第4話「青とmacoto…それぞれの未来編」
とある街のはずれ……
風が草原を撫で、柔らかな葉擦れの音を運ぶ。
かつての戦いで瓦礫となった街の外れに、ぽつんと佇むひとつの墓標。
名前は刻まれていない。
ただ、無骨な金属片と焦げた布地が一緒に埋められているだけ。
そこに、Macotoが立っていた。
彼の両手には、野の花がひと束。
摘んできたばかりなのか、花びらにはまだ朝露の名残があった。
彼はその小さな墓の前に膝をつき、静かに花を手向ける。
「来たわよ…バカ弟子……」
「だいぶ遅くなったわね…」
短く呟く声は、風に流れるほどの静けさだった。
macotoはこの一年半、この墓に来る事ができなかった。
彼の最後を青から聞き、気持ちの整理がつかずにいた……
そのまましばし目を閉じ、沈黙の祈りを捧げる。やがて、足音が一つ、後方から近づいてくる。
「来てくれたのね……青……」
背を向けたまま、Macotoが言う。
来たのが誰か、分かっていた。
「ああ……」
「あの頃を思い出していたら遅くなった…すまん」
青が静かに隣に立つ。
二人の間に会話はしばしなかった。
ただ、墓を見つめる時間が流れる。
足元には、瓦礫の破片。戦火で歪んだ鉄骨。
何十年と経っていてもそこには凄まじい戦いがあった事が伺える。
そして、その中に、確かに命を賭して仲間を守った男の痕跡が、残っていた。
青がおもむろに口を開く…
「最後に、あいつの背中を見たときさ……」
「思ったんだ…」
Macotoが青を真剣な表情でみつめる。
「ヴォルケンはまた俺たちを守ろうとしてるんだって」
青はそっと目を伏せる。
「変わらないな、あいつ」
「俺たちが守ろうとしてた街で、最後まで、誰よりも前を走ってた」
「どんな戦場でも必ず先陣を切っていたのはヴォルケンだった」
あの日、ヴォルケンはビルの下で、自爆に近い形で敵の中枢を吹き飛ばした。
街と、仲間と、未来を守るために。
彼は、誰よりも不器用で、誰よりもまっすぐだった。
macotoが涙を堪えるように空を仰ぎながら……
「俺の命なんかで、みんな守れるなら安いもんだぜ!って…いつもいってたもんね…」
「ホント……バカなんだから…」
Macotoの顔に、かすかな笑みと涙がこぼれる……
それは、懐かしさと哀しみと、誇りの混じった、静かな表情だった。
青は、そっと墓標の前に膝をつき、彼が大好きだったミルクを置いた。
「ヴォルケン…あの時、僕を助けてくれてありがとう」
「未来を仲間を救ってくれてありがとう」
「君は俺たちの誇りだ!」
青が胸に手を当て深々と頭を下げる
「ヴォルケン…ありがとう」
「あんたみたいな弟子をもてて良かった…」
「ゆっくり休んでね…」
macotoも涙を流しながら胸に手を当て頭を下げる…
……ありがとう、ヴォルケン
風が、再び丘を吹き抜けた。
まるで呼応するように…
心に、それぞれの想いを浮かべながら……
2人の男は、黙って墓標を見つめていた。
「おじいちゃーーーーん」
「macotoおじちゃーーーーん」
リィナの声が響き渡る。
オディゴスも一緒だ。
「どうした?リィナ?」
「我が主、macoto様…」
「少し失礼いたします」
「リィナがお二人に見せたいものがあるようでして…」
「あら?オディちゃん」
「どうぢたのよ?改まって…」
リィナが真剣な表情で二人に話始める…
「あのね…私の力…心音共鳴なんだけど…」
「オディちゃんと訓練してかなり進化したの」
「幻影?っていうのかな?」
「その人の思い出や心の中を目の前に映し出すことができるようになったんだ」
「しかもね…触れるんだよ!!匂いとかも全部本物見たくできるの」
「リィナ!すごいじゃないか!!」
「頑張ったんだな!」
青がリィナを抱きかかえながら褒める
「まって、おじいちゃん!」
「それだけじゃないの!!」
青はリィナをそっと降ろす。
