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episode3:第二の名前!南次郎

「ただいまー」

 夕方4時、沙希が学校から帰ってきた。座って靴を脱いでいると、中から明良が出てきた。

「あ、お兄ちゃん。ただいま」

「ちょっと来い」

「・・・・・・?」

 明良に呼ばれ、沙希は2階へ上がる。兄は沙希の部屋に座っていた。

「なに・・・? あたし何もしてないよ」

「分かってる。・・・これ、見てくれ」

 明良はぬいぐるみ、門佐武郎を沙希に見せた。その途端、彼女の額に青い筋が4本程入った。

「こっ・・・ここここっ・・・これっ・・・こここ」

「ニワトリかお前は」

「なんで!? どうして!? だって今まで無かった・・・」

「ポチ太郎の中に隠れてやがったんだ」

「ポチ太郎じゃねぇ! パウだ!!」

 門佐武郎は明良に向かって怒鳴った。

「・・・これって・・・あれ・・・・・・あれでしょ? あの・・・馬鹿みたいにヨダレ垂らしてたぬいぐるみでしょ・・・?」

「この小娘! 馬鹿とはなんだ。俺はお前よりもスッゲェスッゲェ年上なんだぞ」

「お前は黙ってろ」

 明良は門佐武朗の頭を小突き、続けた。

「コイツをな、家に置こうかと思って・・・」

「ヤダよ! 絶対ヤダよ!! コイツが居るんならあたし、この家出てくからね!!?」

「おい沙希・・・」

「この世に喋るぬいぐるみが居るなんて考えただけでゾッとするもん!!」

「考えなくても目の前に居んだろーが」

 元々出っ張ってるクチバシを更に出っ張らせて言った。

「喋んないでよ気持ち悪い!!」

「でもな沙希、コイツ、まぁ悪い奴ではなさそうなんだ」

「悪い奴でも悪く無い奴でも気持ち悪いモンは気持ち悪いの!! お兄ちゃんは何!? 妹よりもぬいぐるみを取るっての!!?」

「そんな事言ってねぇだろ」

「沙希ちゃん落ち着け」

「気安く呼ばないでよ!!」

「ぐぇっ」

 沙希は明良の膝の上に乗っていた門佐武朗を蹴飛ばした。豪快に窓にぶつかると、その場に落ちた。

「・・・な、なんでこの兄妹は物を大切にしないんだ・・・・・・」

「沙希! 何すんだ!!」

「なによお兄ちゃんのバカ! なんでぬいぐるみの味方するの!?」

「・・・ただのぬいぐるみじゃない。・・・放っとけないだろ・・・」

(・・・・・・明良・・・・・・!)

