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食欲の秋といえば彼女の出番

 秋深し。

 九月は碧風祭。

 十月は体育祭。

 イベントに追われ、確かに自分ひとりならば堪能していたが、仲間たちと共有できてはいなかった季節である。

 ゆえに、後回しになったこのイベントを、今は開催せねばなるまい。


 小さな体に、大きな胃袋。

 板澤小鞠は、食欲の秋を堪能する気満々であった。


「利理、メンバーを集めなくちゃいけないわっ!」

「ををー、小鞠ん燃えてるねえ」


 もはや腐れ縁の相方、竹松利理は、適当な調子で(はや)してくる。

 対して、小鞠は相方の揶揄(やゆ)に違わぬ、燃えた瞳で答えた。


「高校二年生の秋は何回あるか知ってる? 一回。一回なのよ、一回! 日にちなんて問題じゃないわ! その秋をどう過ごすかなんていうのは、これは大変重要な話題よ! 人によっては読書だし、スポーツだわ! 利理はどう? 本を読む? 運動する?」

「いやー、あたしはしないなあ」

「でしょう! じゃあ、恋の秋とも言う……言わなかったかな……まあ、言うのよ! で、恋は!? してないでしょ! ほら見なさい!」

「そこはちょっとあたしの返答を待ってほしいんだけど。いや、してないんだけどさ」

「だからこそ、燃えなければいけないのよ!!」


 利理の抗議も耳に届いていない。

 まあ、豆タンクみたいな相方なのだ。

 後退するスイッチは付いていない。


「それで、面子はどうすんのさ」


 ここでお題目ばかり高らかに宣言していても、事は進まない。

 利理は相方に、具体的計画について持ちかけた。

 ふむー、と小鞠が考え込む。


「うちのクラス、妙にダイエット好きな子が多いのよね。何でも食うのは洋子くらいじゃない?」

「んじゃ、張井(はりい)さんを一人ねー。あとはどうする? 別のクラス?」

「いつもの面子じゃないかしら。あとは、彦根さんとか、大盛さんとか」

「おっ、食べそうな面子だね!」


 そう言う事になった。


 二年三組から、主催者の板澤小鞠、そして協賛の竹本利理。二人の横にちょこんと立っている、色白でぽやっとした雰囲気の女の子は張井洋子さん。虫も殺さぬような外見をしていながら、正しい意味で好き嫌いをもたない、万物を食らう系女子である。具体的には、昆虫食大丈夫系女子。

 二年二組は、金城勇、彦根麻耶、大盛栄。そして留学生のレヒーナ嬢。

 二年一組から、苦労性女子である和田部晴乃。


 なんだか、昔の知り合いと今の知り合いを集めたようになってしまった。

 ちなみに大食いと言えばあの人! である岩田夏芽であるが、今日は紺野くんとお約束があるらしい。

 小鞠、利理、麻耶は、爆発せよ! と唱和したのである。


 かくして一行、昨年の雪辱とばかりに、ケーキバイキングに乗り込んでいった。

 今年はモンブランフェアである。

 多種多様なモンブランが並ぶ、モンブラン専門の実に栗色のコーナーが存在している。


「まさか、昨年はバランスがいい食事なんて甘っちょろい事を言ってた晴乃が来るなんてね」

「境山くんが、女の子はもうちょっとふっくらしてた方がかわいいって」

「爆発せよ」


 藪をつついてみたら蛇が出た小鞠である。

 ここにもリア充が爆誕しているとは!!

