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レヒーナの初授業

これにて、城聖学園二年生のトップクラス美少女が二組に揃います。

 果たしてこの金髪娘が、ちゃんと日本語の授業を受けられるのか。

 目下、クラスの懸案ごとはそれに尽きた。


 レヒーナ・ロドリゲス。

 二年二組に嵐を呼ぶ、金色の問題児である。

 クラス窓側、最後方ひとつ前。そこが彼女に与えられた席だった。

 直前を、水森楓。二年二組が誇る才女である。

 すぐ後ろを、脇田理恵子。かつて一年二組トップ美少女と呼ばれた少女で、そのボリューム感あふれる豪奢な髪と、高貴な顔立ちが特徴である。

 この二人が、レヒーナを補佐する事になった。


「ンー、日本語むつかしいよネー」


 レヒーナはシャーペンをくるくる回しながら考えこむ。

 そう言う割には、基礎的な日本語の会話、読み書きをマスターしている辺り、かなり外国人としては凄いのだが。

 今彼女がぶちあたっているのは、和田部教諭ことアニキが担当する現代文だった。


 以上の文に対して、筆者の思いを答えよ。

 学期始めの小テストである。

 これで、生徒たちの学力レベルを計るのだ。

 だが、えてしてこの『筆者の思いを答えよ』的な文章というのは、文章出題者の意図を読み取れということでもあるので……日本語読解をやっとこやれているレヒーナには荷が重い。


「それはね、レヒーナちゃん。ここからここまでの文章をまず読んでみようか。このお話は、どういう内容かって分かるでしょう? そうしたら、この文章は、このお話の中でどういうことかって、考えるの」


