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入学式の裏側から

様々な視点から、色々なキャラクターを描いていくので、前作よりもゆったりと進みます。

 本日、郁己は入学式の裏方担当である。

 何名かの男女が、教員たちの手伝いをしながら入学式の運行を補助しており、郁己以外にも顔見知りが何人か。


「あによ、あんたも手伝いなの?」

「お、おう、板澤久しぶりだな」


 両脇に可愛いお団子ヘアの小柄な女子に声をかけられて、郁己はちょっとたじろいだ。

 板澤小鞠。かつてクラスメイトだった女子だが、気が強くて負けん気も強く、言葉も強くてとりあえず何でも強い。そしてつるぺたり。

 彼女に郁己は一度告白されており、それを勇太のために振るという経験をしている。

 気まずい。実に気まずい。

 あれ以降、それなりに友達関係はやっているが、現状のような二人きりはよろしくない。

 それは彼女も同じのようで。


「……な、なんか言いなさいよ」

「いやあ……」

「金城さんとはうまく行ってるの?」

「まあ、それなりに、ぼちぼちと」

「……もう、したの?」

「は、はい? ……いやあ、流石にまだ」

「そ、そうよね」


 話題がまずい方向に行ったので、また作業をしながら無言になった。

 彼らの仕事は、ステージの用意と、会場の設営だ。

 前日からやってはいるのだが、当日でないと分からないものもある。

 父兄の数とか、必要なパンフレットを揃えたりだとか……。

 しかし、それももう終わりである。

 最後の詰めが完了し、郁己と小鞠は気まずいまま、さあ別れるかとなった。

 そこで、新入生入場である。

 既に会場に父兄は入っている。


「やべえ、ゆっくりしすぎた」


 ここは用具室。

 体育館のステージ両脇にある、ステージ用具を置く部屋だ。

 二人でそこに閉じ込められた形になって、会場へ通じる扉をそろりと開いてみた。

 教師たちも並んでいる。


「ひええええ」


 小鞠が震えた。


「流石のあたしも、あの中に出て行く勇気はないわよ!!」

「俺もだ」


 小鞠が下から、郁己が上から覗いて、さながらプチ・ブレーメンの音楽隊だ。

 二人が覗く中、一年一組が入場する。

 何故か男子も女子も、ちょっと顔が緩んでいる。

 入り口には、二年生が誇る最強のイケメンと美少女が受付担当として控えていたので、きっと彼らの毒牙にやられたのだろう。ははは、この記憶を脳に焼き付けるがいい!


 美少女の一人が自分の彼女なので、調子に乗る郁己である。

 すると、一組に続いて入ってきた二組で、見覚えのある生徒がいる。

 見覚えがあると言っても、今朝見たばかりなのだが。

 体格が良くて背の高い男子と、くせっ毛で眼鏡の、小鞠よりさらに小柄な女子だ。

 見た目は凸凹だが、見ているとどうやら二人は付き合っている様子だった。

 何故か勇太が知り合いだった。

 彼女の交友関係は謎である。


 一年生の座席は大体決まっているのだが、何やら背の高い男子は他の男子に頼み込んで、くせっ毛眼鏡の女子の隣に変えてもらったようだ。

 青春である。


「青春ねえ。何、あの子たち坂下の知り合い?」

「いやあ、なんかね、勇の知り合いっぽい」

「へえー……。あの子の交友関係って不思議だものねえ」


 お前もそう思うのか、板澤小鞠よ。

 会はつつがなく進行するのだが、一年生たちを迎えるために、生徒会の面々が壇上に上がった瞬間、ざわりと会場がざわめいた。それはさざなみのような波紋から、徐々にどよめきへと広がっていく。

 生徒会長は苦笑しながら、マイクを握った。

 問題は、彼の横で書類を用意した女子生徒である。

 本来はこの位置は、次期会長の呼び声高い和泉恭一郎の役割なのだが、受付担当は学年一のイケメンを! という女子達の声により、哀れ和泉は受付に駆りだされ、一年生女子達の心に消えない面影を焼き付ける仕事に従事することになったのである。

