第6話 勇者奥義 其の一
まだ太陽が顔を出したばかりの早朝。私たちは宿を出発し、村近郊の山『ルデンゴラド山』にやってきた。ナイトが言うにはこの山には数日前からドラゴンが住み着いているらしく、村に危険が及ばないように退治依頼が出されたそうだ。
「ねーナイト」
「どうした?」
「私たちの目標は魔王を倒すことなんですよね?」
「そうだな」
「じゃあ、どうしてドラゴン討伐に向かっているんですか?」
「実はこの依頼は報酬がかなり良いのだ。この先資金は必ず必要になってくる。そのための資金集めだ」
――旅をするのもお金が必要だ。この選択は理論的で賛同できる。
「確かに、それは大切ですね」
「ああ」
「まあ、金っていうのは大事だよな!」
「そうですね……って、え!?」
聞き慣れない声に一瞬、私は鳩が豆鉄砲を食らったようになる。
その声はブラムの声だった。
「【隠密】か」
ナイトは【隠密】と言った。【隠密】というのは自分の存在が認識されづらくなると言う効果を持った「特技」。昨晩ナイトが使っていたのもきっとこれだろう。
「ああ! そうだぜ!」
「俺は勇者の仲間になるのを諦めるつもりはねえ!」
「だから勝手についてきた!」
そう語るブラムの上半身は昨日とはうって変わって、少し豪華な鎧を纏っている。
(ナイトに説教されたこと、ちゃんと反省してるじゃん!)
そんなブラムに少し感心しながら私は、ナイトの顔に視線を向ける。うわ、すっごい嫌そうな顔してる……。
「俺はお前を守るつもりはない。来たいなら勝手に来ればいい」
「へっ。守るのはこっちが本業だ!」
ブラムはそう言うと盾を持ち上げて見せてくる。私は少し不安になって、ナイトに「大丈夫かな?」と聞くと、食い気味に「問題ない」と帰ってきた。
このような感じで半ば強引にドラゴン討伐にブラムが同行することになりました。
山の中腹まで登ったところで私たち三人は休憩をとることにした。ナイトは周囲の見張りを、私は昼食そしてブラムはお昼寝をしていた。今日のお昼はフィオナちゃん特製たまごサンド! 朝早く起きて準備したんだから、ゆっくり食べる時間があってもいいよね。
「パクッ……モグモグ」
美味しぃ。きっとこのために私はここまで歩いたんだ。
――ガサッ! ナイトが見張りから戻ってきた音だ。
「どうだった?」
「ドラゴンの痕跡があった。何かおびき出す為の餌はないか?」
ナイトは私のたまごサンドが入ったバスケットを凝視する。私はとっさにバスケットに覆いかぶさった。
「私のたまごサンド! エサにする気でしょう!?」
「問題なのか?」
「いや! 問題しかないわよ!」
「私のランチなんですからね!」
そう言うと、ナイトは心なしか申し訳無そうに「わかった」とだけ言って見張りに戻っていった。
私のランチタイムが終わった頃、ナイトがまた見張りから戻ってきた。赤い鱗、炎を纏ったドラゴンも一緒だ。
――って、ドラゴン隣にいる!?
「お。なんだ、いい寝覚めじゃねえかよ」
ブラムが盾を構える。ブラムに合わせて私も杖を構えた。当然ナイトはとっくに剣を持って――。っていない!?
ナイトの姿はどこにも見当たらない。しかしドラゴンは私とブラムのほうへ向かってきている。戦うしかない。私はもう一度杖を構え直す。
「安心しな。前は俺が絶対守ってやるよ」
「お願いします」
私が攻撃の魔法陣を準備して行くと、ドラゴンもコチラに向かってブレスを吐く準備をしている。
「任せろ!」
「【フレイム・ストッパー】!」
ドラゴンの吐いた炎のブレスはブラムの盾に弾かれ、活気を失った。炎属性に対して効果を持つ防御系の特技……それにしても完全に無効化できるのはかなりの熟練者じゃないと難しいはず。
そうこうしているうちに私の魔法の準備が整った。
「行きます!」
「【水弾式魔法・水散弾】!」
水散弾はドラゴンに命中すると、ジュゥと嫌な音を立てながらドラゴンにダメージを与えている。ドラゴンはお腹周りの鱗が剥がれ、炎が露出している。ドラゴンがあまりの痛みにたじろいだその瞬間。ドラゴンの真上からナイトが現れた。
「【重斬撃】!」
ドラゴンはナイトによる重い一撃が入れられたことで吹き飛んだ。ドラゴンがいた場所に立たずむナイトに私は駆け寄る。
「ちょっと、こんな時にどこに行ってたのよ」
「大変だったんですから」
「【隠密】で奴の隙を見て攻撃を入れる作戦だと宿を出る前に言っただろう」
「え?」
――いや、言われてないんですけど……。私がそんなことを言っていると、ナイトはため息を吐きながら地面に刺さった剣を引き抜いた。
「いやぁ! すげぇ剣技だったな!」
「あんな攻撃されたらドラゴンでもひとたまりもねぇだろ!」
「いや」
「ドラゴンはまだくたばっていないぞ?」
「「え?」」
そう言われ振り向くと、傷はすっかり再生し、ものすごい剣幕でこっちを睨みつけるドラゴンが立っていた。思わずブラムのほうに目をやると……、もうすでにいない。
「うぉおぉぉお!」
――もうドラゴンの方に突っ込んでいってるー!!!
ドラゴンの爪、尻尾、口での攻撃をブラムは盾一つで受け切っている。そこにナイトが割り込み、技を放つ。
「連撃斬」
ナイトは常人の目には見えないスピードで剣を動かし、ドラゴンの鱗を剥がす。そして鱗を剥がし終えたナイトは一度こっちに戻って、私たちに伝えた。
「ここからは俺が前にでる。お前達は下がっていろ」
「え、でも一人で大丈夫?」
私のその疑問は聞くまでもなかった。私の問いにナイトは答えた。
「問題ない」
「へへ。ナイトは神に選ばれた勇者だぜ? 信じようぜ!」
ブラムがそう言うとナイトは「フッ」と私たちに笑いかけた。
「そこの盾使いがいなければ、そこの魔法使いを守りながら戦うのはきっと難儀だっただろう」
「だから俺も奥義を使おう」
「【勇者奥義・其の一】」
「ブレイブスラッシュ!」




