はいはい車いす
「おじゃまします」
「はい、どうぞ」
成り行きで女の人の家に泊まることになった俺は、何故か今、その女の人を抱きかかえている。
「ごめんね。家じゃ車いす使わないから」
「いいえ、大丈夫です」
それにしても軽い。ちゃんとモノ食ってんのかな。
遥さんに案内をされつつ、リビングに向かい、椅子に下ろしてやる。
「ありがとう。洗面所は真っ直ぐ行って左手にあるよ。後で客間に案内するね」
「どもっす」
言われた通りに洗面所に向かう。隣にはトイレ。もう少し進めば風呂場。何処に何があるかをひとつひとつ確認してから、手を洗う。
「終わりましたー…」
遥さんは椅子に座ったままボーっとしていた。
「遥さん?」
「あ?ああ、ごめんね。じゃあ、客間に案内するね」
そう言うなり、椅子から身体ごと地面に滑り降り、這うような体制で進む。
「もう一回抱えますか?」
親切心で言ってみたが、笑って断られた。
「申し訳ないもん」
(いやいや、そういう問題じゃないでしょう。芋虫と同じ速度じゃないっすか?)
心の中で失礼なことを言いつつ、ゆっくりとついていく。遥さんはいたって普通に、世間話をしながら客間へと向かう。
「慶珸君は、大学生?」
「はいっす。遥さんは?」
「私も大学生。通信教育だけどね」
ニコニコと人当たりの良い笑顔で言われた。大学生。じゃあ、同い年ぐらいなのか?
客間についたらしい。遥さんはうんと伸びをして襖を開けた。
「ちょっと狭いけど、我慢してね」
「…いえ、全然大丈夫っす」
客間は五畳ほどの広さだった。泊まるにはちょうどいいだろう。
「ごめんね。そこの押し入れに敷布団あるから、それ敷いて寝てね」
「ありがとうございます」
荷物を部屋の奥に置き、リビングへと戻る。
「あ、遥さんって酒とか飲めます?」
「私?結構強いよー。面倒くさいからあんまり買いに行かないけどね」
「じゃあ、今日飲みません?俺、明日大学休みなんスよ」
「旅行じゃないんだ」
「あ」
しまった。遥さんの方を見ると、してやったりと言う顔で笑っている。
「わかってたんすか」
「んー。若干?カマかけて成功してビックリ」
ふふふと笑う遥さん。じっと見てみると、案外美人だ。
「家出少年か何か?」
「少年って歳でもないっすけど、まあ、そんな感じです」
「そっかー。はやくお家の人と仲直り出来るといいねえ」
事の重大さを知るどころか、俺の素性を知らない遥さんは呑気に笑う。
「あはは…」
俺は、乾いた笑いしか返せなかった。