「まだやったことないんだけど…」
「オディちゃんが言うには、その場所の思念?も形にできるんじゃないかって」
「だからね…macotoおじちゃんに会わせてあげたいの」
「ヴォルケンさんを!!」
macotoが目を開いて驚いている…
オディゴスが割って入る。
「主…リィナの力はまだ不安定でございます」
「時にそれは暴走という形で現れます」
「その時は中断させていただきます」
「わかったオディゴス」
「僕も全力で止めるよ!」
リィナが目を瞑り集中する。
「じゃ…行くね…」
リィナの身体が白く発光し始める。
周りがゆっくりと歪んでいくのがわかる。
そこにぼんやりと白い影が産まれてきた…
白い影はだんだんとはっきりした形になっていく…
「よう!バカ師匠~」
「…………っ…」
macotoの頬に涙がこぼれ落ちる…
「このバカ弟子…かっこつけるんじゃないわよ…」
「年取って涙もろくなったんじゃねーか師匠」
「うるさいわね!ヴォルケン!!」
「目にゴミが入ったのよ!!」
macotoはヴォルケンの肩を叩く…
「いってーなーーー」
ヴォルケンは笑いながら青の方を向く
「青さん!」
「仲間達を俺の家族を守ってくれてありがとう」
「ヴォルケン…礼を言うのは僕のほうだ」
「助けてくれてありがとう!」
「青さんに褒められるとてれるな…」
「これからも俺の大切な家族をお願いします」
「ああ…ゆっくり休んでくれ…」
「リィナちゃん…最後に二人に会わせてくれてありがとな…」
「もう時間がないな…」
リィナの身体が震えている…体力が限界を迎えているようだ…
「師匠!」
「俺を育ててくれてありがとうございました!!」
「ヴォルケン…また会いましょう…」
「本当にありがとう…お疲れさまでした…」
macotoはヴォルケンを強く抱きしめた…
彼の身体が蒸発するように消えていく…
「じゃあな!!あばよ!!」
ヴォルケンは煙の様に消えていった。
景色が元に戻っていく…
力を使い果たしたリィナが倒れこみそうになる…
オディゴスがリィナを抱きとめた。
「リィナ!!」
「リィナちゃん!!」
二人はリィナの元に駆け寄る
「えへへ…できた……」
「macotoおじさん…ごめんね…」
「もっとリィナに体力があったらもっと一緒に居れたのに…」
「何言ってんのこの子は!!」
「リィナちゃん…本当にありがとう…」
「ヴォルケンに会わせてくれて…」
macotoは涙ながらにリィナに礼を言う。
「リィナ大丈夫かい?」
「うん…ちょっと疲れちゃっただけだよ…」
ほっとする青。
オディゴスは青にむけ深くうなずく。
「では我々はこの辺で失礼いたします」
「リィナを少し休ませなければいけないので」
「オディゴス…リィナを頼む」
「御意」
オディゴスはリィナを抱きかかえ家路についた。
リィナはオディゴスの腕の中で静かに寝息を立てていた。
ーーーBAR TRDーーー
木製のカウンターに、柔らかなランプの明かりが反射している。
店内には古いジャズが流れ、落ち着いた雰囲気の中に懐かしさがある。
ここはトライデントを引退した元総リーダーmacotoのお店。
「BAR TRD」
内装、雰囲気は過去にあつた「BAR hazama」にそっくりな作り。
macotoが三人をエスコートする。
「さぁ、入ってちょうだい」
「今日は休みだから貸し切りよ!!」
macotoがカウンターの中に入る……
「とりあえず、乾杯しましょう!」
レオが何かを察しているかのように明るく振舞っている。
「今、ビール出すわね~」
macotoは手際よくビールを注ぐ…5杯…
そこに誰一人疑問を抱く人間はいなかった。
レオが乾杯の音頭をとる。
「それでは…新生トライデントとヴォルケンさんに乾杯!」
「カンパイ・・・」
各自が誰も座っていない中央においてあるビールにグラスを重ねる…
