一の舞
連載と言いつつも、おそらく2か3で分割されて投稿されるだけなので短編とおそらく長さはあまり変わりません。短い時間でサッとは読めますが。
この小説はバトンリレーで作成されたものでありまして、よって切れ目で人称、視点、フラグ回収、文体が変わる場合があります。ぶっちゃけ変わります。
気にせず読める方のみお進みください。
雪解けの桜が舞う。その時私は雲ひとつない空を見上げていた。
そんなこんなあった三年間も終わり、卒業の時を迎えようとしている。
みんながそれぞれの道へと散っていくさまは、まるで散りゆく桜のようだ。
けれども、私は複雑な気持ちを抱いていた。そう、彼のことだ。
その物語は二年前、私と彼が同じクラスになった時のことだ。
僕は緊張した面持ちで、大きな校舎を見上げた。無理もない。本当に大きいのだ。小学校の校舎が三階建てだったのに、この中学校の高さはどう低く見積もっても8階程度はあるように見える。 ・・・・・・ドンッ!いきなり誰かがぶつかってきた。少しイラッとしつつ、後ろを振り返った。
「あ、すまんすまん。あまりにポケーっとしてたもんやからつい。わかるやろ?」
・・・・・・なんか言い出した。こいつ。ていうか、なんで大阪弁?ここは、一応標準語圏なんだけどな。でも、こいつも「アレ」を持ってるから、新入生なんだろう。つまり同学年。
「何がつい、なのかな?はっきりと論理的にわかるように説明してもらおうか」
下手に出て舐められるのも癪なので、高飛車に出てみることにした。意表を突かれて驚・・・・・・
「説明したろか?なんやったら資料付きで」
かなかった。それどころか、自信満々で提案までしてきた。
「こいつ・・・・・・新手の変人か」
思わず呟いた。ついでに新手の意味を説明する。僕の身の回りには変人しかいない。変人率99%なのだ。ちなみに残りの1%は僕である。
「……へぇ、お前、自分が普通って思ってるんか?」
「あのさ、心の中を読まないでくれます?」
初対面だというのにやけに馴れ馴れしい彼は、なおも一人で話し続ける。
「にしてもこんなところで一人校舎を見上げてるなんて、お前も変人やな。そしたらやっぱり99%が変人か。俺が普通でお前らが変人で」
「……一体誰なんだよ、こいつ」
さっきから話しかけてくる彼にではなく、隣にずっしりと立っている桜の老木に尋ねてみる。
当然のことながら、桜の木から答えは返ってこない。代わりに答えるのは、勿論この大阪人。
「何言ってるん? ここは学校の敷地内。この学校の生徒に決まってるやろ」
さっきから嫌味な言い方をする人間だ。いっていることが的外れではないというのが、また鼻につく。
「そんなことは常識的に考えてすぐにわかるから。そうじゃなくて何か……只者じゃない気がしたから」
そう言ったのは、悔しさ半分、残りの半分は本心だ。
その言葉も、彼の手にかかれば簡単に笑い飛ばされてしまう。
「……お前、やっぱり面白いわ」
「で、さっきから訊いてるけど、あんたは誰?」
彼の顔に浮かんだ笑みは不気味なまでに、舞い散る桜が似合っていた。
「……普通、そう言ったやろ?」
ばさぁ、とソメイヨシノの花弁を散らす春一番に、僕の髪も変な関西人の髪も見事に遊ばれている。
こんな事なら気分転換に髪を短くしておけば良かったと心の中で小さく毒を吐きながら鬱陶しく纏わりつく前髪を手で払い避けると、また心を読もうとでもする様に目の前の関西人はニヤニヤと僕の顔を見続けていた。
読心術でも会得してるのか、こいつは。
僕は前髪を手で押さえながらしっかり向き合って、少し彼を睨み付けながら言った。
「へぇ、君は何処までも自分が普通だと言い張ると」
「さっきから言うとるやろ、こっちからしちゃあ、んな突っかかってくるアンタの方がよっぽど異質やで」
「…初対面で言うのも何だけど、君僕の事嫌いだろう」
「なんやいきなり、それはホラ、…お互い様、なんじゃあ無いの?」
「まさか、一緒にするなよ君と」
「馬鹿言うなや、お揃いやろボク等、あはは」
その時僕は、彼の言葉に何故か過剰過ぎる程反応してしまったのだ。
「五月蝿い、知った様な口を利くな、何も知らない癖に」