 楓は日本語に不慣れな彼女に、こうして教える役割を負っている。

 真面目な彼女は素晴らしい教師だった。

 レヒーナはこの良い匂いがするメガネの少女を、すっかり気に入ってしまった。


 楓は、前学年であった、人前だとつっかえたりどもったりする癖が和らぎ、自然に近い感じで話せるようになってきている。

 頭もいいから、分かりやすい言葉を使ってこの編入生に説明してくれるのだ。


「おおー!! 分かったヨー! カエデはすごーい!」

「ありがとう。でも、凄いのはレヒーナちゃん、だよ」


 楓はあくまでにこにこ。

 これも、レヒーナからすると、ジャパニーズ・ケンソンなのだ。

 とにかく楓が良い仕事をする。

 主に、国語と世界史、国史の授業である。

 この間、脇田理恵子は何をしているかと言うと、美しいフランス人形のような姿を一切崩さぬまま、不動の姿勢で……寝ている。

 彼女はとにかく、授業中はよく寝ている。

 だが常に成績はアベレージを叩くのだ。

 彼女がレヒーナの補佐を担当するのは、授業外のレクリエーションの時だった。


 例えば、掃除。


「よいですか、レヒーナさん。ジャパンのスチューデントは、箒と塵取り、そしてモップを使用し、こうして使用した後のクラスルームをクリンネスするのです」

「おおー! ゼンだねー!」

「イエス、ゼン」


「なあ、あいつら何語で喋ってるんだ」


 郁己はレヒーナと盛り上がる理恵子を見て首を傾げた。

 勇太と夏芽と麻耶がそこには集まっていて、ハラハラした様子で理恵子のレクチャーを見守っている。

 一年時、三大美少女と数えられた中でも、容姿の美しさならば頂点であろうと誰もが認める理恵子。

 数々の男子が彼女にアタックし、玉砕した。

 いや、そもそも相手にさえされていなかったのかもしれない。

 なにせ、脇田理恵子には日本語が通じる気がしないのだ。


「さあ、レヒーナさん、私の構えた塵取りへ向けて、ゴーアヘッドです。カマン」

「よぉーっし、行っくよー!」


 モップを構えたレヒーナが走ってくる。

 理恵子は精緻な美しい人形のような肢体を、どんと相撲取りのように構えて塵取りをセット。

 埃を集めたレヒーナが、力任せに塵取りに突撃すると、理恵子は腰を入れてそれを受け止めた。


「ごっつぁんです」

「あーっ! ボクそれ知ってるよ! オスモウでしょ!」

「イエス、ゼン」

「ゼンー!」


「なあ、あいつら何語で喋ってるんだ……? 俺、レヒーナの言葉のほうが理解できるんだけど……」


 クラスの男子女子から、唇の狩人とあだ名を付けられた郁己である。

 そんな彼でも、脇田理恵子の言語は難しすぎる。

 だが、彼女は非常にレヒーナと気が合うようだった。


「レヒーナの言葉のほうが理解できる……うんうん、うちもそうだよ。理恵子ってさ、入学して相撲部は無いのって最初聞いたらしいっていう逸話があって」

「えっ、本当!? それって凄いわね……」

「脇田さん、すっごく綺麗なのに、イメージとぜんぜん違うよね……」



 こんな、レヒーナの補佐役二人であるが、なんとチームワークは抜群だ。

 初めての体育授業。

 体育教諭の大沼女史が、女子には創作ダンスを課題として与えると、この風変わりな授業について、また楓のレクチャーが始まる。


「これはねえ、チームを組んでダンスを作るんだけど、例えば基本のパターンがあって……」

「そう、このように」


 楓の説明に合わせて、理恵子がロボットではないかという正確さでカチカチ踊る。

 ちょっとロボットダンスっぽい。


「おおー! 自由に色々やるの?」

「そうなの。一応課題はあるからそれを取り入れて、後でみんなの前で発表ね」

「わかったー!」

「振付は私が担当しましょう。数を用意しますから、水森さんは組み合わせをお願いします」

「うん、分かったよ。お願いね、脇田、さん」



「おお、女子達がダンスを発表するぜ」


 上田が男女を区切るネットに張り付いた。


「ほお、あのメガネの子が上田の彼女かよ。……あれ? あの子って去年の五月だか六月に大講義室でトイレ……」

「ああ、あの時に叫んだのが俺だ」

「トイレが縁か……数奇だな」


 郁己と上田にも新しい仲間が出来た。下山だ。上田と合わせて実に覚えやすい。

 何事にも感心する男で、良い奴なのだがちょっと考え過ぎではないかという時も多い。

 彼らとともに、郁己は女子チームを見ていた。

 男子組はいつものバスケットをやっており、反則を連発した郁己チームは早々に退場を言い渡されたのである。


「勇……良かった」

「確かに、唇の狩人・坂下の彼女は動きのキレが一人だけ違ったな。そうか、やはり彼女もまた狩人」

「やめろ下山」

「おっ! 楓さんのダンス始まるぜ!!」


 男たちはネットにがぶってダンスに釘付けに……。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

「し、しっかりしろ上田! いかん、あのロボットダンスで正気を失ってしまったか」

「凄いな。水森さんの体力を基準にしてるんだろうけれど、見てて不安になるダンスだ」


 それは、創作ダンスのノルマである動きを取り入れながら、ノルマが終わった瞬間にカクカクした動きになる実に見ていてモヤっとするダンスだった。

 楓もレヒーナも、とても楽しそうに踊っているのだが、一人だけ無表情で、勇太ばりにキレッキレな動きの理恵子が印象的というか、とてもとても不気味だった。

 凝視していた上田が不安定になるくらいには。


「これは、凄い人間が集まってしまったぞ、我がクラスは……」


 自分のことは棚に上げ、郁己は呟いたのだった。

スポーツ万能、快活な金城勇太。

好奇心旺盛、お喋り好きな彦根麻耶。

金髪碧眼、爆弾みたいに元気なレヒーナ・ロドリゲス。

奇々怪々、圧倒的美貌の脇田理恵子。

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