一瞬静寂が訪れるがmacotoがそれを許さなかった。
「ほら!あんたたち!!」
「しみったれた顔してんじゃないわよ!!」
「今日は朝まで飲むわよー!!」
「そうだな…酒は楽しく飲むもんだ!!」
青が続けた。
さらにジョシュが重ねる。
「兄貴!ペペロンチーノ食べたい」
「あんた~いっつもそれね~」
「もうペペロンチーノと結婚しなさい」
「ジョシュさん、そんなにうまいんですか?」
「レオ!君まだたべたことないのかい?」
「兄貴のペペロンチーノは宇宙一だぞ!」
「えっ!本当ですかー!!」
「macotoさん!俺も食べたいです!!」
「りょーかーい」
「ニンニクガチ盛りの作るわね!!」
「今日はエレナちゃんとチューできないわよ~」
「………なっ……」
レオが顔を真っ赤にして慌てている。
macotoはそう言うと手際よくパスタを作り始める。
ジョシュがレオにペペロンチーノのウンチクを語り始めた。
それを青は微笑ましく眺めている。
……そこへ……
「おじちゃーーーーん!!」
「お腹すいたー!!」
「こんばんわー」
「macotoさん来たよー」
「エレナ、リィナ…オディゴスまで!!」
青が驚いた表情で三人を見つめる。
「すみません…主…」
「ご迷惑なら、私が家に戻り食事のご用意をいたします…」
「オディちゃん!!だめーーーーー!」
「今日はみんなでご飯なのー!」
「パパ、macotoさんに呼ばれたの」
「たまにはみんなでご飯たべようって」
「だからゆるして」
青はフッと笑うと…
「あぁ、そうだな」
「たまにはみんなで食べよう」
「オディゴス、座ろう」
「ありがとうございます。我が主」
恐縮するオディゴスに青は笑顔で話しかける。
「そう固くなるなよ」
「とりあえずビールでも飲めって!」
「エレナーーー!オディゴスに特大ビールを出してくれー」
「はぁーーーーい」
「主、私はお酒は…」
「主君の酒を断るのか?」
「いえ…主君の命は絶対ですので…」
「オディゴス…飲ませていただきます」
そういうとオディゴスは一気に特大ビールを飲み干す。
「オディちゃんすごーい!!」
リィナが満面の笑みで盛り上がっている。
macotoがペペロンチーノを運んできた。
「エレナちゃん、リィナちゃん、オディちゃん~」
「いらっしゃい~」
「ちょっと待ってね、先にわんぱく坊主達の腹をいっぱいにするから!」
「はーーーい!」
カウンターの左から、レオ、ジョシュ、ヴォルケンの席…
その隣に青、オディゴス、リィナ、エレナが座った。
macotoはカウンターの中で皆と会話をしている。
「さぁ〜リィナちゃん〜」
「何食べる〜??」
「ん〜〜どうしよう…」
「おじいちゃん!何が良いと思う??」
「macotoおじちゃんのチャーハンは絶品だぞ!!」
青は昔良く食べていたチャーハンをリィナに勧めた。
「パパよく食べてたね〜」
「私も久々にたべたいなぁ〜」
「じゃそれにする〜」
「オッケー!」
「ちょっと待っててねん」
BAR中に美味しい匂いが広がる。
みんな良い顔で笑っている。
オディゴスが青と語らう…
「我が主……」
「とても幸せな光景ですね…」
「そうだな、オディゴス…」
「しかし、3年後には…」
「オディゴス…今日だけはこの幸せを噛み締めよう…」
「大丈夫だ。僕達なら乗り越えていけるよ」
「はい。我が主」
「微力ながらこのオディゴス、尽力いたします……」
「あの…主……」
「おかわりをいただいても……」
「ああ!飲もう、オディゴス!」
macotoがチャーハンを作ったリィナとエレナに提供する。
「ん〜〜良い匂い〜」
リィナはスプーンを持ってワクワクしている。
「いただきまーーす」
「んーー!おいしーーい!!」
リィナはご満悦だ。
「オディゴスも少し食べて」
「はい。エレナ様」
「いただきます」
「もぅ〜いつまでエレナ様なのよ〜」
「私も食べる〜」