正に吐き出す様に出た言葉は自分が思っていたよりも感情的で、意地が悪くて
僕の怒鳴り声を聴いたと同時にあんなに飄々としていた関西人の笑い声はすっと消えて、気付けば風も止んでいた。一気に気まずく成った空間ではただ忌々しかったあの風に、顔に貼り付く花弁や前髪に帰って来て欲しい位で。
静寂をぶち壊すみたいに無神経なぽりぽりと言う音が響いたのは、大人しく成ったと思っていた彼が元であった。
「…何してんだよ」
「見て分からへんの?チョコ食ってん」
アンタも食べる?とズボンのポケットに手を突っ込んで動かし、手を抜くと、掌には大量のチョコレートに飴にガム。
「………え」
呆然として何も答えない僕の手に無理矢理チョコを握らせて、その当人は飴を食べ始めた。正直僕はチョコの後にフルーツ飴は食べたくない。
何で持ってんだとは訊かない事にした。理由は簡単。こいつはやはり変人だからだ。
「……何も知らへんのは、アンタも同じ、やろ」
僕がこの春を、例えるなら
そう、長い夢の様。
忘れられない様な体験をして、忘れられない様な存在に出逢っていく。
だけど、強い風に吹かれれば儚く消え失せそうで。
彼は最後の言葉を言った瞬間、桜吹雪を背に何処かへ消えてしまった。
…又逢える、否、逢ってしまう気がした。
つまり、此処まではまだまだ前座、彼ともう一人の彼の出会いの場面。
ここからは所謂この物語の中核の部分に入る事になる。
きっとこの話を信じてくれる人も居れば、偽りだと言う人も居るだろうね。それは当たり前。
でもこれは正真正銘、私達が体験した小さな春の物語。
…さぁ、話はどんどん続いていきます。どうか心してお聴き下さいね。
新学期最初の、僕たちにととっては初めて聞くことになる、チャイムが校内に鳴り響く。
これから三年間聞き続けることになろう、澄んでいるとは言い難いその音色は、校内の生徒たちに着席を指示しているよう。
チャイムに指示されるまま、一人、また一人と指定された座席に座っていく。
そんな彼らの姿を、僕は、机に頬杖をしながら眺めていた。
「今日、放課後暇?」
「あの人、ストーカーしているって噂よ」
「んでよー、最後にラスボスがさー」
そんな、他愛のない、いや彼らにとっては重要なことなのかもしれない会話が聞こえてくる。
僕はこれから三年間、彼らとともに過ごしていくことになるのだ。
楽しいことも、悲しいことも、嬉しいことも、辛いことも、みんなで体験し、共有していくことになるのだ。
そう考えると、楽しみになるし、憂鬱にもなる。
クラスメート達を眺めているのに飽きたので、視線を教室内から教室外に向けることにする。
僕の席は、窓際というベストポジションに位置しているので、顔を少し左に向けるだけで教室外、つまりは窓の外の景色を楽しむことができる。幸い、後ろの席には人がいないので、変人に出会う確率も少ない。
また、今僕がいるのは三階。
この学校の規模、大きさを考えれば大したことはないだろうが、景色を眺めるだけなら充分すぎる高さだ。
無論、上の階で見る景色には及ばないのだろうが。
窓の外では、桜が舞っていた。美しく、艶やかに。
春風が桜の花弁を舞い上げ、雨の如く舞い落ちる。
桜の雨。そういっても過言でもないほどの量が舞っている。
「うわ……」
その見事な桜吹雪に、思わず感嘆の声がもれた。
さっき、校舎を眺めていた時も凄いと思ったが、上から見ると改めてその美しさが分かる。
僕は、その桜に一瞬で心を奪われた。
桜を眺めはじめて、どれほどのくらい時間がたったのだろうか。
僕はずっと、桜を見続けていた。
それほどまでに、この桜は美しいのだ。
できれば、自分の物にしたい。
そのような欲望さえもわいてくる。
そういえば、外で校舎を見ていた時、変な関西人と出会ったっけ。
「そういえば、外で校舎を見ていた時、変な関西人と出会ったっけ。」
あいつも確か新入生だったよな。
「あいつも確か新入生だったよな。」
ならば、彼も何処かでこの景色を見ているのだろうか。
「ならば、彼も何処かでこの景色を見ているのだろうか。」
…おかしい。何かがおかしい。
心ってものはこんなにもロックが軽いものなのか?
