GWのお誘い、レヒーナ街へ行く
五月度スタート、お話急展開です。
五月ともなると、学校の雰囲気も随分と落ち着いてくる。
GWに突入した城聖学園は、どこかまったりとした空気を漂わせていた。
五月最初の祝日である。
すやすやと普段なら寝坊であろう時間帯まで、惰眠をむさぼるつもりであった勇太。
彼女は自分とは違って、生真面目な妹に揺すられて目が覚めた。
「なんだよう~……。今日は休みじゃんか~……」
武道家とは思えぬほどに緩んだ声である。こうして休日にかこつけ、朝の稽古をサボったりするから、心葉に徐々に差をつけられていっている訳なのだが。
だが今日は、真面目な妹が怠惰な姉を稽古に誘いに来たのではない。
「勇太、あなたあての来客があります」
「んー?」
心当たりがない。
無いといえば……ある。
昨日、レヒーナが一緒に遊びに行こうと誘ってきたような。
「ええー……早くない……?」
「居間で待ってもらってますから、勇太は早く起きて顔を洗うか、シャワーを浴びてくるようにしてください。友達と遊びに行くんですから」
「ふぁ~い」
流石に、編入してきたばかりの留学生。楓と理恵子の他に、最も親しいのが勇太である。
自分を頼って来てくれたのだと思うと、悪い気はしない。邪険にも出来ないのだが……。
一応ざっとシャワーを浴びて、髪をしっかり乾かして、ラフな格好のままふらふらと居間に来た。
「やっほー、ユー!! 待ちきれなくって来ちゃったヨー!!」
体にピッタリとしたTシャツにパーカー、ホットパンツという活動的な格好の彼女が、鎮座ましましていた。健康的な太ももが白く目に焼き付く。
パッと勇太の目が覚めた。
「良い足してる……」
ちょっとムラっと来た。
勇太の中の男はまだ健在らしい。
「勇はまたそんな適当な格好して。お洒落してくればいいじゃないですか」
「えー、起きがけの頭じゃ思いつかないよ」
まだ本格的には動かない体を引きずって、勇太は食卓についた。
朝食は、心葉が作ってくれた目玉焼きと昨晩の残りのおかず。ご飯と味噌汁をもそもそ食べる。
対面では、何故かレヒーナも、美味しそうにご飯を食べていた。
箸使いが何故か上手い。
「Delizioso! コノハの目玉焼きは最高だネ! ボク、コノハをお嫁にするよ!」
「お嫁!!」
愛のアプローチめいた言葉を受けて、心葉がびっくりして目を見開く。
妹は外見が勇太によく似ている。つまり結構な美少女なのだ。男たちから声をかけられたりなどは、慣れていると思ったのだが。
「それが、私に言い寄る人がいなくて……。最低限、人格的に私が尊敬できる人か、そうでなければ私より強い人、という条件だけなのですが」
「ああ、そりゃ無理だね、うん」
あっさり切り捨てて勇太は味噌汁を飲んだ。美味しい。
「何故ですか」
「なんでー?」
「あのね、レヒーナ。心葉ってもう、本気だと私より強いんだよね。つまり、レヒーナより強いんだよこの子。私が知る同年代の武道家だと一番強いんじゃないかな。これは勝てるとかそういう次元のものじゃないよ」
「コノハ強いんだー」
「あとは性格……。心葉真面目だからねえ……。もう少し、柔らかくなれば、郁己みたいな人が現れると思うんだけど」
「郁己さんは嫌いではありませんけど……」
心葉は割りと、郁己を気に入っていることを勇太は知っている。
だから、この外見のお硬いイメージに惑わされず、ハートで彼女にアタックできる男の子が、彼女をゲットするだろう、と、何気に妹思いの姉は考えた。
そのうち自分も不器用な妹のために何かしてやらなくては。
朝食を摂取すると、なんとなく人心地が付いた気がする。
勇太はレヒーナにちょっと待ってもらって、個人的に今ブームの、ひざ丈フレアスカート姿でやってきた。上着は薄手のニット。首筋がすらりと見えて、可愛らしい。
「おおー!! Splendido! ボク、ユーの事また好きになったよ!!」
すごい勢いでレヒーナが抱きついてきたので、避けることが出来なかった。
軽々と抱え上げられてしまう。身長はレヒーナのほうが高いから、抱っこされると足がつかない。
「ちょちょ、ちょっとレヒーナ! おろしてよー!」
レヒーナが思わず抱きつく速度で来られたら、勝負では負けそう、なんて勇太は思う。
何せ、今全く対応出来なかった。咄嗟に間合いを取ろうとしたのだが。
やってることは女の子のじゃれあいなのに、内容は実に高度な武術の応酬であった。
「んー? ゴメーン! 思わずやっちゃった!」
ペロッと舌を出して、レヒーナは勇太を下ろした。
「ユーはすごく柔らかかったよ! ボクも羨ましいなー」
じっと勇太の胸を見るレヒーナ。
そして、傍らで読書を始めた心葉の胸元を見た。標準サイズ。
「……コノハは年下?」
「同い年ですよ失敬な!」
憤慨する心葉。女の子の良さとは胸だけではない!
