199.中央探索の騎士である彼女の話-1
その年は彼女にとって、人生の大きな転換の時となった。
“私がまさか円卓の騎士に名を連ねることになるなんて、思いもしなかった”
彼女は祖国の灰色の空ではなく、常緑の照葉樹が茂る小さな港街の明るい青空を見上げた。
昨年末の円卓会議で中央探索の騎士の席への異動が決まった後、同じく東方執政の騎士の席に異動した彼女の兄と共に、国の宰相である魔術師の元を訪れた。
宮殿の一室に居を構える宰相は常に多忙で、面会の予約も年明けすぐには、取ることが叶わなかった。
宰相との面会までの彼女に与えられた時間の中で、国一番の叡智ある者で永遠の若さと美貌を兼ね備える女性、とはどういった方なのだろう、と彼女は興味深く知人の諸侯達から宰相についての情報を集めていた。
彼女の兄は宰相への面会予約だけ済ませると、国に訪れた冬の大雨による災害対応のため年明け早々彼女をひとり残し任地に向かっていった。
彼女は与えられた騎士の館にある執務室で、中央探索の任についての事前の調べを進める。
ー探索の任とは
ー探索の任に必要なものとは
ー探索の任で赴く場所について
“そうだわ。失踪して行方知れずの南方探索の任にある彼女の情報も探らなくては”
ー任地での南方探索の騎士の情報収集
中央探索の任にある彼女は、いくつかの事項を自分のメモに列記して、その準備をテキパキと行なっていく。
やがて宰相との面会の日になった。
彼女は宮殿で、東方執政の任にある彼女の兄と合流した。
東方執政の騎士である彼は、山のように書類を抱えていた。
面会の期日に間に合わせて東方領の災害復旧に関する計画案を作成してきた、とのことで、宰相以外にも財務卿などの国の重鎮との面会予定もいくつか組んできたという。
2人がお互いの任について短い打ち合わせをしていると、国の宰相との面会予定時間になった。
彼女は彼女の兄と共に、国の宰相である魔術師の執務室に足を踏み入れた。