いやいや、僕の声はこんなにバスでもハスキーでもない。
「また会うたな」
後ろの席には見覚えのある関西人。もとい変人。
さっきまで空席だったとは思えない、コタツにミカンと言わんばかりの調和っぷりだ。
「何してんですか」
「ども、今日からあんたのクラスメートになる、ヨシダユウスケです」
標準語を意識しているのか?というかいきなり名乗られても困る。
「チョコの包み紙がとれないねん。手伝ってくれんか?」
言葉を羅列するんじゃない。そもそもチョコの包み紙がとれないのは当然だろう。朝からポケットに入れっぱなしにしていれば溶けて癒着するのは目に見えている。
「なんか言えや」
なんだかこの変人、前会った時より強気なような…。まったく、本心のつか
「なあ」
めない男だ。うすうすそんな気がしていたけれども。はぁ…、さっきまでの…
「妄想癖でもあるんか?」
「桜の感動を返して下さい!」
はっ、と気付いた時には遅かった。
「どうしたん、そんな大声あげて…」
変人がきょとんとした顔で見つめてくる。
クラスが、僕を見つめてくる。
「あ…、フ……」
変人になってしまった。音を立てず崩れ去った、ひっそりと生きるという欲望たち。
―――――― さよなら……
たった今、自分は変人ではないと信じていた僕は変人になってしまった
教室から飛び出した僕の頬を涙が伝う。
そのまま屋上に逃げ込み、何度も後悔した。
授業もサボった。
そして放課後
「どうしたんや、お前」
あいつだ、関西人が話しかけてくる
「僕、変人になっちゃった…」
「お前さっきのことで悩んでるんか?」
「当たり前だよ、ずっと自分だけはって思ってた」
「なんでなん?」
「だってそうでしょ、僕は普通の男子…」
「自分、何言うとるん?」
関西人が意味がわからんという顔をしてきた。
「だから、普通の男子…」
当たり前のことを返したつもりだった。
「自分の言うてること、おかしい思わんのか?」
「どういう意味?」
意味がわからなかった。
「…自分、どっからどう見ても…男やのーて、女やぞ?」
「は、何言ってんの?」
「鏡見たこと無いんかい」
「あるけど…嘘、でしょ?」
「ほんなら自分の目ェで確かめるんやな。」
まさか、そう思いながら僕は鏡の前に立つ。
「……そんな、これが僕の顔?体?」
「自分、ほんまに変人やな。」
「でもワシはアンタのこと、カワエエ顔にエエ体してると思うで…」
「どういうことか、説明して!」
僕は混乱していた。
「ワシは何も知らん、初めて会うた時からもうその顔やった。」
「そんな僕…これ以上変人に思われたくない!」
「自分、変人とちゃうで」
「十分変人だよ…」
あきらめかけたその時、関西人が言った。
「まだ中学は始まったばかりや、まだ間に合う」
「え!?」
「せやから、アンタは今日から女として生きるんや」
「はー!?」
「無理に決まってるでしょ!」
「無理でもやるしかないんとちゃいます?」
「それやないと自分、またこう思われるで………変人てなぁ。」
「じゃあ…教えてよ…その変人にならないっていう方法っていうか…」
変人か…僕は変人になりたくないと思っていた。そんな欲望は今さっき崩れ去ってしまったが、さらに粉々に崩れた。これ以上は変人には、なりたくなかった。
「ほな、また今度な。」
まるで私は何も知りませんと言っているかのように関西人は右手を振りながら去って行った。この学校には99%の変人が居て、1%は普通の人。今見ると、僕は 99%の中の一人になってしまった。いや、最初から99%の中にいたという方が正しい。自分だけは普通だと思っていたが…
途方に暮れる中、一人の少年が僕に歩み寄ってきた。
「ねぇ、君。僕は君のことが…好きなんだ。」
「え?」
意識より先に言葉がでた。
「好き」
