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体育祭、二年二組のカルテットがチア無双

「あれ? あれってヤマビコじゃん」

「ほんとだ。なんかすっごく楽しそうなんだけど」


 そう会話するのは、昨年、麻耶と同じクラスだった、二年三組の女子たち。

 学年トップクラスの美少女と噂されながらも、麻耶はパッとしない女子だった。

 誰と会話しててもそつなく溶けこむが、人に合わせるばかりで自分というものを出さない。

 だから、相手の会話を繰り返すヤマビコというアダ名をつけられたわけだ。

 だが、今年の麻耶は、相手の言葉を繰り返すことなどしない。

 だって、二年二組は同じことを繰り返す暇なんて無いくらい、エキサイティングなクラスなのだ。


「行っくよおーっ!」


 中心にいるのは勇太。

 彼女と共に飛び出す、チアリーダー姿の女子たち。

 ズラリ並んだ八人の女子の前で、勇太と麻耶が並び立つ。


 チアリーディング合戦、今年は本校側からのスタートである。

 昨年注目を集めた勇太が中心となり、麻耶が本年初参加。

 さらにさらに、仕掛けを用意しているわけで。


 アップテンポな音楽に合わせて、並んだ少女たちがダンスを披露。

 それぞれ末端の動きは合ってないけれど、とりあえず楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

 何よりも、勇太と麻耶だけは実に練度が高く、鏡合わせのように動きを合わせて踊る。

 その容姿も合わせて実に人目を惹くわけである。


「すっご……。ゆ、ゆれてる」


 遥がボソッと呟いたので、隣でうんうん、と万梨阿が頷いた。


「固定してるらしいけど、大きいよねえ、あの二人。彦根先輩くらいなら、来年にはあたしも行けそうかも……」

「僕は無理だなー……」

「俺は小さいほうが好きだぞ」

「村越ぃー、そういうデリカシーのない発言はちょっと……」


 ここで、音楽のテンポが変わる。

 POPなビートが、ちょっと勇ましい音楽に変わって、アップテンポながらもダンスの雰囲気が変わった。

 勇太と麻耶が距離を取り、背後でダンスしていた八人は二人ずつの組になる。

 互いに向かい合って手を組み合わせると、そこに登場した金髪の少女が助走を開始した。


「ゴーだヨ!」


 勢い良く飛び上がったレヒーナは、組み合わさった四つの足場を、ぽん、ぽん、ぽん、ぽーんっと渡り、跳躍した。

 高らかに飛び上がった、高さ五メートルはある中空でくるくる回転して、勇太と麻耶の中心に着地する。


 おおおおお、と会場にどよめきが走った。

 教師陣からは、危険過ぎるのではないかという物言いがかかったが、和田部教諭が「いや、あれはかなり安全な方向に変えさせたんです」と押しとどめる。

 事実、本来なら伸身三回転半ひねりだったところを、屈伸での回転に変えさせているのだ。

 とりあえず確かなのは、レヒーナの運動神経はおかしい。


 着地成功で、勇太と麻耶と、ハイタッチ。

 今度はレヒーナを中心にしてダンスである。

 バックダンサーの八人、今度は翼のように両側に広がって場を盛り上げる。


 そして、勇ましい曲調が再び変化。

 今度は緩やかなマーチになる。

 ここで二年二組の最終兵器。

 明らかに他のチアリーダーよりも装飾物が多い衣装を着込んだ少女が登場する。

 彼女はバトンを持って、くるくるとそれを回しながらの登場。

 レヒーナがくるりと回って道を空けると、脇田理恵子の登場だ。


 まるでプリンセスと思えるような衣装に、誰もがため息を吐いた。

 今年度から導入された、各控え所設置の液晶画面には、理恵子の姿がバーンと映しだされている。

 亜香里野キャンパス側で、二桁後半の男たちがハートを撃ち抜かれた。


 美少女揃いの本校側チアの中、たった一人で彼女達を圧倒する理恵子は、動きが無いのがむしろ、その優雅さを強調する効果をもたらしている。

 普段は無表情だが、今はほんのり口元に微笑みを浮かべている。

 両キャンパスで、あれは反則、と女子たちが呻いた。


 かくして揃った二年二組カルテット。

 もう、あれである。

 どこかで見た四人だし、この四人で天下を取れそうな空気を醸し出している。


「決めるよ!」


 勇太の掛け声で、フォーメーションが変わる。

 八人に、勇太と麻耶が加わり、組み体操。

 少女たちのタワーのてっぺんの勇太と麻耶。

 そこを目掛けて、下から理恵子がレヒーナに持ち上げられ、ぽんっと放り投げられる。


「っとと!」


 勇太と麻耶がキャッチ。

 理恵子、二人に向かってニッコリ。

 彼女を頂点にして、タワーが完成である。

 そこから、勢いをつけて理恵子が跳躍。


 あっと周りが息を呑む中、前に回り込んでいたレヒーナは、落下してくる理恵子をパシッと受け止める。

 伸身状態の同じくらいの体格をした女性だ。

 これをキャッチできる膂力は、レヒーナにしかない。

 レヒーナに高々と掲げられた理恵子が、ばんっとポーズを決めて、音楽の終わりとピッタリマッチ。

 これにて本校側のチア演技は終了である。


 昨年の、身体能力に任せた恐ろしい演技と違い、実に完成度が高いものだった。

 なんとなく、二年二組カルテットのポテンシャルに任せていた気もする。



 控え所にわーっと戻ってきた少女たち。

 きゃーっと十二人でめいめいハイタッチ。

 レヒーナ、この機会にとばかり、理恵子をハグして振り回す。


「むふー! リエコいい匂い!」

「ふふふ、私はフレグランスには気を使っています」

「二人、とも、おつかれさま!」


 楓も合流して、三人で盛り上がる。


「カエデもやればよかったのニ! ボク、二人ならバッチリ、キャッチできるヨ!」


 とんでもないレヒーナの提案に、楓は真っ赤になって顔を横に振った。


「い、いやあ、わた、私は、チアみたいな、その、地味だから、向いてないと、いうか、恥ずかしい……から!」

「エー! 可愛いのニ……!」

「可愛いと思いますけれどね」

「そ、そんなあ……」

「では、楓さん、来年はやりましょう」


 思いの外、押しが強い理恵子に手をぎゅっと握られ、「は、はいっ!?」なんて言ってしまう楓であった。


「おおっ、来年は楓ちゃんが!!」


 目を輝かせる勇太。

 上田も腕組みをして、感無量と言った顔でうんうんと頷いている。


「でも、今年は夏芽ちゃん出なかったんだね?」

「そりゃそうよ。ギリギリまでインターハイで忙しかったんだし、こう……スカウトが来てて、変に目立つと、ね」


 夏芽も色々大変な様子である。

 そんなこんなで、これほどの演技を見せたのだ、亜香里野には圧勝であろうと誰もが思っていた矢先であった。


「ば、バカな……!!」


 龍が呻いた。


「どしたの、龍?」

「あ、ああ。俺は今見ているものが信じられない。だが、現実なんだろう」


 龍が震える指先で指し示すのは、登場した亜香里野側のチアであった。

 そこには……村越由香元生徒会長が、楽しそうに際どいチア衣装で立っていたのである。

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