神も恐れぬ巫女さん+2
「レヒーナ先輩! 心葉さん!」
「んー? どしたノ、ハルカ」
「どうしたんです?」
遥が声をかけてくるなんて珍しいことである。
レヒーナは見た目が外人であるからして、声をかけるのに勇気が必要。
心葉は何となく、キャラは近い気がするものの、遥から見ると武人の空気を纏っているのである。
だが、ここは怖がっている暇などない。
なぜなら、彼女たちこそ、あの訳の分からない煙に対抗する術だからだ。
「明日、僕は巫女をやるんですけどっ」
「聞いたヨー! ボクもキモノ着たかったナー! でもハルカは可愛いから許しちゃう! ぎゅーっ!」
「きゃあー」
遥はレヒーナのパワーでむぎゅっとされて、悲鳴を上げる。
素晴らしいパワーである。
龍に匹敵するかもしれない。
「そっ、そうじゃなくてえ! 僕の話聞いてぇぇ!」
必死に訴えて、なんとかレヒーナが手を離してくれた。
いや、レヒーナの足の指を、心葉の足の指がロックしている。動きまわるレヒーナに、高速で足指関節を掛けたのである。
「いぎぎ……!」
レヒーナが激痛に目を白黒させる。
「よし、これで静かになりました。で、どうしたんですか遥さん」
「は、はいぃ」
涼しげな顔をして、足指だけでレヒーナを制圧した心葉。
とりあえず、この界隈の女子達は怖い、と遥は実感した。
だからこそ頼りになるとも言えよう。
「じじ、実は、変な煙というか、お化けみたいなのが出まして」
「ふむ」
「オバケー?」
二人は、勇太や英美里と違い、頭から否定はしない。
後輩に対して寛容なスタンスなのだ。
「はい! 僕が見た後、今度は丸山先輩や金城先輩の後ろに現れて……。だけど、レヒーナ先輩と心葉さんが来たら、逃げちゃったんです」
「おや、私たちをみて逃げたんですか。何故でしょう」
「なんでだろ? 不思議だネー」
神をも恐れぬ自らが行った行為を、振り返らぬ二人である。
だが、二人共に、身内には優しい。
「それでは、私たちは遥さんの護衛をすれば良いのですね?」
どうやら察したらしい心葉。
皆まで言う前に、遥の思いを汲み取った。
「はっ、はい! お願いできればと思って」
「もちろん、お引き受けしましょう。どうせこの村は娯楽も無くて、やることが無いんですし」
「ボクも! ボクもやるー! オバケ楽しみだナー」
二人としては暇つぶしも兼ねており、遥のためにもなって一挙両得。
かくして、急遽、巫女さんの脇に護衛が出来ることに。
「あれまあ、それは多分、玄神様だねえ」
お祭りに詳しい、お婆ちゃんのお話。
里に長く済んでいるお婆ちゃんが言うには、毎年玄神様は、これはという女の子を見初めてイタズラをするのだそうだ。
そして、いたずらされた女の子が産んだ子供が男の子である場合、女の子になってしまうのだという。
「実はね、結構そういう娘は多いんだわ。毎年一人はいるんじゃないかね?」
「そ、そんなに!!」
目を丸くする遥である。
自分が女の子になってしまった時、世界が終わったように感じていたが、何の事はない。
同じような人が世界にはたくさんいたのだ。
「そんで、今年の巫女さんは三人もいるのかね。おやまあ、外人さんに、あれ、この娘は去年巫女さんをやった……」
「あれは姉です」
心葉が訂正した。
「実は事情があって……。僕が巫女なんですけど、お二人にもついていてもらおうと思って」
遥が言うと、お婆ちゃんの目がきらんと光った。
「なるほど、あんた、玄神様にいたずらされそうになっとるね? でも、娘さんが増えたくらいだと、玄神様が喜ぶだけだと思うけれども」
「実は、こちらのお二人がいると、玄神様?が逃げるんです」
「ありゃまあ! 女子と見ればすぐに寄ってくる玄神様にも、苦手な娘がいたんだねえ」
愉快そうにお婆ちゃんは笑った。
「面白いねえ。そんじゃあ、私たちも手伝わさせてもらうよ」
ということで、お祭りのスタッフや近所の人々を巻き込んで、その日の内に話はどんどん大きくなる。
「じゃあ、巫女さん衣装はちょっと派手にしたらどうだい?」
「二人はお付きの人をやってもらうとして、衣装は巫女さんのしかないものねえ」
「区別がつくようにしないと」
「それじゃあ、この首飾りとか」
「ちょうど、春のお祭りの袖飾りがあるね。これをつけてみようかい」
夜の内には完成し、なんとも豪華な巫女衣装になった。
遥は衣装を身につけて、その豪華さと重さに、ちょっとよろけた。
「こ、これって凄すぎないですか……」
「いいんじゃないですか。雰囲気全然変わりますし、似合いますよ遥さん」
「うんうん! ハルカ、可愛いー! キレー!」
「あ、ありがとうございますっ……」
真っ赤になって猛烈に照れる遥。
生まれてこの方、自分の容姿をこんなに褒められたことなど無い。
しかも相手は同性である。
遥はもじもじして、うつむいてしまう。
ちなみに、彼女の前に立つレヒーナと心葉も、なかなか可愛らしい巫女衣装に身を包んでいる。
だが、手にしているものが厳つい。
レヒーナは杖。心葉は槍である。
それぞれ飾りが施されていて、なかなか格好いい。
「ふむ、この衣装も悪くないですね。ちょっと燃えてきました」
心葉が槍を構えると、
「おー! ボクも頑張っちゃうヨ!」
レヒーナがそれに杖を打ち合わせる。
図らずも、その場で二人の演舞が始まる。
これには、場に集まったスタッフとご近所の皆さんもびっくり。
やがて、少女たちの見事な杖と槍の対面型演舞に、拍手が巻き起こった。
「すっごい! 先輩、心葉さん、武器使ったことあるんですか!?」
「四神はそれぞれ、杖の使い方は基本に入っていますからね。それぞれ型が違いますが、こうして演舞が出来る程度にはなります」
心葉の動きは、流麗。
槍を杖に見立てて、八の字を描くように縦横無尽に槍が舞う。基本は横の動きで、時折、上や下に、穂先が飛んでくる。
「ウン、ボクはスタッフも得意だヨ? でもこれ使うと、下手な相手は怪我させちゃうんだよネ」
レヒーナの動きは豪放。
杖を立体的に、全身のばねを使って振り回す。螺旋の動きだが、杖の軌道が全て攻撃という、実に物騒な構え。
これが噛み合うと、非常に見栄えのする演舞になる。
次々に繰り出されるレヒーナの杖を、心葉が捌き、受け流す。
弾くと流れが途切れるから、相手の次の動きを促すように動くのだ。
レヒーナもそれを分かって、時折繰り出される心葉の突きをかわしながら、回避の動きに合わせて杖の軌道を見栄えがするよう変化させる。
遥は、ここにスケッチブックが無いことを猛烈に悔やんだ。
そんなこんなで大盛り上がりの準備会場。
隅っこで、出るに出られぬ煙のことは、誰も気づかないのであった。




