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第12話 VSピエロ

魔法防御は間に合わない。私は死を覚悟した。いや、嘘だ。そんなことは人間にはできない。覚悟なんてできずに、一瞬の長い思考のなかでただ死の恐怖に戦慄し、目をつぶった。医務室には赤い球の爆発音が鳴り響く。私は驚いた。爆発音を聞けている? 


「悪い。戻ってくるのが遅れた」


私が目を開けると、まず最初に大きな胸筋が目に入る。その次に、額に汗を垂らしたナイトの顔が見えた。私は恐怖と安堵の温度差に泣きながらナイトに抱きつく。


「離せ。このままでは戦えないだろう」

「ジュルッ! うん。ごべんね」


ナイトは身体についた私の鼻水や唾液、涙などが混ざった液体を毛布で拭いながら、道化の男を鋭い眼光で睨みつける。すると道化は笑いながら、


「アナタが勇者ですネ?」

「ああ。そうだ」

「ナゼ全裸ナのデス? 教えテくださィ」

「断る」

「貴様と会話するつもりはない。」

「私、ションボリでス」


ナイトは虚空から鋼の剣を取り出し、戦闘態勢に入る。私が杖を構えようとすると、


「フィオナ。お前にはブラムの回復を任せる」

「で、でも!」

「問題ない。俺は一人で十分だ」

「わかった!」


敵に向かっていくナイトの背中には、大丈夫だと言う確かさがある。私はブラムに【解毒】をかける。毒は少しづつ分解されているようで、少しずつ息が落ち着いていく。


「勇者。私とお遊ビしまショウ」

「貴様と馴れ合うつもりはない」

「そうデスか。ならお遊ビ無しでイキマしょウ」

紅蓮球(クリムゾン・オーブ)連投(エターナル)


すると、さっきまでとは比べ物にならない、無数の球がナイト目掛けて振り注ぐ。しかし、ナイトは動じない。


「連撃斬」


無数の球の全てをナイトは空中で切り払っていく。全ての球が爆発したところに、ナイトは反撃に出る。地面を強く踏みしめ、道化の眼前まで迫る。


勇者奥義・其の一(ブレイブ・ファースト)

「ブレイブ・スラッシュ!」


しかし、ナイトの刃は道化には届かない。喉元スレスレに、道化はナイトの剣を避けた。


「危なカったデス。後0.03秒後ろニ下がルノが遅れてイタら、首をチョン切られていまシタ」

「ブレイブ・スラッシュ」


ナイトの勇者奥義の連撃も、道化は最小限の動きで避けてしまう。


「ほう。なかなか手強い相手のようだな」

「私ハ手強いデスカ? ソレは光栄デス」

深緑球(グリーン・オーブ)連投(エターナル)


次にナイトに向かって投げられた球は緑色。ブラムが盾を奪われかけた時の球だ。


「ナイト気をつけて! その球から出てきた根っこが武器を絡め取ろうとしてくるわ!」

「理解した」

「連撃斬:MAX」


そうするとナイトは、さっきよりも一段速い速度で球と、そこから生えてくる根っこを刻んでいく。私は球に【鑑定】を使ってみる。その球は様々な魔力のこもった球と表示された。こんなことじゃ、何も分からない。

――待って、鑑定で敵の情報をみれば、弱点がわかるかも。なんで今まで思いつかなかったんだろう。


――鑑定!


ウィオネ Lv68

HP:37000/36998 MP:12300/9700

耐久力:8702 腕力:16058 脚力:4303

敏捷性:7624

特技           性格

【魔法球】          残虐

【最適回避】

【瞬間移動】

スキル

【幻】


――な、なにこれ……。腕力だけならブラムの3倍以上じゃない!?


「ナイト、気をつけて! そいつ、腕力がものすごく高いわ!」


全ての球を切り終えたナイトは「理解した」と言わんばかりに、一瞬こちらに視線を向け、反撃に映る。素早い剣技が道化を襲う。しかし道化はまるで木から落ちる木の葉のように、ナイトの剣を全て避けてしまう。しかし、ナイトもただ我武者羅に剣を振っているわけではなかった。道化の最適な回避の動作のほんの少ない隙間を狙って、横に剣を構える。


「イデッ!!」


ナイトの剣が道化に命中すると、続け様にナイトは剣技を連発していく。その姿はまるで王都で流行ったゲームのボーナスタイム。一方的な連撃が続いた。しかし道化もただ切られ続けるわけがなかった。切られ始めて4秒後にはもうすでに、ナイトの剣の向かう先には誰もいない。それに気づいたナイトは「ハッ」と顔を上げた。


「瞬間移動。残しトイてヨカッタヨ」

「アナタ少々手強いデス。私モ『真の力』使いマス」


道化がそういった瞬間。道化の身体が溶けて行く。いや、少し違う。溶けているのではなく、剥がれている。剥がれた道化の中から何かが覗いているのがわかる。なかから現れたのは赤黒い肌の色をした、笑っているのか、泣いているのかそれとも怒っているのか、どの表情ともとれる顔をした不気味な化け物だった。動くたびに増える腕はまるで悪魔のようで、私の指先は小刻みに震えていた。


「勇気ヨ。こノ俺を倒せるカ?」

「ほう。さっきまでの態度と見た目は幻だったか」

「そンな事はどうデモよい!」

「質問にコタえろ!」


天井を破壊した、もう道化とは呼べない姿の化物は、勇者に問いかけた。しかし問われる前から、もうすでに結論は出ていた。雨が降る中。部屋の中央に佇む化物にナイトはこう返した。


「――問題ない」


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