ハイサイ沖縄!
去っていく人々、やってくる人々。
別れと出会いのイベントをこなして、残るイベントは一つ。
散々ここまで計画を立ててきた、修学旅行である。
中学時代は、仙台~奥州・平泉だったのが、郁己と勇太の二人組。
このたび初めて飛行機で海を越えるということで、大興奮である。
「いや、福岡とか長崎は行ったことあるんだけどな」
「うんうん、私も母さんの実家が関西の方だから、そっちは良く行くんだけど」
なんといっても、南国である。
国内に、南国がある!
めったに飛行機に乗る事がない彼ら。
離陸した瞬間から、テンションはマックスであった。
シートベルトにぎゅっと押し付けられるGを感じて、
「うひょお」
「ひゃああ」
と二人で声をあげた。
楓が横でクスクス笑う。
窓際が夏芽で、楓、勇太。通路を隔てて、郁己と上田と下山である。
「お前ら本当に飛行機初めてだったのな……」
下山が呆れて言うが、そんな言葉聞いちゃいない。
フロントのスクリーンに、離陸して遠ざかっていく地上の光景が映し出されている。
それは、すぐ前の座席後部に取り付けられたディスプレイでも見ることができるのだ。
窓際に座っていた夏芽。
眩しいからと遮光スクリーンを下ろそうとしたら、
「もったいない!」
と勇太に叱られた。
「えー」
「私アイマスク持ってきたから、これ使いなさい!!」
「は、はい」
いつにない凄い勢いに押し切られる夏芽。
「ちなみに下山。俺は別に初めてじゃないんだ」
「じゃあなんであんなにテンション高かった!?」
「まあ、その場のノリという奴だな」
「分かるぜ坂下」
「おお、上田」
「……分からん」
下山は頭を抱えた。
彼とて、修学旅行を迎えて気持ちが高ぶらないわけではない。
だが、この下山から見てバカップルが持ち上がっている、坂下・金城ペアのテンションはどうだ。
何か? これはお前らの新婚旅行か何かか!?
そんなレベルの浮かれようである。
横に盛り上がる人あれば、スッと鎮まるのが下山であった。
一緒に盛り上がれればもうちょっとモテるのかもしれない。
機体が平行になり、ベルトを解除してよくなった頃合である。
この区画は丸ごと城聖学園の学生たちで占められているのだが、彼らがめいめいに座席移動を開始する。
東京~沖縄間の飛行時間は概ね二時間。
電車の旅に比べれば驚くほどの速さではあるのだが、とは言っても二時間もある。
他の乗客の迷惑にならない程度に、節度を守った座席移動が行われる。
ちなみに、一度に大勢が座席移動をすると、飛行機の重心が変わって危険だそうだ。
ということで……CAの方と担任の指示のもと、粛々とそれぞれの班内で座席をチェンジする。
他の班に行ってはいけないし、学園のスペースから抜けてもいけない。
空には空のルールがあるのだ。
……ということで。
夏芽・楓・上田・通路・郁己・勇太・下山
こんな感じの組み合わせになった。
「飛行機って言うのは厳しいんだねえ。電車は指定席でもないと適当だけど……」
「全席指定だからな。厳密に言うと飛行機の座席移動は契約違反なんだそうだ」
「ほほー」
郁己と勇太、下山の言葉になるほどーと頷く。
道理で、一列ずつ少しずつ、座席移動していると思った。座席移動というか、席交換だが。
この辺、城聖学園の生徒はマナーがいいので、航空会社から信頼されているそうな。
席交換をして落ち着いたのか、それぞれの席で雑談が始まった。
主に、旅行プランの再確認とか、座席で楽しめる映像コンテンツについてわいわいと。
有名な映画なんかも見られるので、ヘッドホンをして、一人映像の世界に埋没する者もいる。
勇太たちとは少し離れたところで、小鞠たちの班がある。