 これは怒りに任せて食べるしかない。


 相方が、食べたもの全部胸にいく利理と、誰も気づかないうちに食べ終わっている張井さんというのが若干あれだが。


「ねえ、板澤さんさ、太らないタイプ?」


 真剣な面持ちで聞いてきたのは麻耶である。


「うちは、ウエスト周りとお尻に容赦なくつくんだよね」

「あたしもウエスト周りかな。でもすぐ落ちるよ」

「え、なんで。羨ましい!」

「小鞠んはいつも元気でしょ。すごく燃費悪いのよこの子」


 常にエンジンがかかっているので、すぐに栄養を消費してしまうらしい。


「食べて肉が付いたら、運動で筋肉にすればいい」


 まるで、パンがなければケーキを食べればいいのに、と言わんばかりに、大盛さんが断言した。

 実際に我が身で実践して見せている彼女の前で、割とその辺不精な麻耶はやな顔をする。


 そんなやり取りの向こう、勇とレヒーナに挟まれても動じず、ぽやっとしている張井さん。

 さて、ウェイトレス嬢が登場し、制限時間90分を告げる。

 彼女たちのテーブルに設置された電子表示が、高速で秒を刻み始める。

 少女たちは戦士となって旅立つのだ。


「ワオ! ケーキバイキング!? ボクどれくらい食べられるかナー」

「うんうん、好きなものを好きなだけ食べられるって天国だよねー」


 レヒーナと勇が、ケーキタワーを作り上げている。

 そして、持ち帰るや否や、談笑しながらケーキ一個を一口。

 あっという間にタワーが消えていく。

 今年も勇の胃袋はすごいことになっている。そしてレヒーナと言う新たな相棒を見つけたようだ。

 二人の主戦場は、王道のスポンジケーキ。クリームや、挟み込む具材によって、味も見た目も千変万化。

 見て楽しく、食べて美味しい。

 そしてお腹にもどっしり。


「ンー!! 幸せ! ボクお代わり持ってくる!」

「あ、私もー」


 いつの間にかすっかり仲良しな、勇とレヒーナであった。

 一方、大盛さんはその名の通りの大盛に……はせず、綺麗にバランスよく、様々なケーキを少しずつ食べる。


「栄ってそのへん結構マメだよねえ」

「お皿の上の配置は、大事。このババロアケーキを中心にして、プリンケーキ、チーズケーキ。こっちは抹茶ケーキ二種」

「おお、配置がアートだわ」


 麻耶はいちいち感心する。

 真似して栄と同じ配置にするのだが、中心にチョコレートケーキ、それを囲むように、モンブランとロールケーキモンブラン、コーヒーケーキにバターケーキ。


「なんか、うちのお皿、絵面がすごく茶色いんですけど」

「誰しも得意不得意がある」


 大盛さんは決して相手を否定しない。


 利理と晴乃は、平常運転。

 やれこのケーキが新しいだの、このイチゴショートは王道だの、二人でぺちゃくちゃ喋りながら、なかなかお皿に取らない。

 仕舞いには、


「あんまり喋ると、唾がケーキに飛ぶわよ!」


 と他のお客さんに注意される始末である。

 慌てて近くのケーキを取って、席に帰ってくる。


 対して、小鞠は手馴れたもの。

 さっさとまずは軽めのケーキを取ってくる。

 さくさくパイ生地のケーキを、フルーツで彩ったこれは、クリーム少な目で、あっさりなお味。

 その隣では、張井さんがモンブラン全八種を集めている。

 モンブランタワーだ。


「ねえ洋子……飽きない?」

「飽きないー」


 ぽやんとした調子で、もくもくモンブランを食べ続ける張井さん。

 彼女は実は、小鞠と家が近い幼馴染でもある。

 何があっても決して動じぬ、鋼の心を持っているといわれる彼女。

 実際、二年一組のプリンスたる和泉恭一郎の隣の席なのだが、全く気にしていないように振舞っている。

 女子たちは、彼女の座席に羨望の眼差しを浴びせる。

 だが、張井さん自身が和泉に興味がなさそうなため、嫉妬されないのであった。


 また、彼女は乙女ゲー体質とも呼ばれる。

 というのは、和泉の隣に彼女がぼやーっと座っていると、和泉を初めとして、二年三組トップイケメンの四人が集まる。

 これは、別に張井さんがいるから集まるわけではなく、彼らのリーダー格である、現城聖学園生徒会長、和泉恭一郎の下に男たちが集うのだ。

 だが、張井さんは自己主張するわけでもなく、ぽやっとそこにいるので、イケメンたちも彼女を当然いるものとして扱っている。

 恐らく、学園の女子で一番、シャイン4(和泉たちはこう呼ばれている)と親しい女子である。次点は、和泉とだけ親しい勇である。


「本当に、何考えてるんだかわかんないわよね、あんた」

「そうー?」


 既にモンブランの数は半分。

 いつの間にかすごい速さで食べ進めていたらしい。


「あんまり食べるとふと……いや、あんたは太らないんだったわね」

「んー? ふとるよー?」

「そうなの?」

「うんー。お代わり行ってくるね」

「いつの間に食べ終わったのよ!?」

「小鞠が喋ってる間に食べたよー? 一緒にいこー」


 これだけ人数がいると、個性も色々。

 今年は食べ過ぎても、運んでくれる夏芽もいない。

 慎重に、慎重に、胃袋と相談しながらケーキを選択する小鞠。

 彼女も、去年のような飢えた獣ではない。

 一年時を経て、レディに近づいたのだ。


「今度はねー、ショートケーキまつり」

「うわっ、飽きそう」

「飽きないよー?」

「うへえ、相変わらず二人ともよく食うわねえ」


 利理がわざとらしく舌を出して見せる。

 その横で、晴乃はお行儀よく、ケーキを一つずつお皿にとって食べている。

 勇とレヒーナは見ているだけでお腹いっぱいに。

 麻耶と大盛さんは、相変わらず盛り付けの美を競い合っている。

 今のところ麻耶の圧倒的全敗だ。


「まあ、これでもほどほどよ。あたしをもって帰れるようなのいないでしょ?」

「ン?」


 遠くでレヒーナがこっちを見た気がした。


「それに今日は、ケーキの後で腹ごなし。そしてまた行くべきグルメスポットがあるんだから!」


 今年の小鞠主催グルメイベントは、二段仕込なのであった。

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