天才の語り
プロローグ
誰が想像するだろう。
目の前には、死体がある。
そう、人間の死骸、成れの果て。
刺激のない、つまらなかった世界が今、確かに囁いた。
「お待ちかね、人が死ぬよ」
1
「俺への取材?」
晴嵐高校バスケ部ー都内でも強豪中の強豪だ。
一軍から三軍に別れており、部員数は百人を軽く超える。
その中で試合に出るというのはレギュラーでも難しい。
三年間の部活の中で一度も試合に出られなかった部員がいるのも珍しい事ではない。
そんな部活でキャプテンになれるのはとても光栄なことで。
簡単に出来る事ではない。
しかし、僅か半年でその偉業を成し遂げた男が実在する。
佐野明利。
この栄光輝く晴嵐高校でイレギュラーな存在として注目されている、キャプテンだった。
この男、言うなれば天才というやつで満点入学を果たしたり、いきなり生徒会長になったりと。
注目を浴びない方がおかしいくらいに伝説を打ち立てた。
「そう、君にぜひ取材を受けて欲しいの」
顧問、吉高彩子は興奮しながら言った。
「いや、俺そんな器じゃないし……」
顧問が求めているのはそういうことではなく、自分の部活がいち早く有名となり自分のお株をあげること。
明利はこの顧問が大っ嫌いだ。
反吐が出る程に。
結婚していると言うが、嘘だ。
なぜなら、左手の薬指が細くない。
指輪の跡もないし、間違いない。
「ほら、練習再開ですよー!」
良い所に助け舟が来た。
「スリーメン、いくよー‼︎」
大きな声を出し、部員を叱咤するのは佐野衣夢。
明利の双子の妹だ。
中学時代は、大会で好成績を叩き出したもはや伝説の存在の一人。
「明利も早く、練習に戻る‼︎」
双子と言っても、血は繋がっていない。
異母兄弟というやつで、あいつは義母の連れ子だ。
初めて会ったのは十年前。
まだ小学生になって間も無い頃だったと思う。
最初は何て表情のない子なんだろうと思った。
能面を貼り付けているかのように喜怒哀楽を示さない。
俺の父親が話をふっても「はい」とか「うん」しか言わない。
そんな子がここまで元気になったのは、やはり"あいつ"のお陰なのだろう。
「じゃあ、俺はもう練習に戻るので」
顧問の冷たい視線を浴びながらボールを追いかけ始めた。
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腹が立つ、あぁ腹が立つ‼︎
なんなのガキの癖して、生意気‼︎
やっと自分のお株が上げられるチャンスだったのに、邪魔をされた。
確か、佐野衣夢とか言ったっけ?
入部して来た時から気に入らないと思っていたのだ。
あぁ、本当に腹が立つ。
帰ったら自棄酒でもしよう。
グシャッ
やってやった、遂にやってやったのだ。
憎きあいつを、殺した、殺せた。
後はパズルのように順番にピースをつなげていくだけだ。
この計画は完璧だ。
芸術と言っていいほど穴もない。
なんて言うとフラグが立っちゃうなぁ。
バカな事言ってないで早く飾りつけてあげなきゃ。
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いつものように5時に起きて朝食を食べ、自室でストレッチをする。
「明利?ちょっと入っていい?」
「衣夢か、どうしたの?」
今思えば、これが非日常の始まりだったんだ。