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第23話 不治

辺りは血に塗れ、目の前には自分を嘲笑う敵の姿。吹き出した血の出所が、自分の口だと気づくのに必要な時間はいらなかった。周りは結界で囲まれ、ナイトも、ブラムだっていない。今この空間は、私と敵の二人だけ。魔力も息も絶え絶えで、身体中の筋肉が悲鳴を上げている。


こんな事になるなんて。これくらいの出来事を予想できなかった過去の自分が心底許せなかった。


************


時は少し遡り、半日程前。


私達が港街を出てそう長くない時間。どうやら私達は『魔王城四天王』の一人、不治の名を持つ魔族がいるという廃墟に向かっているらしい。


私が考え事をしながらナイトの後ろ姿を眺めていると、電話から声が流れてくるように、ナイトの背中が言葉を放った。


「不治の名を持つ魔族である『ヴェオス』は、その名の通り不治の能力を持っているようだ。」

「『不治の能力』ってのはなんなんだ?」

「どうやら、その魔族から受けたダメージを治すことができなくなるらしい」

「なんだよそれ! 強すぎねぇか?」


ブラムが抱いた感情と同じものを私もきっと感じている。『不治の能力』仮にそんなものがあったして、強すぎる。それに、四天王がその能力を持っているという情報を持ってきたという者も怪しい。四天王ほどの敵からのダメージを受け続け、生還する。それがどれほど難しいかは私でも分かる。


私は疑問になったことをナイトに尋ねる。


「ねえナイト。信憑性はどうなの?」

「ああ。信憑性はないかもしれない、しかし警戒しておくことに悪いことはない」

「そうね。分かった」


ナイトの言っていることに間違いはない。それがある可能性があるなら警戒したほうがいい。ナイトは格好はあれだけど、頭の回転や知識などは、勇者に相応しいと思う。


「なぁナイトー!」

「どうした」

「あとどんくらいで、その四天王がいるってとこに着くんだ?」

「もう少しだ」


――もう少し……! この前遭遇した道化と同格の魔族との戦いが眼前に迫っている。あの2週間の間に、上級魔法を習得することは叶わなかった。だが、この日のためにできるだけ準備してきたつもりではある。私がどこまで通用するかは分からないけど、ナイトのサポートに全力を尽くそう。


私が覚悟を決めた時、突風が吹き出し、砂ぼこりが舞った。目に砂が入って痛い。


砂によって作られた霧が晴れた後、一番にブラムが声を上げた。


「おい! 見ろよあれ!」


砂を払いながら、ブラムの指差した方向に視線を向けると、怪我をしているのだろうか? 大柄な男性が横たわっている。注視すると、腹部から血を流しているのが分かる。


「あの人! ケガしてるわ!!」

「マジか!?」

「そうか」


私達が慌てて駆け寄ると、男は腹部をおさえながら、「うぅ!」と悶え苦しんでいる。ブラムが抑えている手を退かし、私は杖を構える。


「【中級回復魔法(ヒール)】」

「あれ……! どうして、回復魔法が効かない!?」


男の傷はすぐに回復すると思われたが、私の回復魔法は意味をなさなかった。ナイトは、動揺する私を一瞥し、落ち着かせると、男性の方へ目を向ける。


「これが、『不治』か」

「『不治』って、さっき言ってたやつか!?」

「ああ。どうやらこいつは四天王と遭遇し、やられてきたようだな」

「どうしよう!? この人、このままじゃ死んじゃう!」


不安げな表情でナイトの目を見つめると、いつも通り冷静な顔で例の台詞を呟いた。


「問題ない。こう言う時のため、既に対策は済んでいる」

「マジか! すげぇな!」

「本当!?」

「ああ」


ナイトはそう告げると、男の前で少しかがんで右手を患部の方へ近づける。どうやら、その『対策』とやらを発動したようだ。


「【勇者奥義:其の肆(ブレイブ・フォース)】」

「【ダメージ・シフト】」


ナイトが技を発動すると、男の傷がみるみる消えていった。反対に、ナイトのお腹には、切り裂かれたような傷が現れ、血を吹き出している。


「おい! ナイt――」

「ちょっとナイト! 大丈夫!?」

「問題ない……。それより、はやく治せ……」

「あっ、うん。ごめんね」

「【中級回復魔法(ヒール)】!!」


私が傷を治し終わると、ナイトが立ち上がり、自分が行ったことの説明を始める。


「俺が今発動した【ダメージ・シフト】は、対象者の持つ呪いやダメージなどを肩代わりする技だ。『不治』の効果が呪いなのかは正直賭けだったが、大丈夫だったようだ」

「ナイトはすげーなぁ!!」


ナイトが使った技では、『不治』の効果までは移らなかったらしい。それはこの技の弱点ではあるかもしれないが、この状況におけるそれは好都合だ。


――ん? 「賭け」?


「いやちょっと待って!! それ、呪いだったらどうしてたのよ!!」

「問題はなかった。それだけが真実だ」

「いや、問題大ありでしょ! 私、解呪まではできないよ!?」

「む、使えんな」

「いやなにそれ!?」


何この人? 信じられない!! 理論的じゃないわ!!


「まぁ! その話はいいじゃねぇかよぉ! ナイトも無事なんだし。そんなことより、飯! 昼メシだ!」

「そうだな」


――いや、「そうだな」じゃないんですけどぉ!?


次回、四天王戦入ります!! 今回はフィオナを活躍させるつもりです!!

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