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202.殉死者の墓地
ある夏の日のこと。
彼は両手に自宅の庭から摘んだ大きな向日葵の花束を抱えて、ひとり騎士の館の裏側の小高い丘の麓にある、共同墓地を訪ねた。
ここには歴代の騎士達の墓が集められている。
中には彼が世話になった古い知人のものもあり、知り合いの墓のひとつひとつに花を備えていく。
墓碑には故人の生没年が書かれており、彼が供えた花の墓碑の没年は、かつての内戦の前後の年のものばかりだった。
花束は半分ほど残っていた。
彼は手元に残っていた全ての向日葵の花を、彼が一番親しくしていた人の墓に供えた。
それは円卓の騎士であった者で、内戦で命を失くした者のひとりであった。
彼はその時のことを忘れない。
その騎士が何故命を失い、人の世を永遠に去ったのが、彼は忘れることはなかった。
彼が墓地で長い時間佇んでいると、俄かに曇り、やがて小雨がぱらつき始めた。
彼はそれでもその墓標の前から動こうとはしなかった。