 門佐武朗は床に転がったまま明良を見た。

「バカバカバカ! お兄ちゃんのバカッ!! こんなのっ・・・」

 沙希は門佐武朗のまん前に立ちはだかり、何度も何度も蹴りつけた。

「沙希ッ! バカやめろ!」

「なんで止めんの! お兄ちゃんコイツに催眠術でも掛けられてるんじゃないの!?」

「掛けられてるわけねぇだろ! とにかくやめろ!」

 明良がそう言っても沙希はやめない。仕舞いには包丁を持ち出す始末だ。門佐武朗を手に取ると、包丁を突きつけた。

「沙希、やめろ・・・」

「近づかないでよバカ!! 訂正して」

「あ・・・?」

「コイツを家に置くなんて訂正して!! 早く元あった場所に戻してきて!!!」

「・・・なぁ、少し話を聞いてくれ」

「話・・・? コイツを戻す事以外に何を話すっての!?」

「いいから聞けよ!!」

 明良は強い力で沙希の腕を掴んだ。その拍子に包丁が足元へと落ちた。幸い床に転がっただけだった。

「・・・・・・」

「分かるよ。お前が拒否すんのも分かる。怒鳴りたくなる気持ちも分かる。だけど、コイツはお前の部屋に居た時お前になんかしたか? 嫌な事とかしたか?」

「・・・・・・してないけど・・・でもそういう問題じゃなくてっ」

「じゃあなんだ? 包丁まで持ち出してブッ刺したくなる理由はなんだ?」

「・・・・・・」

「沙希ちゃん、腹綿煮えくり返ってるのか?」

「字が違う」

「! 何故分かるんだ!! でもピンポーーン。腹綿あんのは俺だけだもんね〜?」

「黙れっつってんだろ!」

 明良がまた門佐武朗の頭を殴ると、今度こそは気絶した。

「なぁ沙希。頼む。コイツ、中身は人間なんだ」

「!!? 更に気持ち悪いよ!! やっぱり捨て・・・」

「中が人間だからこそ・・・! 頼む・・・!!」

「どうしてそんなに必死になるの」

「自分でも分からない。とにかくコイツは家に置いといた方がいい、って・・・・・・。そう思うんだ」

「・・・・・・でも喋るぬいぐるみだよ? あたしの友達が遊びに来た時はどうするの・・・」

「安心しろ。コイツは俺の部屋で飼う」

 と言うことで、門佐武朗は明良家に住まわせてもらう事になった。

「俺の名前は門佐武朗!」

「ペンギンのぬいぐるみに門佐武朗は無いからさ、だから沙希。お前何かいい名前ないか?」

「・・・・・・名前・・・。ペンギンって、北極? 南極?」

「・・・南極、かな」

「南極・・・南・・・南太郎・・・」

「南太郎!? なんか「なんだよう」って言われてるみたいで嫌だぞ」

「ちょーっと無理があるかなー。「なんだよう」に繋げるのは」

 明良が後ろから門佐武朗の頭を引っ掴んだ。

「あ、や、やっぱり?」

「じゃあどういう名前がいいの?」

「・・・日本らしい名前」

 門佐武朗がそう言うと沙希は更に考え込んだ。5分程経った時、口を開いた。

「・・・・・・次郎・・・・・・」

「次郎?」

「そこに南極の「南」をくっつけて、「南次郎(なんじろう)」!」

 門佐武朗の目が輝いた。

「南次郎・・・。そうか、南次郎か。いいな。南次郎・・・・・・響きが気に入った!」

「南太郎とそう変わんねぇけどな」

 呆れ顔の明良がボソッと言うと、門佐武朗は「南次郎アタック!」と言って明良に体当たりした。

「じゃあこれから南次郎ね!」

「おうっ」

「なんじろ なんじろ なんじろー♪」

「やかましい! 歌うな!!」

 南次郎は明良に蹴っ飛ばされた。壁にぶつかっても南次郎は笑顔だった。

「・・・気持ち悪っ! お前Mか?」

「なんだと・・・。失礼な事を言うなっ!」

 怒りながらも笑顔の南次郎を見て、沙希も明良もプッと笑った。

「・・・ねぇ、って言うかさ、どうして人間がぬいぐるみになったの?」

「俺にも分からねぇんだ。昼寝してて起きたらこんな姿に・・・」

「ばうあう」

 横から声がした。振り向くと、いつの間にかパウが傍に来ていた。

「お、パウ!」

「ばうあう」

 甘えた声を出し、南次郎に体をこすり付ける。

「いててててっ! お前体が木なんだから痛ぇだろっ」

「ばう・・・」

「ところで、お前はなんで沙希ちゃんの部屋に居たんだ?」

「あぁ、ポチ太郎はね、4日前に家の前に佇んでたんだよ」

「・・・4日前・・・!?」

 いきなり南次郎が大声をあげた。彼のまわりにはなんとも言えないオーラが漂っている。

「な、な、なに? どうしたの・・・?」

「4日前っつったら・・・」

「・・・・・・?」

「俺がこの姿になっちまった時じゃねぇか」

「・・・へぇー。偶然だね。あ、じゃああたしご飯の用意しなきゃ・・・」

 沙希がビクビクしながら立ち上がる。兄の明良も頷きながら立ち上がった。

 盛岡兄妹の中には「まさか」と言う思いもあったが、とりあえずはそのまま部屋を出ていった。部屋の中には南次郎とパウだけが残された。


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