今度は一言で終わらせた。相談するあてといえば…。即座に思い浮かんだのは関西人。
「ちょっと待ってて」
僕は小さい声でつぶやいた。関西人が、まだ帰っていないと信じて探した。もう帰るんだろうなと予想して校門の方に走った。予想は見事にあたり、桜が舞っている校門のところにいた。どうやら僕は関西人の帰りを邪魔してしまったようだが、今はそんなのは関係ない。
「いたいた!」
「なんや?お前か」
軽薄な口調で関西人は言った。
「で、用でもあるんちゃいます?」
さすがは人の心を読む「変人」。
「あのさ…」
「僕さ、告られちゃったんだ…男だと思ってたのに…」
つぶやくように、言った。そして、関西人は、
「付き合ったらええんとちゃうか?女として一歩踏み出せるしな」
意外な言葉ではないが、本当に言うとは思っていなかった。
その夜、僕はベッドの中で考えた。
.........「ねぇ、君。僕は君のことが…好きなんだ。」.........
その一言で思い出した。そうだ、置き去りにしてしまった。まあ断るのだから関係ないか。
でも・・・
再びショックを味わった。納得がいかなかった。
ん?
こんなことは絶対にない!
こういうのはよくある「夢オチ」っていうやつだ!テレビでもよく言うアレだ。きっと。
というのならあの奇声問題はどうしよう。数少ない1%を離脱しなくない・・・
こんなことを言いながら寝た。明日は喉が痛いなと予測できた。
朝・・・寝癖が一段とひどかった。あんな夢を見たんだ。仕方が無いだろう、と僕は黙々と学校の支度をした。
あれ、今日はみのもんたは休みなのか、とテレビの下のガラスに映ったパンを加えた自分が居た。よくある光景であり、変わらぬ表情だ。うん、昨日と変わらない!そういえばそろそろ行かないとなぁ。
全ての支度が終え、これでも朝起きるのは得意なんだっ!玄関先で胸を張っていた僕は、家を出た。
校門前、僕は自然と立ち止まっていた。ソメイヨシノが誇っていた。その光景は、人を惑わすかのように、かすかな紫ぎみのピンクが踊っていた。夢のような光景だな、と思った矢先、聞きなれてしまった声が聞こえた。
「うぃーっす。変人女新入り。妙に楽しそうやないか。」
「女?あんた一日中寝ぼけてるの?」
「はぁ・・・そろそろ現実逃避はやめたらいいんちゃう?いくらなんでも強情すぎや。」
そのとき私は確かに悟った。
.........「僕はれっきとした女だったんだ、と。」.........
夢オチではなかった。あまりのショックに失神してしまいそう、と思ったが意外にも心は一日で硬くなれたようだった。しかし、現実逃避をしても意味が無い。そして、最初の質問に冷静に答えた。
「別に?それより昨日の子、何組に居るの?」
「おっ、やっと納得したかぃ。しかしな、俺は見てないっちゅうのに。」
「ふーん。」
自慢の心眼で見れると思ったが、期待ハズレだった。どうも肝心なときに使えない能力なのが腹立たしいが・・・
「それより振ったのか?それとも・・・抱きしめたんちゃいますか?」
典型的な男だ。恋バナに首を突っ込んでくる。
「行ってないよ。だから訪問するつもりなんだよ。」
冷静に答えられたのが幸いだった。そして、ココからであった。
女としての理解せざるを得ないことに気付いたことに。
そして僕は歩き出した.................
告白した人を探すも、見つからない。
関西人にその旨を報告すると、彼は、
「まあ、しゃーない。また明日行きーや。」
と言った。
でも、明日は無かった。
お父さんが急に倒れて、学校にはしばらく行けなくなってしまった。
その後、私の転校が決まった。
あの関西人は、私に一言。
「短い間やったな、変人女さん。」
でも、私は彼に感謝している。
最後に一言。
『ありがとう―――』