心葉の機嫌が悪くなりそうだったので、勇太はレヒーナを連れて出かけることにした。
「心葉は今日一日家?」
「ええ、後で楓さんが遊びに来るんです」
「楓ちゃん来るんだ! よろしく言っといて!」
「ええ、もちろんです」
そんな感じで、二人でお出かけである。
ミドル丈フレアの和風美少女と、ホットパンツの白人美少女の組み合わせは非常に目立つ。
すでに勇太が生まれたこの街でも、彼女が勇太であると気づける昔ながらの知り合いはいない。
堂々と二人は駅前の商店街を冷やかして周り、衆目を集めた。
「ユー、なんか注目されてるヨ」
「みたいだねー。レヒーナが目立つんだよ」
「そっかな? ユーも可愛いのに」
二人共注目されてる、が正解。
この二人はそれにも気づかず、なんと電車に乗って都心に遊びに出たのである。
「お店が沢山入ってるビルって、見て回るだけで楽しいよネ」
「だよねー。私も女の子の気持ちがわかってきたなー」
「んー、残念。ユーが男の子のままだったら、ボクがお婿さんにしたのに。まあ、今のユーも可愛くて好きだけど!」
ウィンドウショッピングなどしていると、なんだかじろじろと注目される気配がする。
それでも、流石は都会。
おしゃれな格好をした女性なんて何人もいるし、地元ほどの注目度が無い……気がする。
ぶらぶらしていたらお腹が空いたので、二人でオシャレなカフェに……と見せかけて、ガッツリ系ラーメンのチェーン店にはいろうとした時だ。
「ねえねえ君達、すっごく可愛いけど、どこかの事務所に入ってるの?」
「んー?」
声をかけられて、レヒーナが振り返った。
彼女のレベルの高さに、声をかけた男が一瞬たじろぐ。
「どしたの、レヒーナ」
もう一人振り返った勇太が、目元のぱっちりとした日本人らしい美少女なので、また驚く。
「なんだこれ。超当たりじゃん」
ぶつぶつ言ったかと思うと、
「実は俺、こういう者なんだけど、街の可愛い子を、歌手とかグラビアアイドルとかにスカウトしてるんだよね。どうかな、話だけでも聞いてみない?」
「んー。ボクたち、今からご飯食べるからー」
「食事のお金なら出すよ!」
「んー」
「どうする?」
「聞くだけ聞いてみる?」
そういう事になった。
そして、男は冷や汗を垂らしながら、目の前で、麺大盛り、野菜大盛り、アブラ大盛り、チャーシュー乗せを美味しそうに食べる二人の美少女を前にしていた。
大の男でも腰が引けそうな量が、あっという間に消化されていく。
……なんだこれは。
オシャレなカフェとかじゃなかったのか。
なんで俺は、こんなテーブルが脂でベタッとしていて、むさ苦しい男たちが汗を流して、こんなとんでもない量のラーメンを食う店にいるんだ。
しかも、ラーメンを食べているのは彼が今年声をかけた中で、ダントツ一位の美少女たちである。
「ふうー、流石にスープは飲めないや」
「うん、ボクもお腹いっぱい! あ、デザート頼んでいい?」
「まだ入るの!?」
「デザートはベツバラって日本の言葉でショ! ねー!」
「ねー!」
レヒーナ、勇太に微笑みかけると、勇太も真似して返してきた。
食後のビッグパフェを食べる。
このラーメン屋、パフェがあるのだ。
コーンフレークなどという気の効いたものはない。
中には白玉が敷き詰められ、あとはぎっしりとアイスである。
これをまた、二人の少女は実に美味しそうにパクパクと平らげていく。
食事が終わった後、男はまるで自分が食べた後のような胃もたれ感を覚えた。
当分ラーメンやパフェを見たくない。
「そ、それで、話なんだけど……。うちのプロダクションで、今度こういう企画をしててね」
美少女コンテスト的な分かりやすいものだ。テーマを設けてあって、とあるアパレルメーカーの新作が一番似合う子、というようなコラボレーション企画らしい。
参加賞として、着た洋服がもらえるとある。優勝者は芸能界デビューも出来るとか。
芸能界とか全く、これっぽっちも興味が無い二人であったが、洋服がもらえると聞いて目を輝かせた。
「こんな高そうな服もらえるの!? やってみようかな……!」
「ユーがやるの? じゃあボクもやるー!」
とりあえず未成年なので、後日親御さんにも報告、ということになった。
男の人の名刺をもらって、二人は帰っていく。名前は、江指康介とあった。
江指は、この企画の成功を確信していた。我がプロダクションが勇躍する一助になることであろう。
拳をギュッと握る。
「なんか面白い人に声かけてもらったねえ」
「うん、ラーメン美味しかったー!」
その後、ちょこちょこやってくるナンパらしき男性を(物理的に)はねのけながら道を行く二人。
横断歩道で立ち止まり、向かいの角で信号を待つ人々を見た時、勇太は目を疑った。
郁己がいる。
いや、それだけなら問題は無いんだが……。
何故、横に女の子がいるんだろう。彼女の名前は確か、本城桐子。
心葉の友人で、時期風紀委員会長と目される才媛。そして、勇太の嗅覚では、明確な敵。




