クラスの出し物、脚本についての考え
勇太が、碧風祭の出し物を執筆し始めた。
彼女が全体のストーリーを構想するが、オリジナルではないらしい。
「絵本の時は、思い切って私の考えた話にしたんだけど、劇は別っぽいでしょ? それにこのクラスの魅力って、人だと思うから、それを活かしたいなって」
実に大人というかプロっぽい考えである。
隣で効いていた楓は感心した。
去年からずっと彼女を見ているが、この親友はすごい速度で成長していっているように見える。
特に、勇太が本当は男だったことを知っている楓としては、驚くべき早さで女の子としての知識やあり方を吸収して、さらにはそこに、自分なりの「らしさ」を積み上げていっている勇太は単純に凄い、と思えるのだ。
「勇ちゃん、ファイト、だよ」
親友の肩を抱くようにして、激励する。
勇太は嬉しそうに笑った。
「うん、頑張るよ! 日にちもあんまりないしね。すぐに出来そうなので行くつもり。だけど、私だけだと知恵が足りないかもしれないから……できたら協力して欲しいな」
「もちろん!」
……ということで、本日、金城邸に知恵者が集まったのである。
勇太を囲み、右から、水森楓、金城心葉、伊佐奈桔梗、脇田理恵子、そして坂下郁己である。
「あれっ、これってハーレムじゃね!?」
いきなりけしからんことを抜かした郁己が、勇太、心葉姉妹によってボコられる。
「みんな、集まってくれてありがとう! これは今年の碧風祭の、私のクラスの出し物を相談する集まりです」
「ふむ、城聖の二年二組は演劇をやるのね。いいんじゃないかしら、高校生らしいわ」
生徒会メンバーだというのに、平常運転になった今日も金城家にいる桔梗である。
聞いてみたら、どうやら家が近いらしい。
「分かりやすい出し物……桃太郎……ピーチタロウ……」
理恵子がぶつぶつ言いながら考え込んでいる。
「うん、脇田さん、そういう分かりやすいやつから題材を取ってくるのが良いと思ってるんだ。ぱっと見て、あれはどこどこのシーンだ! って分かるくらいのやつ」
「なるほど、心得ました」
「童話、がいいの、かな」
「うん、そういうのを活かしたほうが、見る人達がわかってくれると思う」
「なんていうのでしょうね。あまり派手な舞台道具が必要ないほうがよいかもしれませんね。すると、ジャックと豆の木みたいなものはアウトでしょうか」
「ジャックと豆の木かあ……」
ふむふむ、と勇太。
「ジャックと大きなかぶ」
ボソリと理恵子が呟き、一瞬、みんなそれを想像したらしい。
「いやいや、大きなかぶだと登る所がなくない!?」
桔梗が突っ込んで、楓がクスッと吹き出した。
「種を撒いたら、天まで届くほど大きいかぶが出来て、ジャックがそれに登るの?」
「いつ引っこ抜くんですかねえ……」
「明らかに登場人物だけだと人出が足りないよね?」
勇太が疑問を呈し、心葉がボケて、桔梗が現実的なツッコミを行う。
そこへ、郁己が復活してきた。
「だったら他の童話の登場人物も入れればいいじゃないか。こういう手助けが好きそうなのとか。幸福の王子とか、猫の手も借りたいんだからブレーメンの音楽隊とか」
「ジャックの方の巨人は夏芽ちゃんが担当?」
「うわあ」
「かわいそう」
でも、みんなからクスクス笑いが漏れる。
「でも面白いかも。その方向で詰めてみようか」
「かぶはどうするのよ?」
桔梗の質問に、心葉が答えた。
「観客席を作ったら、机は邪魔になるでしょう。これを積み上げて、模造紙でかぶを描いてはりつけるんですよ」
「かぶを描くのですね。腕が鳴ります」
理恵子がかぶを描くつもりらしい。
燃えどころがわからない子だ。
ともあれ、これで演目は確定した。
翌日、二年二組において発表が成されたところ、分かりやすくて馬鹿馬鹿しいという理由で、満場一致の可決を見た。
「どうせ私が巨人役なんでしょ?」
「夏芽ちゃんよく分かっている」
「このお! この演目に意図的なものを感じるわよお!」
「わぷーっ!? 夏芽ちゃん、きついきつい!!」
のっぽの親友から強烈なベアハッグを食らってバタバタする勇太。
「でもさ、なんでブレーメンの音楽隊なんだ?」
「メンバーに猫がいるだろ? 猫の手も借りたいって事で登場するんだ」
「だったら長靴をはいた猫じゃないのか?」
上田と下山の疑問に答える郁己。
「ブレーメンの音楽隊のほうが役どころが増えるだろ。これ絶対、人数増えて取り返しがつかなくなったほうが面白いやつだから」
「最初、から、それを求めるのは、どうかなって思う、けど」
苦笑する楓である。
「ンー、じゃあ、ボクがジャックやるヨ!」
堂々と挙手するのはレヒーナ。
なるほど、ジャックは外人である!
そこに、二年二組が誇る、外見だけは模範的留学生、金髪碧眼のレヒーナが担当するとなれば、これは外に対するアピールにもなるかもしれない。
「ポスターとかも作ろうか! 誰か、写真を引き伸ばしたり加工できる人いない?」
「あ、おれおれ」
挙手したのは美術部の下山と、郁己。
かくして、二人がかりでレヒーナを使った大々的ポスターとチラシを刷る事になった。
どんどんと進んでいく、出し物の準備風景を、満足気に眺めるのは麻耶。
「いいじゃないいいじゃない。去年は結局ネタが紛糾しちゃって、それでありきたりのになっちゃったもんんね。今年は、うちはすっごく期待しているのよ」
「それじゃあ麻耶ちゃん、カントクやってみない?」
勇太の呼びかけに、麻耶は目を丸くした。
「カントク……!! でも、それじゃあ出演が!」
出るつもり満々だったようだ。
「役者兼カントクとかいくらでもいるよ。麻耶ちゃんなら出来る!」
「おっ、そんなことを言われると、その気になっちゃうよ、うちは! それにしても、上手いこと行きそうじゃない? 童話ベースとかだと、フツーって感じだけど、つかみでレヒーナちゃんが出てくるから、もうそこからしてフツーの劇と違うよね!」
「ン? ボクがどーしたノ?」
なるほど、普通のクラスには金髪碧眼の少女などいないのだ。
これは二年二組の強みであった。
「それよりね、ボク、いいことを考えたヨ!」
レヒーナが提案する。
一同の視線が、彼女に集まった。
「ユーの道場で、合宿しよう!!」
なんと、演劇合宿である。




