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第21話 服を着る

あの後、1時間以上店員さんの着せ替え人形として服を着せられ続け、私はヘトヘトを通り越して、ホナホナになっていた。


店を後にした私の手には、大量の紙袋が抱えられていた。水着にバスローブ、冬服から夏服、下着まで数多くの衣類をいただいた。


あの採寸は恥ずかしかったけど、悪いことだけじゃない。今私が着ている服はとても気に入っている。かわいいカラーにピッタリとしたサイズ感、あの店員さんはヤバい人ではあるけど、技術は本物だ。


そして、あの店員さんに服を着させられている中、一つの魔法のインスピレーションが浮かんだ。


その魔法は、【服を着せる魔法】。普通の人からしたらただの便利な魔法。しかし!! 私にとってはナイトに服を着せることのできる最高な魔法なのである!


とにかく、あの店員さんから得られたものは大きかった。感謝しかない。


そんなことを考えながら、ズラッと並んだお店の前を歩いていると、前から誰かが手を振りながら近づいてくる。


「あ! フィオナじゃんよー!」


その人物が誰か気づくのに時間はいらなかった。ブラムだ。


「ブラムじゃない」

「いやー。歩いてたら偶然フィオナが前にいたからよぉ!」


ブラムはアイスクリームを片手に服屋さんの片方の手には、洒落っ気の無いブラムには珍しく、服屋さんの紙袋が携えられていた。


「ブラムも、何か買ったの?」

「あー。これな」


ブラムの持っている紙袋に目をやりながら、尋ねると、意外な返答が帰ってきた。


「これ俺のじゃねえんだよな」

「そうなの。誰かの落とし物?」

「いや、そういうわけでもない」


もしかして、ブラムに彼女ができたのかもしれない!! だとしたらブラムが女の子の荷物を持つのは納得できる。


よかったわねブラム。私は応援してるわ。


「今日は誰と来たのー?」

「あーそうだなぁ。俺も驚いたんだけどよぉ」

「うんうん!」

「ナイトと一緒に来たんだぜ!」

「へ〜ナイトちゃんって言うのー!」


――って、ナイト!? ナイトって言ったわよね!? だったらこの荷物誰のなのよ!! まさか……あのナイトが自ら服を!? やっぱり、言えば伝わるのね。


「待って、ナイトが服を買ったってことよね!?」

「ああ、そうだ」

「ちょっと、中身見せてくれないかしら?」

「全然オッケーだぜ」


そう言ったブラムは、私に紙袋をあずける。私が紙袋の中をのぞくと、純白の布が入っている。


やっぱり、ナイトは分かってくれたんだわ!! ようやく町中で服を着る気になったのね……! 司書さんに怒られてたし、心を改めたのかな?


「ブラム、すごいわね。これ」

「ああ。すげぇ」


私とブラムがヒソヒソと語っていると、背後から突然声が聞こえてきた。


「何故俺の荷物を盗み見している?」

「「ギャァァァァア!!」」


ナイトだ……!! この人いつも気づいたら背後にいるし、なんなのよ。


「びっくりしたぁ! やめろよナイト」

「心臓に悪いわ……」

「お前達こそ、俺の荷物を勝手に見るな」

「「ごめんなさい」」


今はただ、私達を軽蔑したような目で見つめてるこのナイトが、服を着る気になってくれたことが嬉しい。


「ねえナイト!」

「どうした」

「ようやく服を着る気になってくれたのね!」

「……」


ナイトは一瞬、真顔になって黙った。マジで一瞬だけ。そして、次に口から出た言葉は意外という言葉しか見つからない一言だった。


「何を言っている?」

「え?」

「これはただのマフラーだ。服ではない」


――??? なんでこの人、全裸にマフラーつけようとしてるの?? もうただの変態じゃん!!


「え? なんで、全裸にマフラーつけるってこと?」

「そうだ」

「どうして!?」

「わざわざ毎度ボディスーツを新調するのは効率が悪いことが分かった。普段から力を抑えるためのアイテムが必要だったのだ」

「それで、マフラー?」

「ああ」

「どうして!? シャツとかでよくない!?」

「シャツでは、制限される力が大きすぎる。丁度良いアンバイがこのマフラーだったのだ」

「えぇ……」


どうやら、私達の期待は裏切られたみたい。いや、もうこの人に服を着る事を期待するのは良くないんじゃないかな。


「まぁ元気出せって! フィオナ!」

「うん。ありがとう」


ナイトの服のことでこんなに一喜一憂している自分がバカバカしくなってきた。私は一応学院ではクールなフィオナさんとか言われてたのに。


――理論派でクールな私を返して。


これが、全裸に白いマフラーの勇者の誕生エピソードである。


次回から旅進めていきます!

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