彼岸花
男は原稿用紙に向かっていた。彼は小説の一部分を書いていたのだ。
その原稿用紙には一文だけ書いてある。
彼女は胸に大きな彼岸花を咲かせ、倒れた。
男はシャープペンシルを投げ、立ち上がった。鞄を掴み、散歩に出かけた。
彼は当てもなく歩いていた。道には彼岸花が咲いていた。彼は特に気にする事もなく歩いていた。その彼岸花は既に盛りを終えており、色が薄くなっていたからであろう。
暫く歩くと、また彼岸花が咲いていた。男は目を見開いた。その彼岸花は純粋な赤色をしていたからだ。男は暫く立ち止まってその花を見ていたが、やがて踵を返した。
自宅に辿り着くと、男は先程自分が書いた文を読んだ。そして、原稿用紙を半分に引き裂いて、丸めてゴミ箱に捨てた。
だからなんだと言われれば特になにもありません。