シャイン4のうち3名と通路を隔てて、女子たち一同。
なぜか席をザッピングすることもない。
人間関係は良好そうなのだが……。
「ええい、くそう!」
「……板澤は何をやってるんだ?」
「上海よ。もうね、この最後の牌が……! むきい」
「飛行機に乗ってまでか!? 何故に……!」
困惑する本田。
「物珍しさで始めたらね、小鞠んはほら、負けず嫌いだから……」
「ワンモアッ! ワンモアよー!」
「小鞠がんば」
「いやいや、話とかしようぜ!? せっかくの修学旅行じゃん!?」
「はっ、その発想は無かったわ」
本田と小鞠たちのやり取りで、城之内が爆笑する。
和泉も楽しげである。失恋旅行ってわけじゃないが、引きずっている気持ちをここで断ち切りたいという思いがある。
城之内や張井さんに気を遣われているのが分かるから、とにかく立ち直らねば、なのだ。
何より、彼は生徒たちを引っ張っていく立場。
生徒会長なのだ。
逆の窓際では、男女別々のはずの席順で、偶然隣り合う事になった理恵子と国後が座っている。
言葉は少ないが、ちらりと理恵子の目線が投げかけられるのは、しおりを手にしてはしゃぐ生徒たち。
彼女の唇に満足げな微笑が浮かぶ。
国後としては、それだけで胸がいっぱいだ。
彼らの後部にはレヒーナと麻耶、大盛さん。
レヒーナのたっての願いで、八重山諸島を巡る旅程になっている彼ら。
フェリーを乗り継ぐので、今から顔を突き合わせての会議である。
このチーム、男たちは女子に見惚れるばかりで戦力外。
しっかりした三人が引っ張っていく形になっている。
まあ、男たちの気持ちも分かる。
機内でちょっとしたおやつも出た。
本来、国内線では機内食は出ないことが多いのだが、これはまた別らしい。
可愛らしい小さなサーターアンダギーが三つ。これとさんぴん茶である。
これを美味しくいただくと、もう飛行機は海の上。
本州、九州を抜けたのだ。
「わわわー!」
勇太が窓に張り付いた。
また席交換をしたようである。
夏芽をむぎゅーっと押し付けるようにしたから、彼女は親友の豊かな胸に押しつぶされて苦しげである。
「ゆ、勇、く、苦しいっ……!」
ただでさえ狭いエコノミークラス。
大柄な彼女の身動きが難しいのに、そこにぎゅうぎゅう詰まってこられると大変だ。
「あ、あんこがでるー」
「うふふ、夏芽、ちゃん、それ面白い」
「あ、ごめん夏芽ちゃん。だって、一面海だよ! 真っ青! 海海海!」
「そりゃあ海の上だからねえ」
周囲には雲は少ない。
素晴らしい晴天だ。
体感速度では早く感じないけれど、機は確かに沖縄に近づいていて……。
島が見えてきた。
上空を飛びながら、ゆっくりと飛行機の高度が下がっていく。
再びベルトを締めて、着陸に備える。
一面の空だった視界は、徐々に陸に塗りつぶされていき……軽い衝撃。
機体から、地面を走る振動が伝わってきた。
到着!
喜び勇んで飛行機を出たら(もちろん、お行儀よく並んでいる)、そこは空港。
そりゃあ空港で降りるから当たり前なのだが、降りた瞬間南国! を期待していた勇太は少々肩透かし。
それでも、あちこちに飾られた沖縄らしいディスプレイに、いやおう無く期待は盛り上がる。
「さすが観光地……! 地方の空港だって感じがしないな」
郁己の声を背中に受けながら、どんどん進んでいく。
出入り口をくぐると、目の前は道路と陸自の基地ながら、どこか潮の香りがした。
背中に海を背負った空港なのだから当たり前なのだが、なんとなく特別感。
「ハイサイ!」
勇太は堪えられずに飛び跳ねた。
その後ろで、レヒーナ。
「女の子はハイタイらしいケド、黙っといたほうがいいよネ」
くすっと笑ったのである。




