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ギムレット、ライラックの花と共に

作者: Irene

騒がしかったこの日の終わり

私は静かにバーカウンターに立つ

これから作るのは

彼女と私と、そして今は居ない貴方のためのカクテル


最初に作るのはブルームーン

薄紫のそれは彼女のために

貴方が彼女に最初に教えたカクテル

幸福な時間の象徴であるそれ


出来たそれを彼女に渡しに行く

貴方と出会えた

その軌跡の瞬間を思い出しながら

彼女はこのカクテルを飲むのでしょう


次に作ったのはブランデー・フィックス

レモンを添えた爽やかな風味のそれ

懐かしき日々を思い出すのに最適でしょう

この日にこそ相応しい


出来たそれを少し離れた所に置き

意識せずにに目を細める

ああ、そういえば

カクテルの意味を教えてくれたのは貴方でしたね


最後に作るのはギムレット

ジンをベースにした中辛口のそれ

貴方を思い出すには最適のカクテル

長き別れの象徴、グラスの淵にライムも添えて


オレンジ色と無色なそれらのグラスを手に

私は庭へとでる

ライラックの木の下にあるテーブルに行き

対面するかのように配置された椅子の片方に腰掛ける


月明かりの下

いまだ色褪せぬ日々を思う

そして正面にある空っぽの椅子と

その前におかれた貴方の為のカクテルを見る


いつの間にか一年が経ちました

貴方の居ない日々に私も彼女もなれません

それでもまだ、生きています

辛うじてですが前を向き始めました


いつか、この痛みになれるでしょうか

いつか、この寂しさは消えるでしょうか

いつか、この意識下の涙は止まるでしょうか

いつか、二人で貴方の思い出を語り合えるでしょうか


どうか、遠き所から見守ってください

どうか、私たちの頑張りを見ていてください

どうか、貴方の居ない日々に寂しさを覚えることを許してください

どうか、これからの私たちを応援してください


目を瞑り、少しの間黙祷を

母である彼女が唯一愛した貴方のために

娘である私が何時までも尊敬する貴方に

何時までも強い心を見せた父であり夫である貴方に


これは、私たちの貴方への追悼

去りし日々を思い浮かべながら

それぞれのカクテルを飲み干す

貴方のカクテルはライラックに捧げて


さあ、明日からまた、前を見ましょう

貴方に笑われないように

貴方に呆れられない様に

何時かまた逢う、その日を胸に

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