 では、この壇上に立つ、生徒会長を補助する女子は何者か。

 彼女こそ、二年二組が誇る三大美少女の一人にして、誰もが認めるミス・城聖学園高等学校、脇田理恵子である。

 無表情なまま、彼女は会長の補助を行うと、悠然と彼の後ろに控えた。

 控えている彼女が恐ろしく華やかなので、口上を述べる会長が、完全に食われてしまっている。

 こうして黙っている分には完璧な美少女なのだ。

 だが、一度口を開くと大変である。

 付き合いはほんの数日だが、郁己は彼女のひどく変わった人格を理解し始めていた。


 会長の挨拶が終わり、壇上に一年生代表が上がる。

 代表になった女子は、チラチラと理恵子を見ながら、なんとか意識を集中している。

 ふと、理恵子と目があったらしく、ぶふっと吹き出した。


「脇田の野郎、こんな時に顔面体操を始めやがった!!」


 次の瞬間には元の顔なので、傍目には一年生代表が噛んだようにしか見えない。

 会長は可哀想に、と同情の目で彼女を見た。

 脇田理恵子の職務は、生徒会庶務である。いや、あった。

 二年になって辞めて、今はぷーなのである。

 だが、どういう風の吹き回しか、彼女が和泉の穴埋めを引き受けてこういうことになった。

 先生たちもハラハラである。

 この超美少女、一体次の瞬間に何をするかわからない。

 幸い、今回の壇上で惨事は起こらず、無事に一年生代表は役割を終えた。


 脇田理恵子、アルカイックスマイルを浮かべている。

 怖い。


 こんな壇上の一幕の間も、勇太の知り合いらしいカップルは、ヒソヒソと話し合っている。

 小さい声なのだが、何かあるたびに小さい女の子が男子側に、声をかけている。

 実に仲がいいようだ。

 男子は精悍で、野性味のあるイケメン。ただ、少々気力の強さが前面に出てしまっている気がする。

 女子は優しそうで、文系女子という感じ。楓に似ていたが、もうちょっとオタク気質がある子のようだ。多分、磨くとかなり化けるタイプ。

 ここ一年で、郁己は女の子を見る目は磨かれた。

 間違いない。あの女子は可愛くなる。


「坂下、なんか目がいやらしいんだけど」

「しししししっけいな」


 いよいよ式が終わったらしい。

 音楽が流れて一年生が退場していく。

 あのカップルの横に、もう一人女子生徒が並んだ。ちょっとチャラい印象の女子だ。


「おっ、三角関係かな」

「へえ、女子が二人に男子が一人ねえ」

「おっ、おっ、板澤、何を言いたいんだあ……」


 下からじろっと睨まれて郁己はたじろいだ。


「別に。仲良くやってるんならそれでいいのよ。坂下、あんた、浮気なんかしたらぶっ飛ばすわよ?」


 脅しではない。板澤小鞠は有言実行、不言実行。やるったらやるし、やると言わなくてもやるのである。

 郁己は神妙にうなずいた。


「まあ、俺の彼女は世界一可愛いからな」

「あっそう!」

「ぎょええ」


 思い切り脚を踏まれて、郁己は飛び上がった。

 小鞠は郁己に向かってふんっと鼻を鳴らすと、去り際にフッと笑った。


「本当に頼むわよ、坂下。あたしが浮かばれないじゃない」



 去って行った小鞠の後に、ややこしい奴が来た。

 脇田理恵子である。


「愛欲渦巻く三角関係ですね。わくわく。わくわく」

「うるせえよ! 無表情で言うなよ!?」


 郁己は逃げるように、出口へ向かった。

 そこにある受付席に、彼の恋人が待っているのだから。


 今年度の城聖学園高等学校入学式は、つつがなく終了した。

次回は一年生サイドを予定しています。

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