一年生教室、入学式の興奮未だ冷めやらず
「つーことで! 私、猪崎万梨阿。彼女さんはなんてーの?」
「あ、僕は黒沼遥です」
入学式も何事も無く終わり、一年二組教室へ帰る最中のことだ。
猪崎万梨阿は、一見するとちょっとキレイ系の女子高生。しかし、なんとなく醸しだす空気がチャラい。
対する黒沼遥は、癖の強い髪をセットして、なんとか後ろで縛っている髪型だ。乱視矯正が強い眼鏡は、可愛いデザインのもの。背はクラスで一番小柄だったが、醸し出すキュートな雰囲気は思わず撫でたくなる。
二人は、背が高くて体格のいい少年……村越龍を挟んで挨拶していた。彼もなかなかのイケメン。ワイルドな印象が強いだろうか。
なんだろうか。遥が少しだけ緊張している。
「あの、猪崎さん。龍と知り合いみたいですけど……」
「あー、村越君の相方さん? ほええええ、こんなにかわいい子だったんだ! うわー、やるじゃーん。村越君隅に置けないじゃーん」
「うぜえー!」
三人はこのような感じで盛り上がっていたが、クラスを包む雰囲気はまた別のものだった。
それは、受付に座っていたイケメンや美少女たちの事だったり、生徒会長の後ろにいた謎の美女の存在だったり。
「なあなあ、この学校って、おかしくねえか!? あのレベルの女子が50人中3人いるとか異常だろこれ」
「受付にいたイケメンって、次期生徒会長って噂でしょ? 隣の彼もレベル高かったわよね」
「芸能学校とかそういうのじゃないよねここ? 確かに倍率すごかったけど……」
「そう言えば……女子のレベル、全体的に高い気がする」
「え、ほんと? 私レベル高い?」
その話題は、すぐに、教室入口側の三人組にも波及する。
「でもほんとだよねえ。この学校の娘ってみんな美人さん。もちろん、黒沼さんみたいな可愛い子もいるけどね!」
「ええ、僕、可愛いかなあ」
えへへ、と遥が照れくさそうに髪をくしゃっとやった。
龍がその後ろで重々しく頷いている。彼は遥の可愛さに関しては、誰よりも詳しいのだ。
さて、入学式には、二年生の担当者がそれぞれのクラスにやってきて、これからの一連の流れを説明する事になっている。
普通は担当教諭がやるのだが、彼らは父兄対応に回っているため、これは生徒の担当になっているのだ。
一年二組の教室にやってきたのは、二年二組の三人娘だった。
金城勇太、彦根麻耶、脇田理恵子の三人である。
その時、一年二組に衝撃走る。
しん、と教室は静まり返った。
一組と三組が、和気あいあいとしているのとは逆である。
というか、三組はイケメン三人が来たらしく、女子達のテンションが高い。黄色い声、というのが間断なく響いているではないか。
対して、二組は誰も声を上げられなかった。
「こーんにーちはー!」
元気よく勇太が挨拶をし、三人娘は……あろうことか、三人揃って聞き耳を立てるポーズをして、挨拶の返答を催促してくるではないか……!