「あー懐かしい味だー」
みんな美味しそうな良い顔をしている。
macotoが青にそっとウイスキーのグラスを差し出す。
「未来の若者達に乾杯」
チンッ……
「……乾杯」
2人の間に言葉は必要なかった…
あの日の過去が、経験が、絆を強くした。
皆が食べ終わり、エレナとオディゴスが手際よく片付ける。
「エレナ様、あとは私が……」
「お願いいたします」
「うん」
「リィナ…はじめようか…」
「はい。ママ」
エレナがカウンターの方を向いて、皆に話し出す。
「みんな、楽しい時間にごめん」
「少し、聞いてほしい話しがあるんだ…」
皆が真剣な眼差しエレナを見つめる。
「向こうの円卓に移動しよう」
青が声をかける…
エレナとリィナは座らずに話しを始める
「まず…私の能力、時渡の眼が進化したの」
「2秒前の予知から、未来が視えるようになった…」
「リィナ…」
「はい」
「私の心音共鳴も進化したよ」
「今までは誰かの考えてる事を相手に伝えられる能力」
「それがね、相手の思考とか、そこに漂ってる思念を形として見せられる…幻影を見せれるようになったの」
みんなが感心している所でエレナが続ける…
「あのね、私達の未来に黒い陰が迫っている」
「3年後に…この世界を脅かす何かがくる!」
「まだはっきりとは視えないんだけど……必ず陰はやってくる」
ジョシュが口を開く
「エレナちゃん…今まで1人で抱えていたんだね……」
「トライデントの戦力をもっと強化しなきゃならないな、レオ!」
「はい!リーダー!」
青が2人に提案をした。
「ジョシュ…トライデントを分隊制にしないか?」
「分隊制…ですか?」
「ああ。幸い、新入隊で力のある新人…AKANE、リク、ヨル、ガンマが入ってくれた」
「レオの隊を1番隊として5番隊の5つにわける」
「各隊長の特徴で隊員を振り分けて強化していくのはどうだろう?」
「青さん…いいですね!」
「さっそく明日から取り掛かります!」
「ごめん、エレナちゃん続けて」
「うん」
「私がみた未来を今からリィナに映像として映してもらう」
「リィナ、お願い…」
エレナは強張った表情でリィナに頼んだ。
「おっけー」
「行くよ」
リィナは集中してエレナの記憶を覗き、映像化していく……
3年後の未来が断片的に映し出される…
そこには、血だらけのレオの姿、倒れたジョシュ……動けないトライデント隊員達の姿が次々と映し出される…。
リィナが泣きながら、心音共鳴の力を使う……
レオが叫ぶ。
「リィナ…もういい!止めるんだ!!」
しかしリィナは唇を噛み締めてそれを拒んだ。
「ダメ!!パパもちゃんとみて」
「ママ1人にこんな辛いの見せられない!!」
「しっかりみなさい!!」
リィナの怒声が店内に響きわたる。
悲惨な映像が終わりを告げる…
リィナが息切れしながら…
「これで全部………」
「リィナ!!!」
青が立ち上がりリィナを抱き抱える。
「強くなったな……リィナ…」
「うん。ママもパパも私が守る!」
リィナは青の腕の中で意識を手放した……。
エレナが泣いている…レオがそっと寄り添う…
「ごめんなさい……せっかくみんなで集まって楽しかったのに…」
青がリィナを抱きながらエレナに語りかける。
「エレナ…謝らなくて良い」
「これは大切な事だ」
macotoが相変わらずのテンションで会話に入ってくる。
「あんた達〜」
「エレナちゃんとリィナちゃんのおかげであたし達はアドバンテージがあるのよ!」
「やるべき事をやりなさい!」
「あたし達ジジイの力が必要ならいつでも老体に鞭打って行くから〜ねぇ青」
「僕も老体なのか!」
「アンタ!あたし達より歳上でしょ!!」
みんなが一斉に笑いに包まれた。
エレナが涙を拭いて立ち上がる。
「マスターありがとう!」
「泣いてなんかいられない!」
「もう誰も傷つけさせない!」
macotoがジョシュの尻を叩く
バチーーン!
