものはいずれバレるし、後ろめたい関係ならいずれ破綻しちゃうわよね。だったらオープンにしてりゃいいのよ」
「まあねえ。バレたら修羅場だもんねえ」
「ひえー」
想像するだけで身の毛もよだつ勇太である。
なまじ、そうなりうる可能性もあったと思うとゾッとするばかりだ。
「でさ、勇んとこは進捗どうなの?」
利理がズバッと切り込んできた。
ここで馬鹿正直に、遥たちに話した内容を言うのもはばかられる気がして、勇太はちょっと控えめに。
「ま、まあ順調かと……。隠し事とかないし」
「ふむー、そりゃ結構なことだね! ……爆発するといい」
一体どうしろというのか。
「冗談冗談。ま、あたしら、勇には結構感謝してるんだって。小鞠んも若気の至りでいろいろあったけど、その辺根に持たないタイプだし。あ、洋子は知り合ったばっかりだったよね」
「ですー」
「ってことで、気を使わないでさ。あたしらと勇の仲じゃん」
「うん、ありがと」
気持ちのいい三人組である。
スッと胸のつかえが取れる勇太。いや、胸のつかえとか特に無かったか。
だがまあ、気になることは気になるのだ。
小鞠たちの話じゃない。
行くべきところまで行くときが来るんだろうなあ……と。
つまり、そういうこと。
(郁己とその先、かあ……)
むむむ、と考えこむ。
「そんじゃ、またね」
「じゃーねー」
「じゃー」
勇太もひらひらと手を振って見送る。
もうすぐ午後の授業が始まるのだが、なーんとなくそんな気にならなかったり。
さぼる気は無いのだが、これからの事を考えると頭の中がぐるぐると。
「いや、そりゃ覚悟だってしてるさ。……って覚悟ってなんだよ。それは私が望んだことでしょ? ほら、家族になる人はみんな経験してることだし、これは避け得ない絶対必要なことなんだから、だから」
「おっ! 勇、なにしてるんだ?」
「ひゃああ!?」
急に思い描いていた人物に声をかけられ、派手に悲鳴を上げる勇太。
「な、なんだなんだ!?」
「あー、いやー、なんでもないよ郁己」
「そ、そうか? おっと、そんな暇じゃねえ。勇太、もう授業始まるぞ!」
手を握られて引っ張られる。
「おおっ!?」
我知らず赤くなる顔。
力強く引っ張られながら、
(クリスマス、クリスマス……!)
悶々としてしまう勇太なのであった。
果たして、一線を超えてしまうのか、どうか、なんて。




