勇太の受付嬢、吹いてくる新しい風
本日は入学式。
城聖学園高等学校に、新たな仲間たちが加わる日である。
郁己と勇太は受付の手伝い。
主に郁己は会場設営の最終チェックと、学園のしおりの管理。
勇太は受付嬢である。
隣には、今年クラスで一緒になった、毛先がくるりんとしたセミロングの髪の女の子。
好奇心旺盛そうな彼女は、彦根麻耶と言って、口さがない旧友にはヤマビコと呼ばれているそうだ。
何にでも興味を示す子で、その時には相手の言ったことをオウム返しにする癖がある。
「よろしくね、彦根さん!」
「うい! よろしく、金城さん!」
背格好も似た感じの二人はハイタッチ。
ぞろぞろと新入生たちがやってきて、受付が始まる。
彼女たちの仕事は、新入生に声をかけて、しおりを手渡すこと。
新入生男子たちは、体育館入口に設けられた受付で、急に綺麗な上級生女子が出迎えるのだからドギマギ。
心憎いことに、女子には男子の受付係が対応している。
向こうに座るのは、見覚えのある和泉恭一郎と、もう一人、なかなかのイケメン生徒だ。
「はい、これがしおりです。入学おめでとう!」
「お、おっす、ありがとうございまっす!」
坊主頭の一年生が真っ赤になってしおりを受け取った。
勇太も麻耶も割りとボディタッチが多い。
肩を叩いたり胸板をぺちんとやるので、男子たちがクラクラになる。
勇太は今や、誰が見ても完璧な、それも並外れた美少女である。対する彦根麻耶もまた、通常の学校ならクラスで一番間違いなしの容姿。
某会いにいけるアイドルならばセンターやむなしである。
そんな二人がフランクに接してくるのだ。
「やっべえ、この学校、マジで女子のレベル高いよ……!」
「あの二人、この学校でもトップの美少女二人なんだってさ……!」
「マジで!? お、おれ握手してもらっちゃったよ!!」
男子たちの囁き声を耳にして、麻耶がむふーん、と鼻息を荒くする。
「聞いた? 金城さん! うちら評価たっかいよー!」
「うんうん。照れちゃうよね」
元一年一組トップ美少女が勇太なら、元一年三組トップ美少女が麻耶である。
しかも、二年二組には、元一年二組トップ美少女までいた。和田部教諭グッジョブである。この采配により、男子生徒からの彼への信頼は果てしなく篤い。
教師でありながら、男子たちからの通称は”アニキ”である。
しかも、学外どころか国外から、この三大美少女に匹敵する超大型新人、レヒーナ・ロドリゲスを引き入れた手腕。
アニキは既に、二年二組の男たちから絶大な支持を受けつつあった。郁己以外。
やがて、一年生第一陣が途切れた。
「やっほ、和泉くん元気?」
「金城さん、今日も綺麗だね」
「お世辞はいいよう」
和泉が傷ついた顔をした。
「金城さんって、ほんと男を顔で選ばないよねー。むしろ顔が付属品みたいな?」
「んんー? それって郁己がかっこよくないってことかなー」
「郁己がかっこよくないってことかなー? ……てことは、やっぱり坂下くんと付き合ってるんだあ!」
「し、しまったあ!」
傍らのイケメンが、がっくりした和泉の肩を叩いた。
「俺ら、意中の女の子には振り向いてもらえないんだよな、何故か」
「ああ」
妙な連帯が生まれたようだ。
それを見て女子二人が、男子のああいう友情って良いよねーという話をするんだから、とにかく男子と女子とは分かり合えないものなのであった。
さてさて、一年生第二陣。
彼らの中に、ひときわ目立つ生徒がいる。
どんと背が高く、肩幅だって広い。
真っ先に彼の存在を見つけた勇太は、立ち上がって手を振った。
「おーい、イケメンくーん!」
「あ、ども」
大柄な彼は頭を下げてきた。
村越龍という彼は、入学前からちょこちょこと、勇太と縁がある少年だ。
そんな彼の後ろから、ひょこっとくせっ毛の少女が顔を出した。
こっちは男子の列である。女子はあちらなのだが……まるで、自分がこっちにいるのが当たり前という顔で、龍を見上げながら、ちょっとずれやすいメガネをしょっちゅう直している。
身に着けているのは勇太たちと同じボレロなのだが、ジャンパースカートの胸元を彩るリボンの色が違う。今年から採用されたこのリボン、学年によって色が違うのだ。
勇太たち二年生は赤、今年の一年生は黄色、三年生は緑。
「キミも一緒のクラスだったんだ? イケメンくんの彼女さん」
「あっ、はい」
「なになに? 金城さんの知り合い? 後輩ちゃんなの?」
「これから後輩ちゃんだけどね! 入学前にちょっと」
勇太はしおりを二枚取って、龍に手渡し。
そして女の子に手渡し。
「がんばれヨ! 彼氏かっこいいから、他の娘に取られちゃわないようにね!」
ギュッと手を握ると、くせっ毛の少女は顔を真赤にした。
「はは、はぁい!」
勇太と麻耶がその仕草にやられてしまう。
「か、かわいいー」
「かわいいー。後輩ちゃん、お名前教えて」
「あ、はい、黒沼遥です」
「遥ちゃんちょうかわいいー!」
そんなことをしていたら、向かい側の受付から物言いが。
「おーい、そこ、堰き止められてるぞー」
「あ、ホントだ、ごめーん!」
勇太と麻耶はちょっと反省。
龍と遥を、またねっと送り出して、次々に続く男子たちをさばき始めた。
「入学おめでとう」
「これからよろしくね」
二年生トップ美少女二人に声をかけられ、男たちは、
「ウ、ウッス」
「は、はいぃ!!」
「ひゃい!」
と噛み噛みである。
二組、そして三組と無事に終了し……。
向かい合う受付四人は一息。
人数は男女ともに50名ほどだから、さほど多いわけじゃない。
だからこそ、一人ひとりに声をかけて、しおりを手渡ししていく。
「今年の女子もレベル高いよな。城聖学園は容姿のチェックがあるのかね」
「さあな、だけど、女子が一人、金城さん達の方に行ってたみたいだけど」
勇太はうーん、と首を傾げた。
「なんかなあ。私、あの娘にシンパシーを感じるんだよなあ。なんなんだろう……」
登校時、バスの中の彼らに手を振ったのだけど、これだけ近くで接近遭遇したのは学園祭ぶりだろうか。
さてさて、この感覚は何なのやら。
金髪少女に、くせっ毛少女。また、彼らを中心にして新しい事が始まりそうな気がする。
勇太はワクワクしたものを感じ始めていた。