「ホラ!アンタがまとめなさい!」
「兄貴…」
「よし!」
「トライデントは分隊制にしてより強化する!」
「レオ、明日からよろしく頼む」
「ハイ!リーダー」
「青さん、兄貴…いや前リーダー」
「明日から、AKANE、リク、ヨル、ガンマのトレーニングをお願いできますでしょうか?」
ジョシュが深々と頭を下げる。
「リーダー…わかったわ」
「潰しちゃったらごめんね〜」
「ジョシュ。OKだ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
「オディゴス…散々僕達の事で振り回せてしまってすまない」
「また、力を貸してほしい」
「ジョシュ様…私は我が主のため…我が主に関わる全ての幸せのために存在しております」
「なんなりとご用命ください」
「ありがとう…オディゴス」
「さて、エレナちゃん」
「君には辛い想いをさせてしまう」
「いやならやらなくて良い…」
続けようとするジョシュをエルナが遮る…
「ジョシュ!私が誰の娘が知ってる?」
ジョシュが一歩引く…
「私は武神…」
「月影 青の娘!!」
「月影 エレナ!」
「大丈夫。ジョシュありがと」
「そうだった…」
「君もトライデントの隊員だからな」
「任せたぞ!エレナ!」
「はい!リーダー!」
「リィナちゃんは寝てるか…」
青が珍しくジョシュを一喝する。
「ジョシュ!!!」
「遠慮は判断を鈍らせる」
「優しさは時に残酷な道になるぞ」
「お前が思った通りにやるんだ!」
「青さん……」
ジョシュが腹の底から大声をだしてリィナを呼ぶ
「起きろ!!リィナ」
「トライデントの隊員たるもの気合いを見せろ!」
リィナが訳もわからず立ち上がる。
ジョシュが続ける。
「リィナ!君は今後、大事なキーパーソンになる」
「もっとトレーニングして体力と精神力を鍛えよ!!」
「は…はい……リ…リーダー…」
と言うと、また青の腕に倒れ込んだ。
(すごいな…この家族は…)
純粋に心の中でジョシュはそう思った。
過去を救った英雄「青」
時渡の眼を進化させ前に進む「エレナ」
まだ幼い少女なのに数々の試練を越えてきた「リィナ」
みんなが自分の事ではなく大切な何かを守るために力を使う…
ジョシュは改めて気持ちを引き締めた。
「今から三年…」
「どんな敵が来ても、何があっても…」
「みんなで乗り切ろう!!」
「以上!」
「今日は思う存分楽しもう!」
「さぁさぁ!みんなガンガン飲んで食べて頂戴!!」
「今日はトライデントのリーダーのおごりよ~」
「兄貴!!」
みんなが笑いに包まれた。
夜が静かに更けていく……
「さて…私たちはお先に失礼するね」
エレナが席をたつ。
リィナが青の腕の中で目を覚ます。
「あっ…ごめんなさい…」
「わたしずっと寝てた…」
「リィナ、起きたかい」
「しょうがないよ、昼間から力を使いすぎたね」
「わたし頑張らなきゃ!!」
「またみんなで宴会してね~」
リィナはオディゴスの手をつかみエレナと共に店を出る。
「あっ!エレナ、俺も行くよ」
「レオは残っていいよ」
「憧れの先輩方と一緒に飲めるなんて貴重でしょ~」
「今日は許してあげる」
「エレナ…ありがとう」
「今日は甘えてそうさせてもらうよ」
三年後、確実に訪れるその日。
迫りくる影はまだ遠く、しかし確かにこちらへと歩みを進めている。
だからこそ今は、こうして共にいられる時間を、心から大切にしたかった。
「3年じゃない」
「3年もあるんだ」
「でも、僕たちならきっと大丈夫だ」
macotoは静かにうなずく。
戦いはまだ遠い。
けれど、心の中ではもう始まっている。
この3年をどう生きるかで、未来は変わる。
それを信じて、ふたりは目を閉じた。
寄り添いながら、静かに夜を超えていく。
3年後、今日の約束が、確かな光となって蘇るだろう。
希望は、ここから始まる。
その日は、確かに来る。
だが、彼らもまた、それを迎え撃つために歩みを始めている。
それぞれの想いを胸に。仲間たちと共に。
静かな夜に、小さな誓いが、確かに刻まれた。
狭間の暁 ―After the Fall―
「青とmacoto…それぞれの未来編」完