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204.北の果ての国-2
ある国境付近の街で、彼はひとりの少女と出会った。
少女は建物の前で必死に何かを叫んでいる。
片手にはスマートフォンがあり、誰かに連絡を取っているようだ。
彼は彼女に近づいた。
彼女には彼の姿が、彼女にとっての身近にいる他人に見えている。
彼が何をしているんだい、と彼女に尋ねると、彼女は笑って、兵士にこの場所を知らせているのさ、と言った。
彼は咄嗟に彼女を抱えてその場から逃げ出した。
建物の前には落ちたスマートフォンが、不思議な音を鳴らしている。
彼女は何をするの?と彼を睨んだが、彼は彼女に答えない。
しばらくするとスマートフォンのある場所にミサイルが飛んできて、コンクリートの大きな建物を吹き飛ばした。
彼女は、私の仕事もこれで終わりね、と気が触れたように笑って言った。
彼は彼女に何も言わなかった。
彼女を近くの避難所に預けて、彼はその場を立ち去った。
“戦争とは、このようなものなのか”
彼は無惨に破壊された建物の前でひとり呟いた。