ごくり。
誰かが唾を飲んだ。
「こ、こんに……」
勇気を振り絞って、男子の一人が声出すと、勇太は容赦なくそれに被せた。
「うーん、聞こえないぞ! 次はもっと元気よく行ってみよう! こーんにーちはー!!」
ざわり。
教室にざわめきが走る。
この人達、もしかして、返答するまでは許してくれないんじゃあ……。
その想像を裏付けるように、三人は耳に手を当ててまた聞き耳のポーズ。
これは、やるしかないのか。
一年二組の生徒たち。彼らの心が一つになっていく。
「こっ」
万梨阿が発した言葉に、みんなが反応した。
「こんにちはー!!」
「はい、こんにちは!」
勇太から合格サインが出て、ホッとした空気が教室内を包む。
「さあ、それじゃあ、ここからはうちが説明するね。これからのみんなのスケジュールです」
毛先がくるんとしたセミロングの女子が、前に立った。
彦根麻耶である。彼女の指示を受けて、脇田理恵子がパンフレットを配り始めた。
麻耶特製の手作りパンフレットである。
折って本の形にしたのは理恵子だ。
ホチキス留担当は勇太。
「基本的に、うちの学校は部活動参加はフリーです。入っても入らなくてもいいし、内申書にもそれほど響きません。それほどっていうのは、活動内容によっては内申書にいい事書かれることもあるんです。帰宅部だと、悪いことはないけど、もちろんいいことも無いわけ」
パンフレットは最前列の席に行き渡ったようだ。
彼らは自分の分を取った後、後ろへと回していく。
「四月上旬、しょっぱなから諸君に試練です。実力テストがありまーす。まあ、小テスト形式なんですけど」
うえええ、と教室からうめき声。
うんうん、と麻耶は頷く。
「気持ちは分かる。うちも地獄だった」
「私もだよ。ひどい成績叩いたもん」
「なので、ちゃんと勉強しておこう!」
はーい、と生徒たちから返答。
「下旬は身体検査。もちろん男女別々だから、男子諸君は女子を覗かないようにね? 女子も、かっこいい男子がいるからって覗いちゃだめよ?」
何人かの生徒の目が泳いだ。
まあ、この学校異性のレベル高かったりするからねー、と勇太も麻耶も生暖かい目で見守る。
「そして絶対忘れちゃダメなのが、検尿! うちで採尿して、忘れてこないようにね! 忘れてきたら、学校でその日の内に採尿よ!」
「彦根さん、やっちゃったもんね」
「そうなのよー」
あちゃーという仕草に、教室に笑いが広がった。
「後は、必要な提出物関係、そのパンフレットに全部まとめてあります。これを自宅でご家族に見せてね。他に質問とかあったらどうぞ!」
「はい!」
調子の良さそうな男子が手を上げた。
「おー、元気いいね、君どうぞ!」
「ウス! 筒井壮介です! えーと、先輩のスリーサイズを教えて下さい!」
この質問に、女子は大顰蹙である。
ブーイングが響き、筒井壮介君はたじろいだ。中学生男子のノリが許される世界ではないのか!!
「ふっふっふ、お約束な質問ありがとう。ちなみに私は、157㎝で、上から86、61、83でDカップです。彼氏は絶賛募集中だよ!」
うおおおお、という野太い叫びが男たちから上がった。
女子たちからは、芸能人体型かよ……!? というざわめき。
まさか答えてもらえると思わなかった筒井君、彼はついつい調子に乗ってしまった。
「そ、それじゃあ、そちらの先輩も……!!」
この瞬間、彼はクラスの女子すべてを敵に回してしまった。
哀れ、筒井壮介君は空気を読めなかったばかりに、この一年間、クラスでは絶対にモテないことが確定してしまったのである。
話を振られた勇太は、ちょっと頬を赤くした。
「そ、そういうのはおおっぴらに答えるものじゃないでしょ! それに私は彼氏いるよ!」
ざわっと男たちがざわめく。
「それから、彼女、金城勇ちゃんは、うちより胸が大きいからね。すっごい着痩せするの。でも男子諸君、君たちはにはそれを想像することしかできない……!!」
麻耶の残酷な宣言に、男たちは涙した。
ちなみに勇太のサイズは公証Fカップである。理恵子がぶつぶつ、Cとか呟いていた。
「まあ、そんな感じで、これからの学園生活を楽しんで行ってね! 私たちに会ったら、いつでも気軽に声をかけてよ!」
「うちらはみんなをサポートします! 特に女子、結構この学園、特殊なことも多いからね。迷ったら質問! いいかな?」
はいっ、と気持ち良い返答。
かくして先輩たちによる説明会が終わった。
去り際、勇太は龍と遥に目線をやり、ばいばい、と手を振った。
「嵐のような先輩たちだったな」
龍がつぶやく。
この場にいる誰もが同感だった。
遥だけは無邪気に、勇と麻耶に向けて手を振っていたのである。
この話を掻いている途中、誤って更新して1500文字飛びましたので書き直しましたよ!